著者 : 中路啓太
「エレアル」-パラオの言葉で、「明日」「未来」の意味。太平洋戦争さなかの昭和17年。日本統治下のパラオ・コロール島。小学校教員である宮口恒昭の長男・智也はある事件をきっかけに、パラオ人少年のシゲルと親友になった。だが、父の転勤で智也も隣島へ転校することに。二年が過ぎ偶然再会したふたりは喜び合うが、戦争の暗い影は、こののどかな南の島々にも迫っていたー。時は流れ、昭和63年末。パラオ共和国独立準備のため訪日したシゲルは、天皇の容体悪化が報じられる中、戦後すぐ消息が途絶えた宮口家の人々を捜しはじめるのだが…。日本人とパラオ人の歴史と心の交流、戦争の悲惨さ、そして日本人の未来を問う、感動長篇。
昭和八年(一九三三)。商工省・臨時産業合理局事務官の岸信介は、組織の枠を超えて活躍していた。人当たりがよく、話もうまい。上司にも女にも気に入られる岸は、末は次官や大臣にもなるのではないか、と目されていた。国家運営の根幹は経済であり、列強と対峙していくには武力ではなく経済力が必要だと説く岸は、関東軍が支配する満洲に乗り込み産業発展に邁進、日産コンツェルンの満洲移転という奇手の実現を図る。が、戦争は泥沼化してゆきー。これからの日本を語り合うための歴史ドキュメント小説。
A級戦犯容疑で投獄されたものの、不起訴処分で巣鴨プリズンから釈放された岸信介。大国のエゴがぶつかり合う戦後世界において、岸は文人政治家として、日米安全保障条約の改定や、自主憲法の制定、二大政党制の実現を目指して動き出す。だがそこには、途方もない困難が立ちはだかる。アメリカの野望。マスメディアの批判。押し寄せるデモ隊。党内外の争い。そして弟・佐藤栄作のもとで勢力を伸ばす田中角栄ー。昭和六十二年、満九十歳でこの世を去るまで政治の表裏に関わり、「昭和の妖怪」と呼ばれた男の波乱の生涯!いまに連なる「昭和」に、何が起きたのか。真の独立国家再建を目指した政治家・岸を通じて描く、渾身の歴史小説!
終戦直後の昭和二十一年初め、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の方針に従い、国会内の委員会で政府試案をまとめたが、GHQは拒否。そればかりか、GHQ憲法草案を押し付けてきた。この案を翻訳し、日本の法律らしく形を整え、新憲法の下敷きにせよ、というのだ。わずか二週間で翻訳にあたることになったのは、内閣法制局の佐藤達夫。吉田茂外相と話す機会を得た佐藤は、GHQ案の問題点をまくしたてる。それを聞いた吉田は、佐藤に言った。「GHQとは何の略だか知ってるかね?ゴー・ホーム・クイックリーだ。『さっさと帰れ』だよ。総司令部が満足する憲法を早急に作っちまおうじゃないか。国の体制を整えるのは、独立を回復してからだ」。今こそ見つめ直すべき憲法制定の物語。
一九三〇年一月、日米英など五大海軍国によるロンドン海軍軍縮会議が始まろうとしている。随員を命じられた外務省情報部長・雑賀潤は、首席全権の若槻礼次郎らと日本を旅立った。だが、各国の利害が対立する外交交渉は難航の連続。その上、海軍軍令部は自らの主張に固執し、妥協案に対して拒絶の姿勢を崩さない。熾烈を極める状況の先に、雑賀は光明を見出せるか!?
ロンドンでの雑交渉を終え、全権団は帰国した。しかし、条約の内容を受け入れられない軍令部は、統帥権の独立を楯に批准に反抗。輿論は二分し、議会での論戦も混迷の一途を辿るばかり。土壇場での条約破棄を阻止するため、雑賀ら政府の面々は、軍人、枢密院、そして輿論に対して瀬戸際の攻防で対峙するー。史実の中に浮かぶドラマを、精緻かつ情熱的に描ききった傑作!
時は豊臣秀吉の天下統一前夜。肥後国田中城では村同士の諍いの末、岡本越後守と名乗る男の命が奪われんとしていた。だが、そこに突如秀吉軍が来襲。男は混乱に乗じて武器を取り応戦、九死に一生を得る。その戦いぶりにほれ込んだ敵将・加藤清正は、城主の姫を人質に取って越後守を軍門に降らせ、朝鮮の陣に従軍させるがー。
信長が安土城に安置していた「盆山」の真の役割を知る織田信雄。六十余度の戦いで不敗を誇る肥後の智将・甲斐宗運。関ヶ原合戦直前、伏見城で西軍に寡兵で臨んだ徳川の猛将・鳥居元忠。家康の懐刀として暗躍した、武人にして豪商の茶屋四郎次郎。今川、武田・上杉の圧力に智恵と胆力で対抗する北条氏康。賎ヶ岳七本槍の一人として大名となった片桐且元…。大注目の作家陣が知られざる戦国史を描く豪華アンソロジー!
1930年1月、霧深きロンドン。米英仏伊、そして日本の五大海軍国によるロンドン海軍軍縮会議が始まろうとしていた。世界恐慌が吹き荒れ、緊縮財政と戦争回避が叫ばれているなかではあったが、各国それぞれの思惑と輿論を抱え、妥協点を見出すのは容易ではない。日本の全権団長は若槻礼次郎。随員には雑賀潤外務省情報部長がいた。難航を極める交渉の果て、雑賀は起死回生の案を捻り出すがー。誇り高き外交官の活躍と、統帥権干犯問題の複雑な経緯を、精緻かつ情熱的に描ききった、今こそ読まれるべき傑作。
時は関ヶ原の合戦直後。藤堂高虎家中にあっても、媚びずなびかず、「恥知らず」と罵られても、武名を上げることに命を燃やした渡辺勘兵衛。常識に抗い、乱世を生き抜く反骨と覚悟を交錯させて描く痛快戦国長編!
豊臣氏滅亡から十年。三代将軍家光と大御所秀忠の対立を背景に、天海、柳生宗矩、宮本武蔵、伊達政宗ら、欲に憑かれた者どもが死闘を繰り広げていた。彼らの狙いは、幕府転覆すら招く豊臣氏の遺宝“豊国神宝”。この醜い戦いのゆえに愛する人々を奪われたとき、若き剣客・木下右近もまた修羅の鬼となる決意をするー。豊国神宝とは何なのか?気鋭が描く大活劇。
秀吉の密命を受け、難攻不落と言われた三木城に、二人の男が忍び入った。片や、かつて主君に離反し「裏切り者」と呼ばれた涼山。片や、主家への忠誠に生きる寺本生死之介。二人はともに開城工作に暗躍する。やがて明らかになる涼山の真意とは。「三木の干殺し」を題材に、「正義」のあり方を問う本格戦国小説。
正徳の治で幕政を主導するのはまだ先のこと。五代将軍綱吉の世、若き日の新井伝蔵(白石)は浪人ながらも政への野心を燃やしていた。そんな中、二つの仕官話が舞い込む。願ってもない好機だが、眉間の「火字」が不穏にうずく。そこには九年前の事件の真相が隠されていた。小説現代長編新人賞奨励賞受賞作。
武士は負け様、死に様が肝心。他人の罪を被り、流人となって2年。元公用人・物集女蔵人は、命がけで島を抜け、江戸に舞い戻る。かつての主君・水野忠邦の過ちをただし、その本懐を遂げさせるために。武士の熱い魂を描く、書き下ろし本格時代小説。