2004年6月発売
渋谷でファイトパーティーを開き、トップにのし上がったストリートギャング雅。頭のアキとカオルは、仲間が持ち帰った大金を見て驚愕する。それはヤクザが経営する非合法カジノから、裏金強奪のプロフェッショナルの男たちが強奪した金だった。少年たちと強奪犯との息詰まる攻防を描いた傑作ミステリー。
消せない過去、日々の溜息が、布目にからみつく。北の街の夕暮れどきに、「ちぎり屋」と「染み抜き屋」の灯がともる。芸妓から成島屋の御内儀に納まった紫乃が持ち込んだ、男物の紋付羽織。結び雁金の紋所は、かつての恋が、紫乃の心に染みになって残っていると告げているように、つるには思えた。「こういう染みって、素人でも抜けるものですか」紫乃の言葉に、つるの胸の底で赤黒い炎が大きく揺れた。身の裡のほとぼりを鎮めるために、つるは一人、おもんの「ちぎり屋」の暖簾をくぐった-「徳壺」より。他の収録作「星月夜」「十色の虹」「花魁鴨」「蛍火」。
何十年かに一人生まれる、小さな角の生えた子。頭の角は、生贄であることの、まがうことなき「しるし」。十三歳のある日、角は一夜にして伸び、水牛のように姿を現す。それこそが「生贄の刻」。なぜ霧の城は、角の生えた子を求めるのか。構想三年。同名コンピュータゲームに触発されて、宮部みゆきがすべての情熱を注ぎ込んだ、渾身のエンタテインメント。
「何をどう書けばいいのか?」近代日本文学の黎明期、使える文体や描くべきテーマを求めて苦悩する作家たち。そして…漱石は鴎外に「たまごっち」をねだり、啄木は伝言ダイヤルにはまり、花袋はアダルトビデオの監督になる!?近代文学史上のスーパースターが総登場する超絶長編小説。伊藤整文学賞受賞作。
末期ガンに冒された男が、病床で綴った手記を遺して生涯を終えた。そこには八年前、息子をさらわれた時の記憶が書かれていた。そして十二年後、かつての事件に端を発する新たな誘拐が行われる。その犯行はコンピュータによって制御され、前代未聞の完全犯罪が幕を開ける。第十回吉川英治文学新人賞受賞作。
青森から大阪まで。日本海沿いをひた走る寝台特急で専務車掌が絞殺された。事件の謎を握るのは五年前に車中で出産した若い女性。その足跡を辿ると、男女が続けて不審な死を遂げていることが判明。おまけに当人らしき女性は越前岬から投身自殺したという。強烈な謎とサスペンス、十津川の推理が冴えわたる。
応仁ノ乱で荒れる京都、室町幕府の官吏、伊勢氏一門の末席に、伊勢新九郎、後の北条早雲がいた。家伝の鞍作りに明け暮れる、毒にも薬にもならぬ人間で生涯をことなく送るのが望み、と考えていた。だが、妹分の美しい娘、千萱の出現が、彼の今までの生き方を激変させる契機となり覇者への道を歩み出した。
守護・今川義忠の死による混乱を鎮めるため、早雲は駿河に下り、嫡子・竜王丸を後見することとなる。室町幕府の力はなきに等しく、国人・他侍たちが力を持ち始めていた。この時代の大きな変化を鋭く先取りした早雲は、天性の知略で彼らの信望を得、政敵を退けていき、有名な北条の治世の土台を築いていく。
関東制覇を目指して、先ず伊豆を切り取った早雲は、越えがたい箱根の坂を越えて、ついに小田原攻略に成功した。まさにその時、戦国の幕が切って落とされたのである。伝統的教養と近代的領国経営法で関東の覇者となり、治世の理想を実現させ、歴史を変えていった男、北条早雲の一生を描いた傑作長編小説完結。
考えてみれば、ロシア帝国は負けるべくして負けようとしている。-旅順陥落。世界の関心は「ロシアはなぜ負けるのか」にあった。しだいに専制国家としての陋劣さを露呈するロシア。「旅順艦隊全滅す」の報は、マダガスカル島の漁港に留まり続けるバルチック艦隊にも届いた。そして最大規模の総力戦、奉天の開戦で両軍は死闘する。
ふらりと御免色里に現れ、おもむろに慶長大判を取りだしたかと思えば、取り篭った男まで鮮やかに斬ってみせた若侍の緋之介。主の総兵衛に気に入られ、遊女屋に逗留することになったが、次から次へと謎の刺客に襲われる。一体、何者なのか。
鳴海章『花男』-特殊な経緯で結ばれ普通の家庭を作った男を惑わす、妻と自分の「心に潜む謎」。桐野夏生『グレーテスト・ロマンス』-絶望から逃れるため、獄中の男は妄想を紡ぎ続ける。やがて、妄想の女から一通の手紙が届き-。野沢尚『ひたひたと』-少女時代に受けた心の傷から逃れられない女。その傷を与えた少年が当時のままの姿で現れた。三浦明博『声』-竿も持たずに釣り場に現れた男が尾行してきた…。バンブーロッドが取り持つ男の友情。赤井三尋『秋の日のヴィオロンの溜息』-来日中のアインシュタイン博士のバイオリンがすり替えられた。ケースはそのままなのに、なぜ。