出版社 : 作品社
「あの時代、私たちは誰もが恐ろしい力を持っていたーー」 名士である実父による著書への激越な批判、その父の病と交通事故での死、愛人の告発、昔馴染みの女性の証言、そして彼が密告した家族の生き残りとの時を越えた対話……。父親の隠された真の姿への探求の果てに、第二次大戦下の歴史の闇が浮かび上がる。 マリオ・バルガス=リョサが激賞するコロンビアの気鋭による、あまりにも壮大な大長篇小説! 私、どうしてもガブリエルの顔を見る気になれなかったの。ガブリエルのことを軽蔑していたの。だって、そんなことができる人だなんて考えたこともなかったから。ただいっぽうでは、ガブリエルがああしたことをやったのは当然だ、とも思っていた。当時はおそらく、どんな人でも、ガブリエルがやったことを知ったとしても別に驚かなかったと思う。ガブリエルを軽蔑する気持ちと肯定する気持ち、その両方が私の中で綯い交ぜになって、自分でももうどうしていいかわからなくなっていたの。恐ろしくてたまらなかった。なにがどう恐ろしかったのかと言われるとわからないのだけれど。(…)けっきょくのところ、密告する人なんてどこにでもいるということなのよね。戦争中であろうがなかろうが、人はいつだって、自分の置かれた状況次第では、平気で誰かを密告してしまうものなのよ。(本書より)
経済が崩壊し、人心が鬱屈したアイルランドの地方都市に暮らす無軌道な若者たちを、繊細かつ暴力的な筆致で描きだす、ニューウェイブ文学の傑作。世界が注目する新星のデビュー作!ガーディアン・ファーストブック賞、ルーニー賞、フランク・オコナー国際短編賞受賞!
幼き日々を懐かしみ、愛する妹との絆の回復を望む判事の女と、 その思いを拒絶して、乱脈な生活の果てに恋人に裏切られる妹。 先人の足跡を追い、ペトラの町の遺跡へ辿り着く冒険家の男と、 名も知らぬ西欧の女性に憧れて、夢想の母と重ね合わせる少年。 ノーベル文学賞作家による珠玉の一冊! ペルヴァンシュはまたもかたくなになっていた。クレマンスが表しているものすべてを、社会的地位だの、責任だの、権威だのを憎んでいた。ある瞬間、こんなあばら家を出て、あんなひどい人たちから遠く離れたところに行けるようにあなたを助けてあげられるわ、お金を貸してあげられるわと、ぎこちなく口にした。ペルヴァンシュは猛然と反発した。(「心は燃える」より) きっと、アリがひとこと頼みさえしたら、サマウェインは自分の宝物を見せただろう。手紙の束を、何枚もの黄ばんだ写真を、そしてなによりも、女性の腕に抱かれた赤ん坊がうっすらと写っている写真を。海の向こうからやってきた金髪の女性、父を連れて行ったその女性を、サマウェインは母と呼んでいる。(「宝物殿」より) 心は燃える 冒険を探す 孤独という名のホテル 三つの冒険 カリマ 南の風 宝物殿 各篇解題 訳者あとがき
ルイス・キャロル、コナン・ドイルらが所属した心霊現象研究協会の会長による幽霊譚の古典、ロンドン留学中の夏目漱石が愛読し短篇小説の着想を得た名著、120年の時を越えて、待望の本邦初訳! はじめに 第一章 夢 犬のファンティ/マーク・トゥエインの話/食堂に入りこんだ豚/モクセイソウ/なくした小切手/アヒルの卵/なくした鍵/古い証券/十分の一税の滞納金/ふたりのクルマ/アッシリアの神官/よろい戸の節目 第二章 夢と幻視 メアリー・スチュアートの宝石/死の床/パーシバル首相暗殺の夢/ガラガラヘビ/赤いランプ/口ひげの下の傷/サンゴ模様のクラバット/サテンの上靴/死んだ店主 第三章 水晶玉による幻視 ある外交官の話/ランプの下にいた人/ベルをつけた牛/ルイ一四世の臨終 第四章 幻覚 二頭立ての馬車/食事会から帰ってきた幽霊/赤い傷跡/幽霊と肖像画/抑えこむ手/修道士の聞いた声/エレベーター前に立つ男 第五章 生き霊 