2003年7月発売
パリの町で出会った妖精のような若い女・ナジャー彼女とともにすごす驚異の日々のドキュメントが、「真の人生」のありかを垣間見せる。「私は誰か?」の問いにはじまる本書は、シュルレアリスムの生んだ最も重要な、最も美しい作品である。1963年の「著者による全面改訂版」にもとづき、綿密な注解を加えた新訳・決定版。
「お願いがあるの」あの日の午後、グレタが寝室から声をかけなかったら…。すべては、バルト海から風が吹きつける、あの寒い午後に始まった。絵のモデルとなる女性が来られなくなり、妻が思いついたのは、夫に女性用のストッキングと靴を穿いてもらうことだった。夫は承諾するが、それが20世紀初めの、もっとも激しく奇妙な愛の物語の始まりになるとは知る由もなかった。デンマーク人の画家アイナー・ウェゲナーと、やはり画家で、アメリカ生まれの妻グレタ。事実に基づいて書かれた本作は「愛する人の変化に、どう対処するか?」を問いかけてくる。グレタが授けたリリーという名前で、女性の服を着るようになっていくアイナー。ゲームのような夫婦関係は、やがてそれぞれに大きな決断を迫るのだった。リリーをモデルにしたおかげで、グレタの絵の才能は花開く。フランス人の美術商が彼女の絵に目を付け、夫婦はパリへ移り住むが、ふたつの大戦に挟まれたパリの自由な空気はリリーをさらに解放し、アイナーの存在は徐々に記憶のなかに消されていく。ドレスデン婦人科病院での、ある外科手術を知ったグレタの勧めで、アイナーは、永遠に「リリー」になるべくドイツへと旅立つが…。
秋にアフリカに渡り、春、欧州に戻るコウノトリがなぜ今年はかなりの数帰らなかったのか?調査に発つ直前、青年ルイは調査依頼主の無惨な死体を発見する。検死の結果、記録のない心臓移植手術の痕があることが判明。東欧、中東、アフリカ、行く先々でルイの遭遇する残虐な殺人。コウノトリの渡りの道に何が隠されているのか?『クリムゾン・リバー』の著者、驚嘆のデビュー作。
不良少年のグループからやくざの使い走りになった貧しいイタリア移民の末裔、リコ。彼はギャングの一人として現金強奪で名をあげ、暗黒社会の中で知られた顔になる。力と策謀で仲間を出し抜き、追い落とし、ついには縄張りを握ってその頂点に立つが…。無名だったエドワード・G・ロビンソンを一躍大スターにした映画『犯罪王リコ』の原作であり、ジェイムズ・エルロイやジム・トンプソンに大きな影響を与えたクライム・ノヴェルの古典的名作。
贅沢な癒しを求める客たちで溢れる、豪華客船ヨアニナ号のビューティ・スパで働く24歳のローラは、船上勤務も数回の経験となる中堅エステティシャン。同室の新人ヘアドレッサー、フィオーナとのコンビで、常連客の受けもよく多額のチップ収入を得ていた。多忙な仕事の合間に、ラウンジ勤務の恋人スティーヴとめくるめくSEXを愉しんでいたのだが、彼女に言い寄る男も多く、豪華船内はしだいにエロスの香りが…。
スチュアート陸軍士官学校の新入生レミーは男性経験もなく、男勝りの性格の持ち主。入学早々、“地獄の特訓”の日々が続き、厳しい指導教官や同僚ジーンのいやがらせに、前途多難の寮生活を過ごしていた。そんなある日、先輩ジェーコブとの初体験をきっかけに、性的快楽に目覚め、偶然、学校内の秘密クラブの存在を知ることに…。
南三郡を実力で手に入れた呉の孫権は、無敵の水軍で江南を固めていった。胸中に渦巻くは合肥攻略だ。一方、最強の騎馬軍団と後漢の献帝を擁し、魏の曹操は再び天下統一の野望に燃えていた。「赤壁の戦い」で勝利を収めた劉備は荊州に足掛かりを得、益州を配下に置いて蜀を制した。三国鼎立の時代を迎え、戦いはますます熾烈なものとなった。焦点は荊州争奪にある。
時は八世紀末。東北には、大和朝廷に服従しない誇り高い人々がいた。かれら蝦夷は農耕のために土地に縛られるのではなく、森の恵みを受け大自然と共生しながら自由に暮らしていた。だが、その平和も大和軍の侵攻によって破られる。そして、一人の男が蝦夷の独立を賭け、強大な侵略者に敢然と戦いを挑んだ。彼の名はアテルイ。北の森を疾風のように駆け抜けた英雄の生涯を描く壮大な叙事詩。
化学者ばかりが狙われる謎の連続密室殺人事件が発生。恐怖に歪む死体の表情は事件のむごたらしさを伝えていた。一方森の奥のアリの帝国では十字軍が組織されていた。生態系の最大の敵、人間を絶滅させるためにーー。
本書は、2002年に小説誌等に発表された数多くの短篇ミステリーの中から、日本推理作家協会が最も優れた20篇を厳選した、決定版アンソロジーです。推理小説界2002年の概説、ミステリー各賞の歴代受賞リストもついて、資料としても充実しています。50年を越える歴史を誇る唯一無二の推理年鑑です。
険しい山に囲まれ、悠久なる大河が流れる王国。長年続く野賊との内戦を終らせ、祖国に平和をもたらすー正義を胸に、理想を貫き、どんな状況でも、「生」を信じ、国を愛し闘い続けた大佐・テミズ。この男が人生を賭け、夢見たものは…。人々を愛し、孤高の生を全うした男の壮大で波乱に富んだ人生を描く、新鋭による圧巻の長編小説。
人との距離がうまく測れず、引きこもりがちな大瀬崎亜紀、22歳。「このままじゃダメ人間だ!」と心機一転、バイトをはじめるも、“鬼シャチョー”にこき使われ、とほほ状態に。それでもシャチョーにほのかな恋心を抱き始める…。
盗賊仲間に裏切られて大火傷を負い、死んだはずの男。座頭組織の長・髑髏検校に拾われた男は、暗殺者として裏社会に生きる覚悟を決めた。光を奪われ、座頭として表・裏社会の二重生活を送り始める男-。だが運命は男を、さらなる修羅へと向かわせた。
癌で入院中の父親と寝たきりの祖父の面倒を一人でみる村尾柊一。彼は善意より殺意を必要とした…。あの日、雨が降っていなければ、誰も殺されなかった。必死だけど可笑しくて、実直ゆえに我がままで、優しいくせに傷つける-デビュー15周年を迎えた樋口有介の真骨頂、とにかく切ない物語。