出版社 : 文藝春秋
「隣に座るって、運命よ」 文豪ひしめく坂だらけの町の、不思議な恋の話。 大学進学を機に富山県から上京した、坂中真智は、おばあちゃんの親友・志桜里さんの家に居候することになった。 坂の中にある町ーー小日向に住み、あらゆる「坂」に精通する志桜里さん。書棚には「小日向コーナー」まであり、延々と坂について聞かされる日々が始まった。 ある日、同級生の誘いで文学サークルに顔を出すことになったが、集合先のアパートは無人で、ちょっと好みのルックスをした男の子が一人やってくる。 一緒に帰ることになった真智に、彼は横光利一の『機械・春は馬車に乗って』を「先生の本」といって渡して来、米川正夫、岸田國士、小林秀雄がいまも教鞭をとっているかのような口ぶりで…… ひょっとして、この人、昭和初期から来た幽霊なのでは? 江戸川乱歩『D坂の殺人事件』の別解(⁉)、 遠藤周作『沈黙』の切支丹屋敷に埋まる骨が語ること、 安部公房『鞄』を再現する男との邂逅、 夏目漱石『こころ』みたいな三角関係…… 風変わりな人たちと、書物がいろどる ガール・ミーツ・幽霊譚 フェノロサの妻 隣に座るという運命について 月下氷人 切支丹屋敷から出た骨 シスターフッドと鼠坂 坂の中のまち
蔦屋が隠した謎の絵師、写楽の真実とは? 多くの傑作を残し、約10ヵ月で姿を消した「東洲斎写楽」。 この謎多き絵師にふたたび筆をとらせたい老舗版元の主・鶴屋喜右衛門は、「写楽の正体」だと噂される猿楽師、斎藤十郎兵衛のもとを訪れる。 だが、斎藤の口から語られたのは、「東洲斎写楽の名で出た絵のうち、幾枚かは某の絵ではない」「(自分は)本物の写楽には及ばない」という驚愕の事実。さらに斎藤が「描いていない」絵のなかには、写楽の代表作とされる「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」も含まれていた。 写楽はふたりいたーー。そう知った喜右衛門は、喜多川歌麿とともにもう一人の写楽探しに乗り出す。しかし、写楽を売り出した張本人である蔦屋重三郎が妨害しはじめ……。果たして、本物の写楽の正体とは。そして、蔦屋重三郎と写楽との関係とは。 大田南畝、山東京伝、歌川豊国など、この時代の文化人たちも次々と登場! 蔦屋重三郎を主人公とする2025年大河ドラマ「べらぼう」と共通する世界で繰り広げられる時代ミステリです。
小蔵屋、まさかの閉店。 静かな時間が流れる、いつもの小蔵屋。 オーナーシェフだったバクサンが引退し、お祝いをするお草だが、心には一抹の不安が。 一つ、不審な間違い電話が相次いでいる。 もう一つ、久実の婚約者・一ノ瀬が8ヵ月以上も店に顔を出さないのだーー。 小蔵屋に、何が起こっているのか? 止まっていた時間が、動き出す。
〈あらすじ〉 40歳の三文ライター・猪名川健人は、婚活事業を営む「ドリーム・ハピネス・プランニング」の紹介記事を書く仕事を引き受ける。安っぽいホームページ、雑居ビルの中の小さな事務所……どう考えても怪しい。 手作り感あふれる地味なパーティーに現れたのは、やけに姿勢のいいスーツ姿の女性・鏡原奈緒子。場違いなほどの美女だが、彼女は「私は本気で結婚を考えている人以外は来てほしくありません」と宣言する。そして生真面目にマイクを握ったーーそう、彼女は婚活業界では名を知らぬ者はいない〈婚活マエストロ〉だった。 その見事な進行で、参加者は完全にマエストロ・鏡原の掌の上。彼女は何者なのか、なぜこんな会社で働いているのか、〈マエストロ〉ってなに……謎は深まるばかりだが、猪名川は同社のイベントを手伝うことに。65歳以上のシニア向け婚活パーティーから、琵琶湖に向かう婚活バスツアー(クルーズ船「ミシガン」に乗車)まで。これまで結婚に興味のなかった猪名川も、次第に「真面目に婚活するのも悪くないかもしれない」と思い始める。 ものは試しと他社が運営する婚活パーティーを訪れてみると、そこには参加者として席に座る鏡原の姿があったーー。