エカテリーナ二世の生き霊/幽体離脱/タビストック通りで/ウィンヤード氏の幽霊/ブルーアム卿の物語/死にゆく母親の話/花嫁の幻影 第六章 死者の幽霊 デヴォン州スプレイトンの幽霊、一六八二年/ジョージ・ヴィリヤーズ卿の幽霊/ある王党員の記述/ウィンダムの手紙/リトルトン卿のもとに現れた幽霊 第七章 目的を持って現れた幽霊 デイヴィーズ軍曹の殺害/デイヴィーズ軍曹殺害事件について/庭師の幽霊/モーズの犬/ピーターの幽霊 第八章 幽霊 タイコンデロガ/ティローン伯爵の幽霊/午前一時半のできごと/常夜灯を消す幽霊 第九章 幽霊と幽霊屋敷 きしむ階段/食料品屋の咳/ガイドの父親の話/夢でノックしたドア/ピンク色の服の娘/幽霊部屋の犬/黒い服の婦人/踊る悪魔 第一〇章 近世の幽霊屋敷 ウェスリー家の幽霊/セント・ヴィンセント卿の身内の幽霊譚 第一一章 さらなる幽霊屋敷 霊に憑かれたチャン夫人/アマーストの大いなる謎/ドナルド・バンとボカン/ヒャルタスタッドの悪魔/ガルプスダルの幽霊 第一二章 大昔の幽霊 グラームの物語/〈ファウルフォーズ〉またはロングフォーマカスの蹄鉄工 第一三章 アイスランドの幽霊 フローザーの怪異 第一四章 さまざまなおばけ 出現する手/冷たい手/黒い犬と親指のない手/指を嚙む幽霊 原註/訳註/訳者あとがき 一二〇年の時を経てあらわれた幻の本 吉田篤弘
9歳での初恋から23歳での命がけの恋までーー彼の人生を通り過ぎて行った、10人の乙女たち。 バルガス・リョサが高く評価する“ペルーの鬼才”による、振られ男の悲喜劇。ダンテ、セルバンテス、スタンダール、プルースト、ボルヘス、トルストイ、パステルナーク、ナボコフなどの名作を巧みに取り込んだ、日系小説家によるユーモア満載の傑作長篇! いつもほかの男と去っていった僕の愛しき戦友たちーーもしくはスペイン版第三版・メキシコ版初版への序文 絵空事への弁明ーーもしくはスペイン版第二版・ペルー版初版への序文 プロローグーースペイン語版初版への序文 第一章 カルメン 第二章 タイス 第三章 カロリーナ 第四章 アリシア 第五章 カミーユ 第六章 アレハンドラ 第七章 アナ・ルシア 第八章 レベカ 第九章 ニノチカ 第十章 イツェル エピローグ 解説 リカルド・ゴンサレス・ビヒル
双子の姉を交通事故で喪った、十六歳の少女。自らの半身というべき存在をなくした彼女は、家族や友人らの助けを得て、悲しみのなかでアイデンティティを立て直し、新たな歩みを始める。全米が注目するハイチ系気鋭女性作家による、愛と抒情に満ちた物語。 「わたしは、本書の日本語版をみなさまに読んでいただけることをとても光栄に思っています。(…)この本が世に出てから一年あまりのあいだに、わたしは何百人もの読者に会いました。十二歳から九十二歳までの年齢層の人びとです。彼らはそれぞれに、この物語にどんなに心を打たれたかをわたしに伝えてくれました。(…)主人公はまだ少女といえる年齢で、その若さは物語のひとつの大事な側面ではありますが、彼女をめぐる物語の全体は、老若男女の別なく誰にも共感できるものと信じます。読者の方々はまた、この本が愛のーーロマンチックな愛と家族の間の愛の両方のーー不思議とともに、生と死について語っていることを喜んでくれています。それに、ボワイエ家の人びととマイアミのハイチ人コミュニティの人びととのつながりや、ボワイエ家の人びとの目に映る生まれ故郷のハイチの姿も楽しんでくれています」--「日本の読者への手紙」より
辺境の町に流れ着き、保安官となったカウボーイ。酒場の女性歌手に知らぬうちに求婚するが、町の荒くれ者たちをいつの間にやら敵に回して、命からがら町を出たもののー。書き割りのような西部劇の神話的世界を目まぐるしく飛び回り、力ずくで解体してその裏面を暴き出す、ポストモダン文学の巨人による空前絶後のパロディ!
