1998年10月発売
痛切な芸術上の欲求を“西洋”そのものに求め、激しい西洋崇拝を表す「独探」、漢詩文に詠まれて以来、遊子の心になじみ深い山紫水明の地西湖を舞台にした「西湖の月」ほか、「玄弉三蔵」「ハッサン・カンの妖術」「秦淮の夜」「天鵞絨の夢」を収める異国綺談集。
“異変”は突然の出来事だった。新聞記者・福井浩介はある朝、普段とはまったく違う光景を目にするーいや、「世界」はそのままなのだが、そこからは「人間」の姿が一切消えてしまっていたのだ!福井の他にも何人かの“消え残り”が確認され、この異様な事態の究明に乗り出すのだが…。人類消失という極限の状況下、人はいかに行動し、文明はいかに機能するのかを描く異色SF長篇。
生きている食糧“視肉”、猿を思わせる怪物“猩猩”、空を飛ぶ魚、二メートルを超える大グモ…。悪夢のような動植物がはびこる世界で、守護神が甲虫である戦士ジローは、恋する女、ランへの思いをとげるために、女呪術師ザルアー、“狂人”チャクラとともに「月」を求めて旅立った。「月」とは何かを知らない三人は「空なる螺旋」を探せと教えられるのだが…。
地底の病院探検を敢行した里見捜査官と立松刑事は、時の杜の真下に壮大な秘密が仕掛けられていることに気づきはじめる。しかし、その一方で連続殺人は止まらない。不潔恐怖症の女、謎めいた言葉を繰り返す美少女、スピード狂の高校教師、七五調で喋るクラブ支配人、不可解な行動をとるオカマ歌手、禁断の御神体を知る老婆。疑い出せばキリがない容疑者だらけの状況で、こんどはまさかと思われる人物が撃ち殺された。
森には神が棲んでいる、しかし悪魔も棲んでいるー早川家の老母歌子は、時の杜地区一帯に仕掛けられた壮大なスケールの陰謀を示唆する。その一方で、これまで変人を装ってきた住人たちが、その意外な素顔を続々と表わしはじめた。いったい誰が味方で、誰が敵なのか。混乱する里見捜査官をよそに、一色舞子を刺し殺した犯人の正体がついに明らかにされた!だがそれでもなお、惨劇はその幕を下ろさなかった…。
果てることなき連続殺人の真相をなんとか解き明かそうとする里見捜査官は、犯人に襲われて重傷を負った精神科医鰐淵吾郎から、時の杜地区に秘められた驚くべき秘密を聞き出すことに成功する。地下に御神体を祀り、独自の哲学によって新しい社会を築こうとする姫神教信者たち。その教義は、現代日本の常識を根底から覆すものだった!だが、真犯人逮捕を目指し地下神殿に突入した里見を待ち受けていたのは…最後の悲劇。
残虐で淫蕩悪辣な帝王を討つのが正義か、忠を尽くすのが正義か…そんな人間たちの思惑を越えて行われる天の「封神計画」とは?紂王を惑わし悪政の限りを尽くす妖妃妲己。天命に従って商を討つ姜子牙(太公望)、滅びゆく王朝に殉じて戦う大師聞仲。ただ一人、逆らい続ける申公豹。想像力豊かに繰り広げられる妖怪、仙人たちの戦い。欲望と怒り、陰謀と憎しみ、友情と恋…人々の運命を巻き込んで、天の運がめぐる…。
明治五年のマリア・ルス号事件では自ら特別裁判を開いて中国人奴隷を解放し、また賤称廃止、娼妓解放に尽力するなど、大江卓は政治家・社会事業家として独自の足跡を残した。誰もが出世栄達を望み、派閥争いに汲々としていた時代に大勢順応の生き方を嫌い、頑として己れの信念を貫き通した彼の人間としての魅力に迫る。
明けがた5時、ブルーリアが、死んだ。ハイファでモルヒネ注射を打たれて、3時間後に意識不明のまま病院にかつぎこまれてから、1週間後のことだった。白い、こまかな雪が降っていた。ゲルティは窓のほうに目をやって、うれしそうな顔をした。「ねえ、スイスそっくりよ」そういって、彼女は微笑んだ。「イスラエルにも雪が降るなんて、今まで知らなかったわ」…深夜の精神病院でアルバイトをする主人公と、美しく謎めいた女性患者ブルーリアとの密やかな交感を描く表題作のほか、「パレルモの人形」「国境の少年」「薬剤師と世界救済」「真夜中の物語」など、英国統治下の古都エルサレムを舞台に、静謐な日々の記憶の底に潜む悲哀や喜びを、不思議なユーモアを交えて綴る珠玉の短篇の数々。イスラエルを代表する作家シャハルの傑作を精選した本邦初の作品集。仏メディシス賞外国文学賞受賞。
九月のある夜、月光に浸された南イングランドの田園のコテージで、年老いた女性が息をひきとった。村の学校の元教師エミリー・デーヴィスの死の知らせは、フェアエーカー村ゆかりの人々の間に静かに波紋を広げてゆく。記憶の中から浮かび上がる思い出の出来事の数々。エミリー先生の勇敢な精神と暖かい教えは、村を離れた昔の教え子たちや、土地に住む友人たちの心のうちに生きつづけていた。二つの大戦を生き抜いた女教師の姿を通して、二十世紀初頭から今日までの英国田園生活のパノラマが、詩情豊かに描き出される。簡潔な文体による写実。全編に溢れるユーモアと機知。英国を代表する田園作家ミス・リードの佳品を名訳で贈る。
自殺志願の男が思わぬ事件に巻き込まれる…三百三十人は殺されたのか?墓地でいきなり始まる銃撃戦。やがて見えてくる偽装工作。何かが隠されている!底知れぬ巨大な何かが!犯罪の臭いを嗅ぎつけた男を待ち受ける摩訶不思議な出来事…人類の文明を揺るがす先端研究の謎が明かされ、天国を見る者と地獄に落ちる者…崩れて行く足元と、誰も信じられない孤独…まさか!まさか!のドンデン返し。
アルファベットのYのように人生は右と左へ分かれていった-。貸金庫に預けられていた、一枚のフロッピー・ディスク。その奇妙な“物語”を読むうちに、私は彼の「人生」に引き込まれていった。これは本当の話なのだろうか?“時間(とき)”を超える究極のラヴ・ストーリー。