2022年9月発売
3歳の頃、伊豆大島の雑貨商に養女として連れてこられたフキさん。ススキの茂る長い道を男と歩いた最初の記憶。母の記憶はない。養母の厳しい仕打ちに耐えるフキさんをなぐさめるのは、火山島を囲む広々とした青い海と空だった。フキさんは8人の子を育てあげた。そして火山の大噴火。その大噴火に促されたように、一人の老婦人が訪れ、フキさんの出生の秘密を告げる…。わずかな手がかりをたよりに、四男の嫁の恵さんが、「本当の母」の失われた記憶を求めて秋田へと旅立つー。
東京の大企業社長が死に際に残したドイツ語「nachtflug(夜間飛行)」。この一語が、富山の老人の死、そしてナチス統治下のウィーンへ繋がった。若き市来男爵とローラが守ろうとしたものとはー消えた「株券」に迫る、壮大な歴史ミステリー。
漂流民・薩摩の謝五郎はマカオに定住する。阿片禍に苦しむ人びとを見て西洋列強の牙を痛感する。孤児院を設立した謝五郎は道教の道士から自己の立ち位置を悟らされた。風評、疫病、放火等多くの苦難にめげず、広州に支部設立を決意。…支配する者とされる者、欲望渦巻く都市における波瀾の人間絵巻。
一九三〇年代、モダニズムの技法を取り入れつつも古語や方言を巧みに用い、植民地下にあっても人々の生活に息づく民族的伝統と心象の原風景を、美しい言葉遣いで詩文によみがえらせて一世を風靡した詩人、白石。南北分断後は北朝鮮の体制になじめず筆を折らざるをえなくなり、その消息は長らく不明のままとなった。本書は、韓国を代表する抒情詩人である著者が、敬愛してやまない白石の生涯を丹念に追い、小説を読むように、また白石の作品世界を深く味わえるように再構成した、決定版といえる評伝である。詩のみならず、随筆や分断後の北朝鮮で書かれた作品を多く収録しているほか、同時代を生きた詩人・作家たちの足跡も辿ることができ、資料的価値も高い。
嵐の山荘に潜む若き犯罪者。そして翡翠をアリバイ証人に仕立て上げる写真家。犯人たちが仕掛けた巧妙なトリックに対するのは、すべてを見通す城塚翡翠。だが、挑むような表情の翡翠の目には涙が浮かぶ。その理由とはー。ミステリランキング5冠『medium霊媒探偵城塚翡翠』、発売即重版10万部『invert城塚翡翠倒叙集』に続く待望の第3作目。犯人視点で描かれる倒叙ミステリの金字塔!
東京ティーレックスの絶対エース・矢神大、失踪ー。日本中が大騒ぎになる中、ブルペンキャッチャーの沢本拓は、わずかな手がかりを頼りにハワイへ飛び、ホームレスになっていた矢神を発見する。矢神は記憶障害に陥り、ボールの投げ方を忘れてしまっていた。何とか再起させたいと願う沢本、だが球団は矢神に戦力外を通告する。そんなある日、矢神は自宅の地下で手書きのノートを見つける。そこには自分の投球技術に関する詳細な記録と、奇妙な告白が書かれていた。矢神が昔投げて、人を殺した「消えるボール」は封印する、とー。矢神の豪速球は復活するのか。そして、殺人の告白に隠された驚くべき秘密とは。
「灰色の木を、金色に戻す薬を下さい」-約束の合言葉とともに深山木薬店にあらわれた一人の女性客。震える声で薬屋探偵に依頼した内容は、不吉な兆しといわれる「ドッペルゲンガーの謎を解明してほしい」というものだった。彼女を助けるため、リベザルは真相究明に奔走するが、「死んだはずの人間が目撃される」という不可解な事件に巻き込まれ…。待望のシリーズ最新作!!
