1993年発売
ウィンチンガム卿は、まさに崖っぷちに立っていた。無謀な賭けで十万ポンドという損失をこうむり、このままでは財産の全てを失うしかない。自暴自棄になったウィンチンガム卿は、不承不承ながら、かれの被後見人であるティナ・クルームの大胆な企てに同意してしまう。ティナは、社交界にデビューさせてくれれば、そこで「金持ちの夫」を見つけるし、その男から卿の借金を返済できるだけの「結婚支度金」も手に入れてみせる、というのだ。こうして共謀者になった二人には、この計画はたやすく成功するかのように見えたのだが…。
寛政年間、仕込杖と絵筆を手に肥後・人吉領へ分け入った朝霞桔梗之介は、追い剥ぎに襲われていた人妻・小春と従者・セツを助ける。平家落人の末裔が住む秘境「五家ノ庄」へ戻るという女二人に同道して、桔梗之介は山深きかの地を訪れた。だが、日を経ずして小春の家に伝わる平家三宝刀の一振りが何者かに盗まれ、村は大混乱に陥る。痛快時代小説。
高校を中退し、亮司は体の弱い理恵と二人での暮らしをはじめる。自分は工場で働き、理恵はスーパーでパートを。しかし二人を待ちかまえていたものは…。みずからの体験をもとに、現代の愛と死という同世代の真実の姿を描ききった、感動の青春長編小説。
スポーツライターを襲う事件の数々。私に送られてくるもの…、カミソリ、ウンコ、親愛なるファンレター。しかしある日届いたものを開けると、あっと驚く中身だった。スポーツというワンダーランドに繰りひろげられる、本当の物語の数々。
承太郎とディオの激闘は灼熱の砂漠を抜け、エジプトのカイロへ。果てしなく広がる熱い砂の海で彼らの行く手を阻むものは何か。大ベストセラーのノベライゼーションが明かす秘められた死闘!
一年に一度開かれるドラフト会議ー。その裏ではペナントレース以上の過酷なドラマが繰りひろげられていた。有無をいわせぬ親会社からの指令、スカウト同士の熾烈な駆けひき、そして裏切り…。乱れ飛ぶ怪情報や思惑に、二人のエリート高校球児、木野原と久米田は運命を弄ばれる。高野連の規則を巧みに利用した裏工作とは?複雑に入り組んだ野球界の人間模様を描いた実録野球小説。
北山杉の茂る京都北郊の氷室で質素な身なりの十七、八歳の女性の死体が発見された。捜査本部の一員、魚津刑事は上司との折り合いが悪く、孤独な捜査と独自の勘で被害者の身元を探りだした。西沢奈々津は京都で就職しようとしていたが、その際すれ違った京都一のゼネコンの社長の連れと面識があるらしい-。魚津は相手がとても手に負えぬ大者がからんでいることから、かつて捜査合戦をして敗れた宮之原警部の登場を願わずにはいられなくなった。宮之原警部と魚津のコンビが明快な推理と積極的な行動で難事件を解決する書き下ろし長編旅情ミステリーの最高傑作。
名探偵・浅見光彦の母・雪江が四国霊場巡りの途中、交通事故で記憶を喪失した。二週間後、事故の加害者の久保彩奈が瀬戸大橋上で不可解な“自殺”を。記憶を取り戻した母の命令で高松を訪れた浅見は、彩奈の死の原因が、市主催の栗林公園の園遊会にあると推理した直後、彼女の兄が「ウラシマ・タロウノ・ホコ…」と謎の言葉を遺し殺害された。秋の讃岐路に浅見が掴んだ伝説の人物と意外な真相は。
鏑木兵庫は神田明神の境内を出たところで、侍達に追われる女に出くわした。行きがかりで7人の追手を斬り伏せ、女を助けたが、女は追われる理由について、一言も話さない。旗本か大名の侍女風で、背後に複雑な事情がありそうである。案の定、その女・津香と兵庫は次々の刺客に襲われた。刺客を放つは将軍家側用人・北多見若狭。兵庫の白刃が暴く大奥の確執。
江戸天保年間、平和が続き、爛熟が極まり、世の中が饐えた匂いをはなち始めた頃、闇に生き、悪に駆る六人の男たちがいた。河内山宗俊。片岡直次郎。金子市之丞。森田屋清蔵。くらやみの丑松。三千歳。人々は彼らに怯え、彼らを讃え、天保六花撰と呼んだー。時代を痛快に生きた男たちを描く、連作長編時代小説。
新選組隊士・相馬主計は、後に新選組隊長となったが、箱館五陵郭で降伏、思わぬ赦免で江戸に移る。第10回日本エンタテインメント小説大賞受賞の表題作など計6編、歴史の闇に埋もれた男たちの姿を描く小説集。
セックスがらみの揉めごと解決屋・氷室凍馬のもとに、名門の誉れ高い薔薇百合女子学園理事長・新藤有美が訪ねてきた。その依頼とは、同校の生徒が麻薬欲しさにアルバイトで売春をしているという密告の真偽を確かめることであった。思念によって性感を刺激し、めくるめく快楽の波に乗せて人物を自在に操る淫導術。その奥義を極めている凍馬は、売春を名指しされた十六歳の美少女・松尾香苗を待ち伏せし、彼女の奔放なまでの欲望に超絶性技で応えてやる。だが、香苗は売春組織の実体を知らず、ある衝撃的事実のみを語った。
安政二年の秋、甲州身延山の盆割りのことから、津向の文吉と武井の安五郎との間に喧嘩が起ころうとしたとき、双方無事に丸く収めたのはいま売り出しの親分清水の次郎長であった。しかし、このために次郎長は凶状旅となり、大政・小政らの子分とも別れ、独り旅に発っていった。不運に見舞われた次郎長であった。兄弟分の見付の友蔵一家に草鞋をぬいだ次郎長は、そこで女房お蝶と子分の森の石松とに出会って驚いた。旅先で苦労する親分次郎長の苦境を救うべく、石松はかつて次郎長に恩を受けた保下田の久六を訪ねた。ところが、久六は次郎長召捕りに向かった。遠州森町生まれの片目の快男子森の石松の最期まで、ベテラン木屋進の筆で痛快な物語が展開する。
経済的に破産した高圧的な父親と、精神的に破綻した息子、失われた美しい母親。ローマからミラノへ向かう旅の中でたどられてゆくはかない思い出。その道中で、いまだに青春の残照から抜けきれずにいる三十歳の息子が、父親に対して試みる一世一代でささやかな復讐劇。