出版社 : 徳間書店
さりげない会釈。思わせぶりな挨拶。畏れと媚びをふくんだ視線。六本木の街をゆく“J”に、そんなものがつきまとうようになった。たった一人でマシンガン片手に、コカイン密売組織を襲い、壊滅させた伝説のヒーローになってしまったのだ。誘惑も多い。その日の獲物は肉感的な唇をもった性悪猫のような魅力を放つ女だ。あえぎながら女は、シャワーを浴びるように懇願した。しかし、シャワーカーテンの隙間から突き出されたのはサイレンサー付きのワルサーP5だった。“J”を狙う執拗な視線。解き放たれた獣のゆくてには。
桝井一家の幹部格である尾形菊治は、ヤクザ渡世に嫌気がさし、突然盃を返すと言い出した。親分の怒りを買ったものの、周囲の取りなしで破門を免れ、所払い五年となった彼は、後見人の北浦亀吉から神奈川の土木請負業者丸高組を紹介される。心機一転、カタギの商売に専念し、組を興すようにまでなったが、汚い手口で私腹を肥やそうとする佐々岡組の柳五郎と対立関係に陥ってしまう。
愛車スカイラインGTRを改造し、N1耐久レースで好成績をあげた瀬木治男・北路滋チーム。その余韻さめやらぬうちに、ビッグニュースが飛び込んできた。ニスモからグループAのトップレース・インターTEC参加の誘いを受けたのだ。スポンサーもつき、優秀なメカニック新村芳実の手によりマシンも完璧に仕上がった。再び富士スピードウェイを男達の夢が駆け抜ける。長篇カーレース小説。
渋谷警察署に夫・岡本三郎を殺した、という妻・秀美からの通報が入った。酒を飲んで暴れるので包丁で刺したらしい。直ちに検視班が編成され、そのメンバーである玉井昭子警部補、その夫で部下の玉井道夫部長刑事らが現場に急行した。確かに凶器の包丁には秀美の指紋しかついていない。が、炊事係は娘の弘美だったという。玉井夫妻は早速弘美のいる水戸へ向かった。その頃水戸の隣、大洗の大森旅館では別の事件が起きていた。金融業の安倍茂三の死体が見つかったのだ。早春の鹿島灘で繰り広げられる謎の三重殺人とは。書下し長篇ミステリー。
グラマンF6F72機がトラック島東北東から迫りつつあった。海戦の主役が空母から航空機に移った昭和十九年、日本海軍創設以来、最も長い悪夢が始まった-横山信義『我、奇襲に成功せり』。慶応四年、新政府に江戸城を明け渡した徳川幕府の陸軍部隊が、武器を携って消えた。激戦の宇都宮攻防戦を描く-大山格『アッカラケ』。最強のファイター・パイロット三名が太平洋上でベイルアウトする事故が発生。その瞬間、異常な体験に襲われたイーグル・ファイターの極限風景は。-佐藤大輔『晴れた日はイーグルにのって』。書下し競作ヒストリカル戦記。
修道院で育った天涯孤独の美少女・山崎紫苑は、完璧な殺人マシーン。神の名の下に組織に純粋培養され、政府の要人らを始末する日日を過ごしていた。そんなある日、完全防備のはずのマンションの部屋に何者かが侵入し、殺されかける。さらに好意を寄せていた管理人も、実は紫苑を狙う暗殺者であった。いったいなぜ。不安と絶望のさなか、偶然出会ったフリーのカメラマン・伊東から、初めて現実世界を知らされる。伊藤を愛するようになり、自我が芽生えた紫苑は、次第に組織と自分との存在に疑いを…。
「李修龍。君は本日をもって、粉嶺辺区警察に転属になった」狂龍というあだ名をもつ男は拳を握りしめた。たった今まで彼は皇家香港警察の湾仔総部重案組(特捜隊)を率いる幇弁(警部)だった。最精鋭のO記で組織犯罪と三合会(正統派黒社会)を専門に捜査するのが任務だった。そりぁ、軌道をはずした強引な捜査をしなかったとはいわないさ。にしても九広鉄路が通う国境の街へ、なぜ左遷されなきぁならんのだ。若い散仔を相手にケチな事件を追うと考えると、意外にも。痛快無比。笑殺ハードボイルドの新浪潮傑作。
一九六六年、第二次大戦の戦後処理特殊部隊として結成された“ロジャーズ・ラフネックス”のメンバーの一人、藤巻誠二も四十三歳をむかえようとしていた。東西冷戦、ベトナム戦争という世界情勢を背景に未曽有の高度経済成長を遂げようとしていた日本で三児の父となり、そろそろ退役かといった彼の元へ飛びこんできたのは、かつての戦友、ロジャー・ボングの絶体絶命の危機の報せであった。誠二はロジャーの愛娘・ジェニファーとともに彼が捕らわれているカシミールへとむかうが…。刮目の軍事冒険アクション第三弾。
偶然出会った男・松岡弘樹と淫蕩な日々を送るOLのみゆき。優しい舌戯と愛撫に満たされ、みゆきは官能の世界に溺れていく。弘樹に金の無心をされ、全財産を貢ぎ込んだ挙げ句、サラ金に手を出してまで弘樹をつなぎ止めようとするが、遂にSMクラブに売られてしまう。特異な性戯を調教され、新たな肉欲に目覚めるみゆき。その時、弘樹は密かに悪計を練っていた。
先輩の代理で前衛華道のパーティに出席した村尾栄進は、岡庭理恵子と名乗る女と知り合う。会場を出て二人きりになった時、村尾は理恵子から、自分は不感症で、感じさせてくれる男を探している、と打ち明けられる。不安と期待が交錯するなか、村尾は理恵子をラブホテルにいざない、理恵子の願いを叶えようと白い女体に挑むが…『薔薇の滴り』。ほか六篇を収録。
野心家の須藤恭介と、純朴そのものの津村良太は幼馴染みである。二十二歳で上京した良太はバーの経営者・山脇に傾倒し、一方の恭介は極道と接触し、傍若無人の渡世を送っていた。運命のいたずらか、恭介の会社が推す地上げ工作が山脇の許に及び、抵抗する山脇は暴力団による放火の犠牲となってしまう。正義感の強い良太は暴力団の一人を刺殺し服役することになる。その間、持ち前の運とずる賢さで着実に青年実業家としてのしあがっていく恭介は、金儲けに執着するあまり、次第に精神が蝕まれ、人間性を失っていく…。