2012年発売
「ようこそ森の国、リゾートピア・ムツへー」化学物質に汚染され、もはや草木も生えなくなった老小国・日本。国も命もゆっくりと確実に朽ちていく中、葉月夫妻が終のすみかとして選んだのは死さえも漂白し無機質化する不気味な施設だった…。これは悪夢なのか、それとも現代の黙示録かー。知らず知らず“原発”に蝕まれていく生を描き、おそるべき世界の兆しを告げる戦慄の書。3.11後、著者自身による2012年版補遺収録。
自分の子どもを愛せない母親のもとで育った少女は、湧き出る家族欲を満たすため、「カゾクヨナニー」という秘密の行為に没頭する。高校に入り年上の学生と同棲を始めるが、「理想の家族」を求める心の渇きは止まない。その彼女の世界が、ある日一変したー。少女の視点から根源的な問いを投げかける著者が挑んだ、「家族」の世界。驚愕の結末が話題を呼ぶ衝撃の長篇。
ベルリンを震撼させる連続殺人事件。その手口は共通していた。子供を誘拐して母親を殺し、設定した制限時間内に父親が探し出せなければその子供を殺す、というものだ。殺された子供が左目を抉り取られていたことから、犯人は“目の収集人”と呼ばれた。元ベルリン警察の交渉人で、今は新聞記者として活躍するツォルバッハは事件を追うが、犯人の罠にはまり、容疑者にされてしまう。特異な能力を持つ盲目の女性の協力を得て調査を進める彼の前に、やがて想像を絶する真相が!様々な仕掛けを駆使して描く驚愕の傑作。
神林長平の影響を受けた新世代作家による傑作アンソロジー。人ならぬ知性体の葛藤を描くシリーズの外伝的短篇ー虚淵玄「敵は海賊」、子供とだけ言葉を交わす不思議な猫と、大人になりつつある少女の交流を綴る感動作ー辻村深月「七胴落とし」、人工死の確立された世界で生と死の境界を思索するー円城塔「死して咲く花、実のある夢」など、神林SFを代表する長短篇を独自に解釈し、自由に想像力を広げた全8篇を収録。
第一次大戦下のドイツ・ポーランド国境近く。脱走兵コンラートは古い僧院に身を寄せる。そこでは所有者のホフマン博士が、人間と薔薇を融合させる常軌を逸した実験を行なっていた。コンラートはある思惑のもと、博士に協力を申し出る…。そして十数年後、ナチス・ドイツの弾圧から逃れたポーランド人の少女ミルカが見た、僧院の恐るべき真実とは?戦争と美への欲求という人間の深い業を流麗な筆致で描く歴史ミステリ。
事件はアリゾナ州の小さな町、人口48人のピードモントで起きた。町の住人が一夜で全滅したのだ。軍の人工衛星が町の郊外に墜落した直後のことだった。事態を重視した司令官は直ちにワイルドファイア警報の発令を要請する。宇宙からの病原体の侵入…人類絶滅の危機にもつながりかねない事件に、招集された四人の科学者たちの苦闘が始まる。戦慄の五日間を描き、著者を一躍ベストセラー作家の座に押し上げた記念碑的名作。
「はやぶさ」風味の無人探査機がバナナ型宇宙人を夢想するといえなくもない表題作、林檎を求める旅人が無限に拡がる時計の街を往くらしい「エデン逆行」など、SFから幻想小説まで9篇で語られる、どちらかというとわかりやすく、そのくせ深い、人生と世界に関する個人的見解。
分離戦争まっただなかのインド。サンジーヴの村にも戦火がおよぶ。アニメさながらの巨大ロボットの戦いに、子供も大人も大喝采。ロボット戦士にあこがれて、サンジーヴは都会へと向かうが…「サンジーヴとロボット戦士」、ダンサーのエシャは、レベル二・九という高い知性を持つAIの外交官A・J・ラオに求婚される。怖ろしいまでに魅力的な彼に、エシャはすっかり夢中になるが…。AIと人間との結婚が産みだす悲喜劇を描き、ヒューゴー賞、英国SF協会賞を受賞した「ジンの花嫁」など、猥雑で生命力あふれる近未来のインドを描く連作中短篇7篇を収録。
