2007年発売
それは、かすかに油の浮いた暗い水の中を、割れた蟹の甲羅や、死んだ魚や、発泡スチロールの破片に混ざって、静かに岸壁に向かって漂ってきた。小さな波にも簡単に浮き上がるそれに、カモメが興味を示し、下には小魚の群れがゆらめいている。「女のようだ。ドレスを着ている」事故か?殺人か?ヨットレースの開催に沸くパラダイスの港に漂着した女性の溺死体は、ジェッシイに大きな謎を投げかけた。レースの参加艇ばかりでなく見物や社交のために、他の州からのヨットや客が、港にはひしめいている。はたして彼女は、どこから来て、どの艇に乗っていたのか…やがて身元は判明した。彼女の名前はフローレンス、住所は遠くフロリダ州のフォート・ローダーデール。彼女と関わりのありそうなヨットのオーナーたちを探るジェッシイだが、捜査は難航する。フォート・ローダーデールの女性刑事から耳寄りな情報が入るまでは…警察署長ジェッシイ・ストーンが暴く、事件の歪んだ背景と、意外な真相。ますます好調の巨匠パーカーが贈るシリーズ最新作。
闘鶏に負けつづけ、家庭を崩壊に追い込む父を見守る娘の心の揺れを鮮烈に描く「闘鶏師」。11歳の少年が、いかがわしい酒場で大人への苦い一歩を経験する「カフェ・ラブリーで」。息子の住むタイで晩年を過ごすことになった老アメリカ人の孤独が胸に迫る「こんなところで死にたくない」。美しい海辺のリゾートへ旅行にでかけた失明間近の母とその息子の心の交流を描いた表題作「観光」ほか、人生の哀しい断片を瑞々しい感性で彩った全7篇を収録。英米の有力紙がこぞって絶賛し、タイ系アメリカ人の著者を一躍文学界のホープに押し上げた話題のベストセラー。
タリバンに統治されたアフガニスタンの首都カブールは、まさにこの世の地獄。廃墟と化した町では私刑が横行し、人心は荒廃していた。拘置所の看守アティクの心もまた荒みきっていた。仕事で神経を病み、妻は重い病に冒されている。友人は離縁を勧めるが、命の恩人である妻を棄てることは…。だがやがて、アティクは夫殺しで死刑を宣告された美しい女囚に一目惚れしてしまう。女を救おうと走りまわり、憔悴していくアティクを見て、彼の妻は驚くべき提案をするのだった。壮絶なる夫婦愛を描いた衝撃作。
東西新聞芸能スポーツ部特別記者・金剛地厳太郎。テレビの二時間ドラマ試写評に全身全霊をかける狂気の男。わずか数百字の囲み記事で自らを文豪ならぬ評豪と称するトンデモナイ勘違い野郎。彼の行くところ必ず波瀾アリ。狂瀾怒涛のツーカイ人生。
夏見楓子-北海道・帯広の馬産農家に生まれたが、都会でのOL生活に憧れて上京。以来十年余り。達成感のない仕事と不倫の恋に疲れて、自分を見失いそうになっていた。ダイチ-ばんえい馬。夏見牧場ゆかりの血統で、伝説的名馬リキムゲンの孫。身体が小さく競走馬になれるかどうか危ぶまれていた。だめなら食肉用として処分される運命が…。廃業寸前の家業を継いで一から畜産農業を学び始めた楓子は、忘れかけていた土の香りや生き物のぬくもりに触れ、次第に生気がよみがえってくる。父が心血を注いだ強いばんえい馬づくりの復活に向けて一歩ずつ前進を始めていた。一方、老舗の厩舎に預けられたダイチは素質の片鱗を見せるものの、馬主がつくかどうかは微妙な状況だった…。
子供はみんな兵士で、この世は生き残りゲームで。砂糖菓子の弾丸で世界と戦おうとした少女たち…。稀世の物語作家・桜庭一樹の原点となる青春暗黒小説。
湘南に住み湘南ライナーで通勤する三十代、独身エリートの五人の男達のまえにあらわれた、ふるいつきたくなるような美女。彼女の口から奇妙な申し出が…。週に一度、彼女のマンションでともに一夜を過ごして欲しい、という。ただし、セックスぬきの関係。五人の男達がそれぞれ月曜日から金曜日まで“一夜同棲契約”を結ぶ。男達は謎の女の意図をはかりかねながらも、その魅力の虜となってゆく。待つのは、禁断の蜜のるつぼか、はたまた逃れられない蟻地獄か…。セックス抜きのやりとりに耐えかねた男達は共謀して彼女を襲う計画を立て始める。なんの不足もない社会生活を営んできたエリートたちの周辺に波風が立ち始める。まるで、穏やかな湘南の海が様相を変え牙をむきはじめたかのように。男達の一人の周辺で殺人事件が起こり、男達の間に反目、諍いが起きる。殺人捜査に乗り出した十津川警部も頭をひねった謎の女の真の狙いとは…。西村ミステリー四〇〇冊の金字塔後の新境地。結末には、驚愕のどんでん返しが…。異色ミステリー長編。