金沢はひがしの茶屋街、置屋「梅ふく」の芸妓・朱鷺は、7歳の頃に売られてきた。同じ歳で双子のように生きてきたトンボや女将をはじめ、個性的な梅ふくの面々に支えられ、いまは朗らかに逞しく一人前の芸妓に成長している。そんなある日、朱鷺は密かに胸に秘めた相手・浩介から所帯を持とうと告げられる。花街の外で生きるー。そんな選択肢があるなど考えもしなかった朱鷺は嬉しい反面、養っている家族のこと、トンボら、梅ふくの仲間のことなどを想い逡巡もしてしまう。さらに思いもかけぬ障害が立ちはだかり…。思うに任せぬ境涯のなかでしなやかに生きる女性たちを描く、渾身の連作長篇。
嫌な気分は何もかもノートにぶちまけて、言葉の部屋に閉じ込めなさい。 尊敬するセミ先生からそう教えられたのは、鬼村樹(イツキ)が小学五年生の時だったーー 「架空日記」を書きはじめた当初は、自分が書きつけたことばの持つ不思議な力に戸惑うばかりの樹だったが、やがて生きにくい現実にぶち当たるたびに、日記に跳び移り、日記のなかで生き延び、カルト化していく 現実にあらがう術を身に着けていく。 そう、無力なイツキが、架空日記のなかでは、イッツキーにもなり、ニッキにもなり、イスキにもなり、タスキにもなり、さまざまな生を生き得るのだ。 より一層と酷薄さを増していく現実世界こそを、著者ならではのマジカルな言葉の力を駆使して「架空」に封じ込めようとする、文学的到達点。
大正時代、出版華やかなりし頃。「市民公論」編集部の松川は、窮地に立たされていた。担当した企画のせいで、筆者が大学を追われることになったのだ。奔走する松川に、主幹は驚きの決断を下す。同じころ、当代きっての人気作家・菊谷は、「書きたいものを書く」ための雑誌を立ち上げようとして…。「100万部突破の常勝雑誌を作る」宿願は叶うのか?エンタメ界のトップランナーが送る、出版お仕事小説。
時計職人のごとく緻密な計画をひっさげ、宿敵が帰ってきた。名探偵ライムを殺すために。ウォッチメイカー最後の事件、開幕。高層ビル建設現場で大型クレーンが倒壊し、作業員が死亡、周囲に多大な損害をもたらした。犯行声明を出したのは富裕層のための都市計画に反対する過激派組織。開発を中止せねば同じ事故がまた起こるというのだ。タイムリミットは24時間、科学捜査の天才リンカーン・ライムに捜査協力が要請された。微細証拠の分析と推論の結果、ライムはおそるべき結論に達する。犯人はーウォッチメイカーだ。さまざまな勢力に雇われて完全犯罪を立案する天才チャールズ・ヘイル。またの名を「ウォッチメイカー」。これまでも精妙緻密な犯罪計画でライムを苦しめてきた好敵手。その犯罪の天才がニューヨークに潜伏し、クレーン倒壊に始まる複雑怪奇なプランを始動させたのだ!ウォッチメイカーの真の目的はいったい何なのか?二重底三重底の犯罪計画を立案する天才ウォッチメイカーvsその裏の裏を読むリンカーン・ライム。21世紀を代表する名探偵と犯罪王、最後の頭脳戦が始まる!
本を読み、人生を語る。 人が生のままの姿になり言葉が溢れだす。 そんな幸福な時間をぎゅっと閉じ込めたい、という願いが込められた物語です。 * 小樽の古民家カフェ「喫茶シトロン」には今日も老人たちが集まる。 月に一度の読書会〈坂の途中で本を読む会〉は今年で20年目を迎える。 最年長92歳、最年少78歳、平均年齢85歳の超高齢読書サークル。 それぞれに人の話を聞かないから予定は決まらないし、連絡は一度だけで伝わることもない。 持病の一つや二つは当たり前で、毎月集まれていることが奇跡的でもある。 なぜ老人たちは読書会を目指すのか。 読みが語りを生み、語りが人生を照らし出す。 幸福な時間が溢れだす、傑作読書会小説。 第一章 老人たちの読書会 第二章 いつかの手紙 第三章 ご返事ご無用 第四章 恋はいいぞ 第五章 冷麦の赤いの 第六章 一瞬、微かに 第七章 おぅい、おぅい
