出版社 : 岩波書店
「彼女に恋していたから、彼は苦痛だった」--裕福な趣味人マリオルは、心ならずもパリ社交界の女王ビュルヌ夫人に魅惑される。マリオルの繊細な愛情を喜びながらも、夫人がなにより愛するのは自らとその自由……。独立心旺盛な女と、女に振り回される男のずるさ、すれ違う心の機微を、死期の迫った文豪が陰影豊かに描く。 第一部 第二部 第三部 地 図 解 説
三十以上の言語に翻訳されている、世界的によく知られた名作。現代カタルーニャ文学の至宝と言われる。スペイン内戦の混乱に翻弄されるように生きたひとりの女性の愛のゆくえを、散文詩のような美しい文体で綴る。「この作品は、私の意見では、内戦後にスペインで出版された最も美しい小説である」(G.ガルシア=マルケス)。 地 図 ダイヤモンド広場 * 解 説(田澤 耕)
ジェノバの少年マルコが母親を捜して遠くアンデスの麓の町まで旅する「母をたずねて三千里」の原作を収録。どこの国でも、いつの時代でも変わらない親子の愛や家族の絆、あるいは博愛の精神を、心あたたまる筆致で描く、デ・アミーチス(1846-1908)の代表作。世界中の人びとに愛読されつづけてきたイタリア文学の古典的名作の新訳。改版 十 月 始業式の日 担任の先生 不幸なできごと カラブリアの男の子 ぼくの同級生 やさしいふるまい 二年のときの先生 屋根裏部屋で 学 校 パドヴァの愛国少年(今月のお話) えんとつ掃除の子 万霊節(死者の日) 十一月 ぼくの友だちガッローネ 炭屋と紳士 弟の担任の先生 かあさん 同級生のコレッティ 校長先生 兵隊さん ネッリをかばうもの クラスの一番 ロンバルディーアの少年監視兵(今月のお話) 貧しいひとたち 十二月 商売人 み え 初 雪 左官屋くん 雪合戦 女の先生たち けがをしたひとの家で フィレンツェのちいさな代書屋(今月のお話) 意志の力 感謝の気持ち 一 月 助手の先生 スタルディの図書室 鍛冶屋の息子 うれしいお客さま ヴィットリオ・エマヌエーレの葬儀 フランティ,学校を追いだされる サルデーニャの少年鼓手(今月のお話) 国を愛する心 ねたみ フランティのおかあさん 希 望 二 月 ふさわしいメダル すばらしい決心 機関車 思いあがり 仕事のけが 囚 人 おとうの看護人(今月のお話) 仕事場 ちいさな道化師 謝肉祭の最後の日 目の見えない子どもたち 病気の先生 道 三 月 夜の学校 けんか 子どもの親たち 七十八号 ちいさな死 三月十四日の前日 賞状授与式 口あらそい ねえさん ロマーニャの血(今月のお話) 瀕死の「左官屋くん」 カヴール伯爵 四 月 春 ウンベルト王 幼稚園 体育の授業で とうさんの先生 回復期 労働者の友だち ガッローネのおかあさん ジュゼッペ・マッツィーニ 市民勲章(今月のお話) 五 月 くる病の子どもたち 犠 牲 火 事 母をたずねて三千里アペニン山脈からアンデス山脈まで(今月のお話) 夏 詩 耳のきこえない女の子 六 月 ガリバルディ 軍 隊 イタリア 気温三十二度 とうさん 野原で 工員さんの賞状授与式 先生が亡くなった ありがとう 遭 難(最後の月のお話) 七 月 かあさんの最後のページ 試 験 最後の試験 さようなら 《解説》想像力のゆくえーー教育と物語のはざまで(和田忠彦)
大逆事件と時代への批判,諦観の想いを述べた「花火」,反時代性の果てにあるエロスをテーマとした「夏すがた」,爛熟した江戸情調への追慕を綴った戦前の小説,随筆を精選した.「来訪者」は,戦中に執筆され,終戦直後,発表の実験小説,鶴屋南北の「四谷怪談」を連想させる,男女の交情を凄愴の趣を込めた描いた問題作.(解説=多田蔵人) 花 火 曇 天 怠 倦 銀座界隈 花より雨に 蟲 干 初 硯 * 夏すがた にくまれぐち あぢさゐ 女中のはなし 来訪者 夢 解 説ーー永井荷風・沈黙の論理……………多田蔵人
満洲の牡丹江にある森田酒造の店主・森田勇太郎は、馬賊の襲撃に怯えながら関東軍の協力もあって森田酒造を満洲一の造り酒屋にした。勇太郎・波子の娘・美咲の家庭教師だった白系ロシア人のエレナは、森田家に出入りしていた恋人氷室啓介によって家族の目の間で処刑された。いったいエレナに何があったのか。映画・テレビドラマ・ラジオドラマ・舞台上演などがなされた著者の代表作。(全二冊) 『赤い月』岩波現代文庫版刊行にあたって エレナ ハルビンへ 小 樽 大 地
ソ連軍の侵攻と現地人の暴動に遭い、酒造は倒産。波子は幼い二人の子どもを抱えハルビンに逃げたが、すべての金品を奪われ、再会した夫の勇太郎は強制労働の果てに病死。避難所で波子のもとに現れた恋仲だった氷室は阿片によって廃人同然になっていた。引揚げが始まり、波子の看病で恢復した氷室は現地で日本人難民の帰還に奔走する。映画・テレビドラマ・ラジオドラマ・舞台上演などがなされた著者の代表作。(解説=保阪正康) 泥の花 ロマノフカ村 邂 逅 波 子 夜 咄 参考資料一覧 解 説……………保阪正康
江戸期戯作への耽溺と,新しい西洋小説への志向とで,明治前半期の文学状況を体現し,華々しくも旺盛な執筆活動によって文壇に一時代を築いた紅葉.「二人比丘尼色懺悔」「恋山賤」「心の闇」ほか,全六編を収録.
