1999年発売
大天変と呼ばれる気候の大変動により極地の氷が融け、結果、水没地域のアジア・アフリカからの大量の移民が溢れ返ることになったロンドン。街全体が異国情緒に満ち、ロンドンの裏世界はさまざまな人種によって構成され、毎日騒然とした雰囲気に包まれている。しかも、「ドール」と呼ばれる人工的に合成された肉体に電子チップを埋めこんだ一種のロボットの人権を主張するグループが爆弾テロを繰り返していた。逮捕歴のある遺伝子ハッカーのアレックスは、戦闘用に改造したドールを闘わせる闘技場建設を試みるギャングと、そのギャングに私憤を抱く刑事の間に立っていたが、やがていやおうもなく争いに巻き込まれていった。そして、争いの渦中、現れた謎の美少女ミレーナはアレックスに手伝わせて盗んできたドールのチップを入れ替え、知性を持った「フェアリイ」を造りあげ、フェアリイとともに姿を消してしまった。アレックスはミレーナの後を追ったが…。アーサー・C・クラーク賞/ジョン・W・キャンベル記念賞を受賞した、イギリスSF界最高の有望作家が描く、ナノテクSFの傑作。
十二月三日に新宿公園、一月十三日に代々木公園、そして今日、一月二十三日に大久保公園で女性の絞殺死体が発見された。手口はすべて同じで抵抗した跡はなく、媾合しながらロープで首を締められ、また、現場の情況から、別の場所で殺された後そこに捨てられて、わざわざ局部をむき出しにされているのだ。被害者は、OLの山内幸代、女子大生の武田弥生、そして今日は、予備校で英語を教える佐々原明子だった。ムラマサこと警視庁歌舞伎町分室の村木正警視の必死の捜査が始った…!圧倒的迫力で描く迫真の書下し長篇。
戦闘で負傷したリンドハースト伯爵はチェルトナムで療養中ジゼルダを看護婦として雇い入れる。彼女は痩せこけていたが、誇り高く淑女であることがうかがえた。が、数日後、弟の手術代のために愛人候補の男性を探してほしいと途方もない依頼を伯爵にもちかけた。折しも、従弟の結婚を阻止しようと思案していた伯爵は、ジゼルダの難問を同時に解決すべく、一計を巡らせる。ジゼルダを裕福な貴婦人に仕立て従弟に求婚させようとする筋書きで大芝居が演じられることになったが…。
首吊り女が産んだ奇跡の子。齢千年の巨樹はその未来を見通した。親も家も名も持たぬ「おまえ」を待つ、腐臭を放つ二十一世紀の日本。「おまえ」は盗みをくりかえし、白毛の老猿が語る謎の詩集に導かれ、個の自由を求めて流れゆく。だが、猛火と爆発を逃れつづけた「おまえ」の姿が捉えられる瞬間はついにやってきたー。強烈なスリルと暴力的な興奮が横溢する新世紀への黙示録。
自由を蹂躪され、窮地に立たされた「おまえ」を救ったのは大地震だった。そして、その地異は首都を壊滅させ、民衆の理性を奪い去った。独裁者はこの機に乗じた。愚民はわれ先に従った。「おまえ」は詩集を味読し、ナイフを振り下ろした。酒浸りの日々から復活すると、運命を海に託した。そして波間で裏切られた。憤怒を楽しむ「おまえ」は流れゆく者の使命を悟り、真の敵へと向かう。
夫婦と、息子ひとりの3人家族。どこにでもある、新興住宅地の平穏で幸福な一家だった。妻が妊娠したことで、新たなる喜びに一家は包まれる…はずだった。しかし、ある朝、夫が巻き込まれた小さな事件が思いもよらぬ展開を見せ、彼らの運命を大きく狂わせていくー。次第に追い詰められ、崩壊に向かう家族に、果して救いはあるのか?現代の不安を鋭くえぐった心理サスペンス。
