2008年2月発売
歴史に不滅の名を刻みつつも、いまだヴェールに厚く覆われたままの、東洲斎写楽。蓮丈那智は、古文書の調査の訪れたはずの四国で、その浮世絵の知られざる秘密へ足を踏み入れることに(表題作)。憑代、湖底遺跡、奇怪な祭祀。異端の民俗学者は、堆積する時代に埋没してしまった死者の囁きに、今日も耳を傾け続けるー。あなたの知らぬもう一つのニッポンを描く、本格ミステリ集。
誰にでも総決算をして踏み出す決意をする不思議な一年がある。転機は必ずやって来る。受身になるより招きよせれば、未練や不安は消えてゆく。脱サラに向けて歩き始めた、それはダイアナ・スペンサーが事故に遭った年のこと。
三カ月後に隕石がぶつかって地球が滅亡し、抽選で選ばれた人だけが脱出ロケットに乗れると決まったとき、人はヤケになって暴行や殺人に走るだろうか。それともモモちゃんのように「死ぬことは、生まれたときから決まってたじゃないか」と諦観できるだろうか。今「昔話」が生まれるとしたら、をテーマに直木賞作家が描く衝撃の本格小説集。
『名短篇、ここにあり』では収録しきれなかった数々の名作。人間の愚かさ、不気味さ、人情が詰った奇妙な12の世界。舟橋聖一「華燭」、永井龍男「出口入口」、林芙美子「骨」、久生十蘭「雲の小径」、十和田操「押入の中の鏡花先生」、川口松太郎「不動図」、吉屋信子「鬼火」、内田百〓(けん)「とほぼえ」、岡本かの子「家霊」、岩野泡鳴「ぼんち」など。文庫オリジナルでご堪能下さい。
「まるで不作の生大根をかじっているようだ」さんざんにもてあそばれた挙句、罵られ捨てられたお松は、偶然出会ったその男、煙管職人の勘蔵を絞殺してしまった。-この言葉を胸に秘めて、数奇な運命を辿るお松を評して、長谷川平蔵は、「男にはない乳房が女を強くするのだ」というが…。鬼平犯科帳番外篇。
お台場にあるテレビ局が、72時間テレビ生本番の最中に、正体不明のグループにのっとられた。劇場型犯罪に翻弄される警察。犯人たちの真の狙いは何か?30歳を目前にした女子経理部社員が、人質になった恋人を救うため、たったひとりで立ち向かう。手に汗握る、著者の全てが詰まった幻のデビュー作。
上京したとたん、金を騙し取られて無一文になった千華は、銀座のクラブ「セビリア」の社長に拾われる。ナンバーワンホステスの繭子から「体を売らずに男から金を引き出す」テクニックを教わった千華は、やがて売れっ子のホステスへとのし上がっていく…。美しさと知力の限りを尽くして戦う銀座の女たち。
江戸寛永年間、栄華を誇った海外貿易都市・長崎に、二人の大馬鹿者が生まれた。「金屋町の放蕩息子」「平戸町の悪童」と並び称されたこの二人こそ、のちに史上最大の朱印船貿易家と呼ばれた末次平左衛門(二代目末次平蔵)とその親友、内町火消組頭・平尾才介である。卓越した外交政治感覚と骨太の正義感で内外の脅威から長崎を守護し、人々に希望を与え続けた傑物たちの生涯を、三年の歳月をかけて、壮大なスケールで描いた熱き奔流のような一千枚!「飯嶋和一にハズレなし」と賞される歴史小説の巨人が描いた、一級の娯楽巨編。
世の中には三種類の詐欺師がいる。人を騙しその財物を奪い取る“シロサギ”。異性を餌として心と体、資産までも弄ぶ“アカサギ”。そして、シロサギとアカサギだけを餌として、カモから搾り取った金銭で肥え太った奴らの腐肉を啄む“クロサギ”。史上最凶のクロサギこと黒崎が今回餌食にするのは贈答詐欺師!一見、たわいもない仕事に思われたこの事件は、思いも寄らない凶悪事件へとつながっていたー。漫画原案者が自ら手がけた、漫画版とも映画版ともひと味違う、闇の世界に深く迫った完全オリジナル小説。