売れない作家の子として生を受けた芥川賞作家が,書き継いできた作品から単行本未収録のものも含めセレクト.デビューから最近の作品まで読んでいくと,作家の歩みにとどまらず,時代の息吹が伝わってくる.解説,唯川恵. 1 雷 魚 木 刀 馬 2 兄の恋人 妹の感情 3 逃亡ヶ崎 落ちてきた男 池のほとりで 4 祈 り セカンド パリの君へ 後書き 解 説(唯川恵)
甲高い少女の叫び声、ネズミ花火の炸裂音、空襲警報、戦争が終わったあとの、静穏と澄明ー。耳底に刻まれた“音”の記憶をたよりに、人生の来し方を一人称“私”ぬきの文体で描く自伝的長篇『耳の物語』二部作の前篇。幼少年期から大学を卒業するまで、闇のなかでふるえながら眠る蛹のような記憶を、隠喩に満ちた彫心鏤骨の文章でたどる。
「名前のないモノ」ばかり作る大工、「世界でもっとも偉大な詩」を書いている詩人、父親が違う七人の子どもを生んだおっ母さん──少年の眼を通して語られる、「ミゲル・ストリート」で生まれた十七の人生の物語は、みな風変わりで、そしてちょっと切ない。ノーベル賞作家ナイポールの実質上の処女作にして、必読の一作。 1 ボガート 2 名前のないモノ 3 ジョージとピンクの家 4 彼の天職 5 マン・マン 6 B・ワーズワース 7 腰抜け 8 花火技術者(パイロテクニシスト) 9 タイタス・ホイット,教養学士 10 母性本能 11 青いゴミ収集カート 12 ラブ,ラブ,ラブ,アローン 13 機械いじりの天才 14 念には念を 15 兵隊がやって来るまで 16 ハット 17 僕がミゲル・ストリートを去ったいきさつ 訳者あとがき
昭和10年代の東京を舞台にして、ヒロインの起伏にとんだ日々を描いた『浮沈』、浅草の若い女性が逞しく生きる姿を活写した『踊子』。「蟲の声」「冬の夜がたり」「枯葉の記」は、散文詩の如き小品。戦時下に執筆され、終戦直後に発表、文豪の復活を告げた。時代をするどく批判した文学者・荷風による抵抗の文学。
ヨーロッパの前衛、熱帯の自然、土着の魔術と神話が渾然一体となって蠱惑的な夢を紡ぎだす大地ラテンアメリカーー。ガルシア=マルケス、バルガス=リョサなどはもちろん、アストゥリアス、パスなどの先行世代、アジェンデ、アレナスなどのポスト・ブームの作家まで、20世紀後半に世界的ブームを巻き起こした南米文学の佳篇16篇。 1 多民族・多人種的状況/被征服・植民地の記憶 青い花束……………オクタビオ・パス チャック・モール……………カルロス・フエンテス ワリマイ……………イサベル・アジェンデ 大帽子男の伝説……………ミゲル・アンヘル・アストゥリアス トラスカラ人の罪……………エレーナ・ガーロ 日 蝕……………アウグスト・モンテローソ 2 暴力的風土・自然/マチスモ・フェミニズム/犯罪・殺人 流れのままに……………オラシオ・キロガ 決 闘……………マリオ・バルガス=リョサ フォルベス先生の幸福な夏……………ガブリエル・ガルシア=マルケス 物語の情熱……………アナ・リディア・ベガ 3 都市・疎外感/性・恐怖の結末 醜い二人の夜 ……………マリオ・ベネデッティ 快楽人形……………サルバドル・ガルメンディア 時 間……………アンドレス・オメロ・アタナシウ 4 夢・妄想・語り/SF・幻想 目をつぶって……………レイナルド・アレナス リナーレス夫妻に会うまで……………アルフレード・ブライス=エチェニケ 水の底で……………アドルフォ・ビオイ=カサーレス 解 説(野谷文昭) 初出一覧
欧州から帰朝した洋画家湯川譲二は、毎日手紙を寄越す不思議な女に翻弄されるうちに女は失踪。女の友人つゆ子と捜索の旅に出た譲二はつゆ子に魅かれるが、さらに湯浅の絵のファンだという女学生とも子が現れ…。画家・東郷青児をモデルにした宇野千代(1897-1996)の代表作。現代恋愛小説の白眉。
