2004年1月発売
阿蘇に旅した“豆腐屋主義”の権化圭さんと同行者の碌さんの会話を通して、金持が幅をきかす卑俗な世相を痛烈に批判し、非人情の世界から人情の世界への転機を示す『二百十日』。その理想主義のために中学教師の生活に失敗し、東京で文筆家としての苦難の道を歩む白井道也と、大学で同窓の高柳と中野の三人の考え方・生き方を描き、『二百十日』の思想をさらに深化・発展させた『野分』。
幼いわたしの前から、ある日突然、姿を消した父。成長したわたしは、父の人生をさかのぼって、四つの不思議な旅に出る。旅先の風景はいつしか幻想性を帯び、死者の霊がわたしを招く。追えば追うほどに、父の真実は遠ざかり、濃密な官能の匂いが立ち昇ってくる。時間と空間を超えた旅路の果てに待つものは…。著者によって、いつか書かれなければならなかった、きわめて個人的な物語。
パリ警視庁特別医務室に勤務する精神科医のラセーグは、犯罪者や保護された者を診断する毎日。折しもパリでは万国博覧会が開催され、にぎわうが、見物客の女性が行方不明となる事件が相次ぐ。そんな中、ひどく怯える日本人少女を面接し、彼女の生い立ちに興味をもつ。一方でラセーグは、見知らぬ貴婦人にストーカー行為を受け、困っていた。執拗な誘いに負けて、彼女の屋敷を訪ねるがー。
貴婦人の誘惑は執拗さを増すが、ラセーグは無視した。が、彼に好意をもつ先輩警視の妹が殺害されるに及び、貴婦人の関与を確信する。連続失踪事件で日本人少女も巻き込まれていたことが分かり、ラセーグは、それらと似通った過去の猟奇的事件を調査するー。優雅なパリの街並み、そこに集う人々との温かい交流を描きつつ、驚愕の事件を推理する精神科医の心情に迫ったミステリー・ロマン。
著者率いるNUMAは、現在も幻の沈船を求めて東奔西走。その模様はドキュメンタリー番組として全米で放映されている。今回、白羽の矢が立てられたのは、南北戦争時の南軍甲鉄艦マナサスとルイジアナ。北軍が誇ったキーオカック、ウィホーケン、パタプスコ。海洋史上もっとも有名な幽霊船メアリー・セレスト号…。歴史の秘話と探索の悲喜劇で綴る好評ノンフィクション第2弾。
NUMAが追い求めるのは艦船だけではない。パリーニューヨーク飛行をリンドバーグと競いながら、散ったといわれる白鳥号。悪天候の餌食となった合衆国海軍の巨大飛行船アクロンー。タイタニック号の生存者を救助した後でUボートに撃沈されたカルパティア号や、あのJ・F・ケネディが艇長を務めた魚雷艇PT-109も含めた多彩な目標の謎がいま、白日の下に晒される。
「春嵐」アジアから帰国するや、支部結成大会へ。広布の拡大に対する反発が、各地で“村八分”等の嵐を呼ぶ。「凱旋」激闘につぐ激闘により、未曽有の大発展を飾って迎えた1周年の総会。大客殿建立の供養の発表に、同志の歓喜が爆発。「青葉」青年部が方面別総会を開催。言論部の結成、広報局の映画作成など多彩な布石がなされる。「立正安国」夏季講習会で「立正安国論」を講義。「仏法の人間主義」を根底とした世界平和の道を訴える。「大光」初の欧州への平和旅へ。“ベルリンの壁”の前に立ち、民族分断の悲劇の転換を誓う。
この世ならぬ美しさの王女の、体の中でいちばん秘密なところに隠されていた赤い宝石の謎とはー魔神のたわむれから、はるか遠く離れた国の王子と王女が宿命の恋におちて数奇な運命をたどる一大ロマン「カマル・アル・ザマンの物語」、妖艶な美女との官能的な恋も束の間、怪盗の手により苦境に陥った商人アラジンのスリル満点の話など、夢のような物語が華麗にくり広げられてゆく。
三角関係がバレて女のもとを追い出されたヒモ男、海翔ー。たまたま別れの現場を見ていた新進気鋭の日本画家、櫛形に拾われ、モデル兼ハウスキーパーとして彼の広大なアトリエにひと冬の居候を決め込んだのだが…。指一本触れないと言いながら、オトナの魅力で海翔の心と身体を弄ぶ櫛形にたちまち籠絡され、雪に閉ざされたアトリエは、蕩けるような悦楽の檻へと変わる…。
人の住んでいる家は四軒しかない、高知の山奥にある蝶ヶ谷村。嵐による土砂崩れで、麓への一本道が塞がれる中、殺人と自殺の連鎖が十人の村人たちを襲う。村を訪れていた崇、奈々たちは否応なく事件に巻きこまれるが、その最中、龍馬暗殺の黒幕を決定づける手紙の存在を知り…。博覧強記・崇の推理は、悲劇の輪廻と、龍馬殺害に纒わる最大の謎を時空へ解き放つ。
秋川渓谷での連続強姦殺人の容疑者となった石破は、強要された一度だけの自白で、必死の抗弁も空しく死刑が確定してしまった。塀の外で無実を信じてくれるのは、想いを寄せる血の繋がらない妹だけ。二人は脱獄を企てるが自由もつかの間、ついに処刑の朝を迎えて…。絶望からの脱出を描く傑作サスペンス。
三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。二月最後の日に来た理瀬の心は揺らめく。閉ざされたコンサート会場や湿原から失踪した生徒たち。生徒を集め交霊会を開く校長。図書館から消えたいわくつきの本。理瀬が迷いこんだ「三月の国」の秘密とは?この世の「不思議」でいっぱいの物語。
私の知らない「彼女」にジャムを作り、いそいそ出かけていく高校生の弟・タカシ。魂の前世を信じる、弟の怪しげな友人・恭一。五日おきにデートする几帳面な同級生・サダカくん。三人の奇妙な男に囲まれ、過ぎていく夏ー。心の底のリアルな感覚を描き共感を呼ぶ、角田光代の作品集。野間文芸新人賞受賞作。