恋人の降一を事故で亡くした志保。その車を運転していた降一の親友・五十嵐。彼に冷たく接する志保だったが、同じ哀しみを抱える者同士、惹かれ合っていく「君が降る日」。結婚目前にふられた女性と年下の男との恋「冬の動物園」。恋人よりも友達になることの難しさと切なさを綴った「野ばら」。恋の始まりと別れの予感を描いた三編を収録した恋愛小説。
異界族と人類が共存するヴィクトリア朝ロンドン。伯爵夫人アレクシアは妊娠八カ月を迎えた。お腹の子の異能を恐れる吸血鬼の執拗な攻撃に、人狼団はある秘策を打つ。そんななか消滅寸前のゴーストが現われ、女王暗殺をほのめかした。凶事を防ぐべく暗中模索の捜査を始めたアレクシアは、やがて夫マコン卿と人狼団にまつわる過去の秘密と出会うー謎解きとユーモアと叙情が贅沢に織りなすスチームパンク冒険奇譚、第四弾。
美貌と気立てを見込まれ、江戸で指折りの献残屋に嫁いで十二年。夫が外で生ませた子を育てながらも懸命に店を守るおしのは、ある日またも夫の裏切りを知り、店を出る決意をするが…時の将軍の寵姫・お琴の方との交流、女主人としての迷いと決断を経て成長する女性を鮮やかに描く、文庫オリジナル時代小説。
日本橋本石町にある旅篭「長崎屋」で、腹を竹槍で無残に抉られた酉右衛門の死体が見つかった。隣りには、江戸の市中に時刻を知らせる「時の鐘」があり、その鐘撞き堂で、鐘を撞いてきた撞き師の孫六が死んだ酉右衛門を恨んでいたと分かり…。南町奉行根岸肥前が、江戸の怪異を解き明かす「耳袋秘帖」殺人事件シリーズ第十三弾。書き下ろし時代小説。
大学教授のサイトがきっかけで発生した「ビニール袋集団自殺」事件を、やり手キャップの市川と担当する社会部の新聞記者の長妻は、たびたび他社に出し抜かれ、追い詰められていくが、やがて独自の取材で起死回生のスクープを放つ…。生き馬の目を抜く報道の最前線を活写した怒涛のエンターテインメント長編。
高松の親戚にひきとられたきょうだいの一人が人形浄瑠璃に魅せられる。塩祭の夜にきょうだいたちに何かが起こる(「塩」)。列車の旅をする英語教師や海沿いの巡礼路をゆく巡礼者、渦潮に魅せられたトラック運転手や逃げ出した藍と追う藍師…。四国を舞台に現実と異世界とが交差する、五感に響く物語世界。
川に大量の油が流れ出た!大打撃を受けた漁師たちは、日本橋にある町年寄・樽屋の屋敷に押しかけた。まずは被害を抑えようと率先して走り回る三四郎だったが、今度は油問屋の蔵に火が放たれー将軍にも謁見できる町人トップの権力と、影の集団・百眼の情報網を駆使して江戸の事件を未然に防ぐ三四郎シリーズ、男前な第六弾。書き下ろし時代小説。
プロテスタント系女子高の入学式。内部進学の希代子は、高校から入学した奥沢朱里に声をかけられた。海外暮らしが長い彼女の父は有名なカメラマン。風変わりな彼女が気になって仕方がないが、一緒にお昼を食べる仲になった矢先、希代子にある変化が。繊細な描写が各紙誌で絶賛されたオール讀物新人賞受賞作含む四篇。
ほぼ一年に一度、空から人が降ってくる町、ファウルズ。単調で退屈な、この小さな町に流れ着き、ユニフォームとバットを身につけレスキュー・チームの一員となった男の物語。奇想天外にして自由自在、文學界新人賞受賞の表題作に、知の迷宮をさまようメタフィクション小説「つぎの著者につづく」を併録。