秋川藩を我がものにしようとする首席家老・遠藤源右衛門に対して、涼庵とゆみえは抵抗を続けていた。そんな時に、妙薬を使って子供ばかりでなく大人も治してしまう加代様と呼ばれる女性が出現した。しかし、奉行の橘弥十郎をはじめ、薬を飲んだ者が次々と異状を呈していく。宮坂は、その薬の正体を見破り、加代はからくりを白状した。そして、ゆみえの父・山村次郎助の告白によって、その薬にまつわる、藩が行ってきた驚くべき秘密が明らかになる。さらに、幕府への露見の恐れが出たとき、涼庵が取った行動とは…。書き下ろしで送る待望の第二弾。
雀プロ、成金、僧侶、医者、愛人、弁護士、学生に警察官…。風俗営業が数多ひしめくピンクゾーンに、今夜もギャンブル好きが集まってくる。東風戦、ワレ目あり、動くカネは数億円!?命の運より博打運。カタギだってヤクザだって、いやがおうにも血が騒ぐ!殺人前科はあるものの、物腰柔らかで男前の天才勝負師「オレンプ」。そして、ギャンブルを愛してやまない面々が、痺れるような勝負の世界特有の、興奮の坩堝に引き込まれていく。阿佐田哲也のギャンブルセオリー満載の、“一話完結形”連作長編麻雀小説。
ファウルズ。とある町の名前でこの町の名前。人が降ることで有名で、地理の試験に出ることは決してないが、誰もがみんな知っている。人が降るっていうのは人が降るってことで、つまり文字通り人が降る。降るなら雨か雪、せいぜいがところ蛙程度にしておいて欲しいという要望は上まで届いたことがない。そんな町に送られてきたユニフォームとバットを身につけたレスキュー・チーム=町の英雄たちの物語。第104回文學界新人賞受賞作。知の迷宮をさまよう「つぎの著者につづく」併録。
一九二五年五・三〇事件とは?日系紡績工場ストライキで出会う在留邦人と中国共産党の職女芳秋蘭。金融界から風俗業まで轟く排日排英の足音、露地に軋む亡命ロシア人や湯女の嘆き。国際都市を新感覚派の手法で多声的に描く問題作。
博多のライブハウスで宿命的に三人は出会った。地元のスター修吉に挑みがかった一矢のギター。ロックが大嫌いだった倫子はリーダー修吉の彼女になり、夢を追い上京した彼らを支える…。持てる才能だけを信じ、一度きりの日々を懸命に疾走する者たち。『破線のマリス』以前に野沢尚が書いた青春小説の傑作。
正義感が強く、町人からお白洲で裁きを行なう吟味方与力となった藤堂逸馬。“くらがり(迷宮)”入りした町娘殺しを探索し直していた逸馬に、正体不明の影が迫る。北町奉行・遠山金四郎と南町奉行・鳥居耀蔵の対立が事件の背後に見え始めた時、新たな殺しがー。痛快にして胸に迫る文庫書下ろし連作時代小説。
港に霧が出た夜には「赤眼の魔犬」が現れ、次の日には必ず人が死ぬー。高くて広い空に囲まれた町で暮らす、少年・ギーガン。また見つけてしまった10人目の死体。現場には革ジャンの男が現れ、「犬笛」の歌声が聞こえてくる。父さんはなぜ自殺したのだろう。謎の糸が少しずつ解けていく優しいミステリー。
タイスを脱出したグイン一行は、それぞれの思いを胸にパロに入った。クリスタルでグインはリンダと再会を果たすが、リンダの喜びとは裏腹に、グインの記憶が戻ることはなく、タイスでの負傷の手当てとともに、ヨナによって催眠術を使った記憶の治療が開始された。ところが、リンダの手がグインに触れたとき“何か”が起こり、二人は通常の人間には見えるはずのない、時空を超えた世界をかいま見る驚異に遭遇するのだった。
沈黙の淵に身を沈めながら、唯一信じる“親”のために人を殺し続ける男。その貌は、聖者に似ていた。「主はあなたをお救いになります」「私は神を信じません」神よ、男はどこへゆこうとしているのか?神とは、救いとは伊集院文学の最高峰。