理不尽の連鎖をこの子に残したくない。レナは20年続けた教師を辞め、フランスから遠く離れたインドに来ていた。ある日、海で溺れかけたところを少女に救われる。その子、ホーリーは、養父母の店で働かされ学校に通っていなかった。まだ十歳だ。レナ恩返しに、読み書きを教えようとする。だが「女に勉強はいらない。家のために働き、嫁にいくんだ」。因習にとらわれた養父母と村人、それに従う子供たち。これが、小さな恩人に許された唯一の人生なのか。レナは決意する。この子たちが学べる教室をつくろう。読書の喜びと、知識が世界を広げることを伝えよう。レナの小さな一歩は、村の女たちの助けも得て希望のプロジェクトにつながってゆく。『三つ編み』の著者が未来への願いを込めてつむいだ、連帯の物語。
15歳のガランスにとって、SNSは世界の全てだった。平凡な高校生だった彼女は、ハロウィーンの夜、上級生の人気グループに仲間入りを果たし、一躍スクールカーストの上位に躍り出る。だが、常に注目の的だったガランスはある日突然謎の失踪を遂げる。SNSアカウントは全て閉鎖されていた。警察が捜査に乗り出したところ、ガランスの失踪前、彼女の動画がネット上に流出していたことが判明しー。Z世代のスマホとSNSの闇を繊細な筆致で暴き出す、ル・モンド文学賞受賞のフランスの新星による激烈なデビュー作。
第二次大戦後、ギャルヴィン一家はコロラド州に移住し、12人の子宝に恵まれた。しかし子どものうち6人に異変が起きる。修道士のようにふるまう長男、自分はポール・マッカトニーだと言い張る末っ子……。彼らはなぜ統合失調症を発症したのか。家族の闇に迫る
「将軍家に尽くすべし」という会津藩『家訓』や「ならぬことはならぬものです」という『什の掟』の厳格な教え。それに従い、利代は九歳の駿が数学に打ち込みたいのを知りつつも、会津武士として厳しく育てた。やがて尊王攘夷が倒幕へと傾き、薩長が官軍と称して会津に押し寄せる中、十六になった駿は白虎隊に身を投じる。利代は駿に死ぬ覚悟をつけさせるべく、己のなぎなたで徹底して稽古をつける。藩主のために命を捨てろと、利代は心を鬼にして我が子を戦いに送り出すが…。会津に生きた母と息子の強い絆と鎮魂の物語。
虎治と光は元同級生。夫婦になり子供を持ち家族になった。言葉と体と時間を重ね、時にはぶつかりながらも同じ方向を見て進んでいると、それが夫婦だと思っていた。けれどー。息子が自分のことを「弱い」と言った時の違和感。息子がスイミングをやめると決めた時に虎治が言った「逃げるのか」という言葉への嫌悪感。新しい仕事への挑戦を夫を理由に漫然と諦めたことへの後悔。かつての仕事仲間の成功を妬む自分への苛立ち…。
病気も怪我も存在せず、失われた四肢さえ蘇る、奇蹟の楽園ジョーデンタウン。調査に赴いたまま戻らない助手を捜しに教団へ乗り込んだ探偵・大塒は、次々と不審な死に遭遇する。だが、「密室」殺人でさえ、奇蹟を信じる人々には、何ら不思議な出来事ではない。探偵は論理を武器に、カルトの妄信に立ち向かう。「現実」を生きる探偵と、「奇蹟」を生きる信者。真実の神は、どちらに微笑むか?
人類の歴史の裏で暗躍し、秘かに生き続ける“竜舌”。その正体に気づいたら最期…!古の中国で、ある男の野望と怨念から生まれた「竜舌」。古井戸に宿る奇異な生命体は漢、唐、明…と時代を経ながら歴史のはざまで姿を現しては暗躍し、人知れず不気味な存在へと変貌していく。因果は巡り“思い”を受け継いだ一組の男女が危機を察知するも、刻は満ち…。悠久の刻を超えて巡る“愛と禍”の因果を描く、ホラーサスペンス!
「うんと気の強い女中が欲しい」そんな注文が入り咲は新しい奉公先のある上野池之端を訪れる。不忍池の畔のあばら家で待っていたのは、なんと母が幼い頃の咲を連れて奉公していた大店の元お嬢様、志摩だった。さらに妙な色気のある女、香も加わり、志摩は男女が人目を忍んで逢瀬を楽しむ“出合茶屋”を開くという。やがて、三人の店はよそにない趣向が受けてお江戸で大評判に。だが、次々と厄介事が舞い込んで…?
「悲鳴だけ聞こえない」パワハラ告発があった企業から調査を依頼された木村と高塚だが、投書は匿名で加害者も被害者もわからず調査は難航。悲鳴をあげているのは意外な人物だったー。「河部秀幸は存在しない」弁護士が詐欺に加担していると相談を受けた木村たち。その中には知人の弁護士の名前も。さらには、木村に騙されたと主張する被害者まで現れてしまう。「依頼人の利益」破産したのに生活を見直さない依頼人に困った木村。破産管財人に嘘をつき通せるのか!?依頼人のために高塚が考えた倫理的にギリギリのウルトラCとは!?-他二篇を収録。