「生きるとはただ動くという事じゃない。…自分の意志が動いた時、それがよし肉体を破滅に導こうとそれは生の否定ではない。肯定である」。関東大震災後の混乱のなか、伊藤野枝、大杉栄や、多くの朝鮮人が虐殺され、金子文子とパートナーの朴烈は大逆罪に問われた。無籍者、虐待、貧困ー過酷な境遇にあって、自らの生を全力で生きた文子。獄中で自殺するまでの二十三年の生涯を、実地の取材と資料を織り交ぜ描く、不朽の伝記小説。
徳高き神父フェレイラはなぜ棄教したのか? 沢野忠庵と名を変え、キリシタン弾圧に加わり、キリスト教を批判する書物まで著した裏切り者、コラボ(対敵協力者)。その人生と心象、そして西欧による世界支配の先兵としての宣教への懐疑を、史実の行間を有機的につなぎながら、サスペンスフルかつ自由闊達に描く歴史フィクション。 入祭唱(イントロイト) 憐れみの賛歌(キリエ) 怒りの日(ディエス イレ) 奉献唱(オッフェルトリウム) 終祭唱(イテ ミサ エスト) エンゲルベルト・ケンペルによるエピローグ,一七二七年 謝 辞 訳者あとがき
懐かしのタンソンヴィル再訪が明かす、幼年時代の秘密。数年後、第一次大戦さなかのパリでも、時間は、容赦なく人びとと社会とを変貌させる。新興サロンの台頭、サン=ルーの出征、「破廉恥の殿堂」での一夜……。過去と現在、夢と現実が乖離し混淆するなかで、それを見つめる「私」に、文学についてのある啓示が訪れる。(全14冊) 凡 例 『失われた時を求めて』の全巻構成 本巻について 本巻の主な登場人物 地図(一九一〇年前後のフランスとその周辺/一九一〇年前後のパリ) 第七篇 見出された時 1 場面索引 訳者あとがき(十三) プレイヤッド版との異同一覧 図版一覧 【『失われた時を求めて』の全巻構成】 第一篇 スワン家のほうへ コンブレー(以上,本文庫第一巻) スワンの恋 土地の名─名(以上,第二巻) 第二篇 花咲く乙女たちのかげに スワン夫人をめぐって(以上,第三巻) 土地の名─土地(以上,第四巻) 第三篇 ゲルマントのほう 一 二(以上,第五,六,七巻) 第四篇 ソドムとゴモラ 一 二(以上,第八,九巻) 第五篇 囚われの女(以上,第一〇,一一巻) 第六篇 消え去ったアルベルチーヌ(以上,第一二巻) 第七篇 見出された時(以上,第一三,一四巻)
はじめにーー柴田元幸 The Modern Series of English Literature より 身勝手な巨人……………オスカー・ワイルド(畔柳和代 訳) 追い剝ぎ……………ダンセイニ卿(岸本佐知子 訳) ショーニーン……………レディ・グレゴリー(岸本佐知子 訳) 天邪鬼(あまのじゃく)……………エドガー・アラン・ポー(柴田元幸 訳) マークハイム……………R・L・スティーヴンソン(藤井 光 訳) 月明かりの道……………アンブローズ・ビアス(澤西祐典 訳) 秦皮(とねりこ)の木……………M・R・ジェイムズ(西崎 憲 訳) 張りあう幽霊……………ブランダー・マシューズ(柴田元幸 訳) 劇評家たちあるいはアビー劇場の新作ーー新聞へのちょっとした教訓……………セント・ジョン・G・アーヴィン(都甲幸治 訳) 林檎……………H・G・ウェルズ(大森 望 訳) 不老不死の霊薬……………アーノルド・ベネット(藤井 光 訳) A・V・レイダー……………マックス・ビアボーム(若島 正 訳) スランバブル嬢と閉所恐怖症……………アルジャーノン・ブラックウッド(谷崎由依 訳) 隔たり……………ヴィンセント・オサリヴァン(柴田元幸 訳) 白大隊……………フランシス・ギルクリスト・ウッド(若島 正 訳) ウィチ通りはどこにあった……………ステイシー・オーモニア(柴田元幸 訳) 大都会で……………ベンジャミン・ローゼンブラット(畔柳和代 訳) 残り一周……………E・M・グッドマン(森慎一郎 訳) 特別人員……………ハリソン・ローズ(西崎 憲 訳) ささやかな忠義の行い……………アクメッド・アブダラー(森慎一郎 訳) 芥川龍之介作品より 春の心臓……………ウィリアム・バトラー・イェーツ(芥川龍之介 訳) アリス物語(抄)……………ルイス・キャロル(芥川龍之介・菊池寛 共訳) 馬の脚……………芥川龍之介 おわりにーー澤西祐典 附 芥川龍之介による全巻の序文と収録作品一覧