日常の裏側に死者たちは佇む。生きていた時に抱いていた想念を、妖しくも美しい幻に変えて、この世に残っている者たちを誘う。闇の中で死者たちが開く異界への扉。その向こうで、過去と未来は入り混じり、夢と現実が交錯し、死者と生者のひそやかな交歓が繰り広げられる。やがて、あふれくるエクスタシーと共に、すべては黄泉の世界へ流れゆくー。恐怖と官能を湛えた極上の幻想譚集。
草履でどすどすと、剥き出しの尻を踏みつけたー腕っこきだが、下手人を挙げる荒っぽさから“蛇蠍”と忌み嫌われる岡っ引きの捨蔵。強請りたかりもお手の物。信じるものはこの十手のみ。そんな悪党より悪党の俺でも許せねえ奴がいる。先代を殺った野郎に、落とし前はきちっとつけさせてやる。先代の形見、一尺九寸の仕掛十手が、江戸の闇に唸りを上げる。悪漢ヒーローが活躍する新シリーズ第一弾。
両替商から舟の扱いと凄腕を見込まれ、庄内藩江戸藩邸へ二千両を運搬する仕事を請け負った、よろず稼業・小佐々銑十郎。途中、大金を狙って襲ってきた賊を撃退するが、金は庄内藩嫡男の身代金で、一味を討伐したことで、誘拐された若君が危険にさらされると江戸家老は激昂する。だが、誘拐事件には裏があり、銑十郎は意外な展開を見せる後継者争いの陰謀に巻き込まれることに…。好評シリーズ第2弾。
ミヤタ家の五人兄弟は、それぞれ天才的頭脳と技を併せ持つ怪盗たち。ある日、四男の真紫はロンドンのホテルでいきなり民族衣装姿の超色男から求婚される。なんと魔女のお告げでクシルナート国のディファトゥーラ王子のお妃に認定されてしまったらしい。男なのに…!?双子の兄・真黄とともに王子の国を訪れた真紫は、期日までに二人を見分けろと課題を出すのだが…。“王子様”シリーズ華麗なる書き下ろし第2弾。
ド近眼で少々ボンヤリな新米会計士の照は、最近親しくなった建設会社社長の本木から次々お客を紹介されて商売繁盛。だが、野性派ハンサムのこの本木…正体はヤクザだった。尊敬する先輩の弁護士、陣内から忠告され悩む照だが、事務所に現れた本木に押し倒され…益々のっぴきならない関係に…。本木と陣内、本当の味方はどっち!?うごめく疑惑と策愛のストリームに呑み込まれ…凄絶ラブバトル書き下ろし。
無刀の剣士・鑢七花と野心を秘めた奇策士・とがめは、出雲の国は三途神社へ辿り着く!伝説の刀鍛冶・四季崎記紀が完成させた“刀”は十二本ー残るは十本!“千本で一本”なる千刀・〓(つるぎ)の秘密とは!?刀語、第三話の対戦相手は、三途神社を束ねる敦賀迷彩。
神秘主義詩人ウィリアム・ブレイクの預言詩に導かれ、障害を持って生まれた長男イーヨーとの共生の中で、真の幸福、家族の絆について深く思いを巡らす。無垢という魂の原質が問われ、やがて主人公である作家は、危機の時代の人間の“再生”を希求する。新しい人よ眼ざめよとは、来たるべき時代の若者たちへの作者による、心優しい魂の呼びかけである。大江文学の一到達点を示す、感動を呼ぶ連作短篇集。
誰かを好きになって、恋をして、一緒に暮らす。そこには、たくさん喜びや悲しみ、想いの襞が重なりあっている。夫と娘と初詣に行く日常を得るまでの、恋愛と仕事に戦う日々を描く表題作「家内安全」のほか、「ゆっくり進む船が行く」「鉄紺」「ぬるぬる」、平間至の写真から生まれた「ショートストーリーズ」など、いずれも、恋をする心と体を、まっすぐに見つめた小説集。
惑星マーティンの支配をめぐる裏交渉が明かされる「併呑」を始め、ラフィールと出会う前のジントが目撃したアーヴの真実に迫る「嫉妬」、ジントとサムソンが出会う「着任」、突撃艦搭乗直前のエクリュアの心情が語られる「童友」、ラフィールの修技館入学を祝う宴の模様を描く「祝福」、領地に向かうジントが新居を買う「転居」など、本篇では語られざるアーヴの歴史に隠された真実を暴いた、書き下ろし「墨守」を含む全12篇。