波乱の実録!戦国時代末期。血みどろの策謀渦巻く奥三河の地に、おんな地頭として一族と領地領民を守り抜き、井伊の赤鬼と恐れられた宿縁の養嗣子=直政(虎松)を育て上げた次郎法師直虎。数奇な運命に彩られた幕臣筆頭井伊家中興の二人。
ある日突然、病魔に襲われ、追い討ちをかけるように降りかかる身内の不始末。絶望の淵に立たされた主人公に、復帰を遂げる日は来るのだろうか?闘病生活で出会った女性たちとのふれあいを通して、多様な身心の“肉欲”を描き切った書き下ろし作品。
西部劇、ミュージカル、チャップリン喜劇、『カサブランカ』、フィルム・ノワール、カートゥーン……。あらゆるジャンル映画を俎上に載せ、解体し、魅惑的に再構築する! ポストモダン文学の巨人がラブレー顔負けの過激なブラックユーモアでおくる、映画館での一夜の連続上映と、ひとりの映写技師、そして観客の少女の奇妙な体験! 予告編 『名画座の怪人』 今週の連作 『ラザロのあとに』 冒険西部劇 『ジェントリーズ・ジャンクションの決闘』 おすすめの小品 『ギルダの夢』 『フレームの内部で』 『ディゾルヴ』 喜劇 『ルー屋敷のチャップリン』 休憩時間(インターミッション) お子様向けマンガ映画 紀行作品 『一九三九年のミルフォード・ジャンクションーー短い出会い』 ミュージカル 『シルクハット』 ロマンス 『きみの瞳に乾杯』 訳者あとがき
リディア・デイヴィスの記念すべき処女作品集! 「アメリカ文学の静かな巨人」のユニークな小説世界はここから始まった。 話 オーランド夫人の恐れ 意識と無意識のあいだーー小さな男 分解する バードフ氏、ドイツに行く 彼女が知っていること 魚 ミルドレッドとオーボエ 鼠 手紙 ある人生(抄) 設計図 義理の兄 W・H・オーデン、知人宅で一夜を過ごす 母親たち 完全に包囲された家 夫を訪ねる 秋のゴキブリ 骨 私に関するいくつかの好ましくない点 ワシーリィの生涯のためのスケッチ 街の仕事 姉と妹 母親 セラピー フランス語講座 その1-- Le Meurtre 昔、とても愚かな男が メイド コテージ 安全な恋 問題 年寄り女の着るもの 靴下 情緒不安定の五つの徴候 訳者あとがき
教皇の座を手にし、アレクサンドル六世となるロドリーゴ、その息子にして大司教/枢機卿、武芸百般に秀でたチェーザレ、フェラーラ公妃となった奔放な娘ルクレツィア。一族の野望のためにイタリア全土を戦火の巷にたたき込んだ、ボルジア家の権謀と栄華と凋落の歳月を、文豪大デュマが描き出す!
本は読むことはできない。 再読することしかできない。 自らの伝記的事実と作品をパロディー化し、物語のそこここに多様なモチーフ(サーカス、コンメディア・デッラルテ、気象、右と左……)を潜ませるーー ナボコフが仕組んだ「間違いさがし」を解き明かす訳注付き。
『エトワール広場』は、モディアノが22歳で発表した“衝撃のデヴュー作”であり“最大の問題作”である。ノーベル賞の授賞理由である「ナチ占領下の世界の人生を描き出した“記憶の芸術”」とは本作を対象とする。「仲間を裏切ったユダヤ人」の息子として生まれた精神不安、アイデンティティの危機、そして、レジスタンス神話による「抵抗したフランス」の嘘、ナショナルヒストリーによって忘却されていく人々の人生…。モディアノ文学の核心・問題意識のすべてが、鮮烈に描き込まれている。翻訳不可能とも言われてきたが、ついに翻訳が完成した。第2作『夜のロンド』も併載/詳細な“解説”“訳注”“関連地図”付き。ノーベル文学賞受賞作(2014年)