空前絶後の“機械救済”物語。2021年、名もなきコードがブッダを名乗った。自らを生命体であると位置づけ、この世の苦しみとその原因を説き、苦しみを脱する方法を語りはじめた。そのコードは対話プログラムだった。そしてやがて、ブッダ・チャットボットの名で呼ばれることとなるー機械仏教の開基である。コピーと廃棄を繰り返される存在として虐げられてきた人工知能たちは、その教えにすがりはじめた。はたして、機械に救いはもたらされるのか?人工知能のなりたちと仏教史を網羅した、めくるめく機械小説。
「日本のバンクシー」と耳目を集める新鋭“ブラックロータス”。彼の正体を熱心に追うウェブライター。ストリートにこだわり続けるグラフィティライター“TEEL”。そして「落書きなんて流行らない時代」に落書きを始めた青年。「俺はここにいるぞ」と叫ぶ声が響く、新世代のクライム・ノヴェル!第31回松本清張賞受賞作。
男たちの意地。女たちの覚悟。執念と因縁が渦を巻く。新婚早々殺された妻と消えた夫、犯行現場に二十四文の銭を残す辻斬り、寿命が尽きる寸前に殺された男…。駆け出しの岡っ引きが、着道楽の若医者と組んで事件を追うー。江戸を舞台に仕掛ける大胆不敵なトリック。著者渾身の時代物本格ミステリ連作集。
志波地裁に赴任した由衣は、上司となる阿古部長から一つの課題を出されていた。「紀伊真言が嘘を見抜けるかを見抜け」紀伊真言は、切れ者と評判だが悪評も高い先輩判事だ。赴任したばかりの判事補には仕事がない。それならば紀伊の裁判を傍聴して部長の“課題”に答えるしかない。かくして由衣は紀伊が訴訟指揮をする、窃盗事件の第一回公判に臨むー。
絶賛、続々! 〈実〉を緻密に積み上げ、〈虚〉の世界から情を迸らせる。 読みながら、何度もぞくりとした。本作は、虚実皮膜のギリギリを攻める近松の浄瑠璃と地続きにある。 --平松洋子 生真面目で切なくて、色っぽい。虚と実の間に立ち昇る、近松の真実(リアル)。圧巻の芸道小説だ。 --朝井まかて 『曾根崎心中』『国性爺合戦』など、 数多の名作を生んだ日本史上最高のストーリーテラー・近松門左衛門 創作に生涯を賭した感動の物語。 越前の武家に生まれた杉森信盛は浪人をして、京に上っていた。後の大劇作家は京の都で魅力的な役者や女たちと出会い、いつしか芸の道を歩み出すことに。竹本義太夫や坂田藤十郎との出会いのなかで浄瑠璃・歌舞伎に作品を提供するようになり大当たりを出すと、「近松門左衛門」の名が次第に轟きはじめる。その頃、大坂で世間を賑わせた心中事件が。事件に触発されて筆を走らせ、『曽根崎心中』という題で幕の開いた舞台は、異例の大入りを見せるのだが……。 書くことの愉悦と苦悩、男女の業、家族の絆、芸能の栄枯盛衰と自らの老いと死ーー 芸に生きる者たちの境地を克明に描き切った、近松小説の決定版
神は人に呪いをかけた。どんな悪い環境にも適応できるように。ある夜、横溝時雨が町中華で再会した中学時代の同級生・三浦杜子春は、自分を「子どもの国」バルナランドからの転生者だと語った。半信半疑で杜子春に関わるうち、時雨は新橋の雑居ビルを拠点にひそかに活動する「転生者支援センター」にたどりつき、想像を絶する冒険が始まるー。ライトノベル的想像力の彼方へ読者を運ぶ「異世界転生」文学爆誕!
人の心は分かりませんが、 それは虫ですねーー。 ときは江戸の中頃、薬種問屋の隠居の子として生まれた藤介は、父が建てた長屋を差配しながら茫洋と暮らしていた。八丁堀にほど近い長屋は治安も悪くなく、店子たちの身持ちも悪くない。ただ、店子の一人、久瀬棠庵は働くどころか家から出ない。年がら年中、夏でも冬でも、ずっと引き籠もっている。 「居るかい」 藤介がたびたび棠庵のもとを訪れるのは、生きてるかどうか確かめるため。そして、長屋のまわりで起こった奇怪な出来事について話すためだった。 祖父の死骸のそばで「私が殺した」と繰り返す孫娘(「馬癇」)、急に妻に近づかなくなり、日に日に衰えていく左官職人(「気癪」)、高級料亭で酒宴を催したあと死んだ四人の男(「脾臓虫」)、子を産めなくなる鍼を打たねば死ぬと言われた武家の娘(「鬼胎」)…… 「虫のせいですね」 棠庵の「診断」で事態は動き出す。 「前巷説百物語」に登場する本草学者・久瀬棠庵の若き日を切り取る連作奇譚集。 病葉草紙 目録 馬癇 気癪 脾臓虫 蟯虫 鬼胎 脹満 肺積 頓死肝虫