偶然通りかかった、阿久津との思い出の場所。そこで私たちは出会い、恋に落ちたのだー。18年前に事故死した男との愛の日々を記憶によみがえらせたその日の晩、突然かかってきた電話の主は…。不思議で怖く、どこか懐かしい「異界」への扉を開く幻想小説8編。
他民族の支配を受けたことがないウアオラニー族。彼らはアマゾンで最も勇敢な部族と自負している。その領地内に石油が出た。エクアドル政府の協力を取りつけて油田開発を進める合衆国の石油会社。押し寄せる宣教団、環境保護活動家。勇士たちは槍と吹き矢を頼りに、自分たちの文化と熱帯雨林を守る闘いに立ち上がった。
鎌倉末期、備前長船で生まれた剛刀「のきばしら」。足利将軍斬殺という嘉吉の乱を引き起こし、千利休の手により石灯籠を斬る。やがて江戸時代、転生した娘とともに質屋夫婦の命を救い、幕末には“人斬り”岡田以蔵の手に渡る。維新動乱のなかで女剣士の仇を討って、ついに終戦前夜の皇居に現れる…。一振りの剣をめぐる時空を超えた物語を、気鋭の執筆者7人が書き継ぐ、珠玉の連作時代小説。
流行作家・穂高誠が、新進の女流詩人・神林美和子との結婚式当日に毒殺された。美和子の兄・貴弘、穂高のマネージャー・駿河直之、穂高の担当編集者・雪笹香織。彼らは皆、事件後つぶやく。「私が彼を殺した」と…。容疑者は三人。そして犯人は一人。卓絶のテクニックで繰り出される真相を、はたしてあなたは看破できるか。
天空を目指して屹立する尖塔から女は墜落していった-『機械の森』という小説のゲーム化のために集まったグループ八人が、湖畔の古い洋館で過ごした問題の一夜。妊娠していた被害者を突き落としたのは誰か。容赦なく裏切られながら、強烈極まりないラストまで一直線。その衝撃音が世界と読者の魂を揺るがす。
江戸で1、2を争う商人の娘・お澪は、ある日、謎の美剣士・沙門に命を救われた。沙門に恋した彼女は、彼の住む廃寺に押しかける。が、そこで沙門と怪僧・鉄が共有する、高貴で美しい“性奴隷”弁天の存在を知って、愕然とする。しかも弁天は、男だというのだ!どんなに夜乱れても、朝になると慎み深く蕾んでしまう弁天の花。沙門と鉄は、狂ったように弁天を犯してしまう。「沙門様!私を見て!」お澪は、恋敵・弁天を憎み、嫉妬した。そして弁天が家老の息子で、沙門とは敵同士だったこと。決闘で沙門に破れてから、沙門に飼われていることを調べあげるのだったが…。幻の時代エロス。完全復刻。
荒れ狂う愛の交歓の果て、仇・沙門とようやく心が繋がりかけた麗人・弁天。だが、沙門に横恋慕するお澪のせいで、罠におちる。お澪の父で、江戸の豪商・宗左衛門が弁天を捕えたのだ。そして弁天は「尻妾」として奥座敷に囲われることに…。でも弁天は沙門を忘れられない。宗左衛門に思うように弄ばれ、イクときにも「さ…沙門…っ!」と叫んでしまう。怒りのあまり宗左衛門は、つけすぎると気が狂うといわれる、禁断の媚薬「青媚」を遂に弁天に塗りこめるのだったが…!?江戸SM小説の頂点、ここに完結。
強靱な旅順要塞の攻撃を担当した第三軍は、鉄壁を正面から攻めておびただしい血を流しつづけた。一方、ロシアの大艦隊が、東洋に向かってヨーロッパを発航した。これが日本近海に姿を現わせば、いま旅順港深く息をひそめている敵艦隊も再び勢いをえるだろう。それはこの国の滅亡を意味する。が、要塞は依然として陥ちない。
作戦の転換が効を奏して、旅順は陥落した。だが兵力の消耗は日々深刻であった。北で警鐘が鳴る。満州の野でかろうじて持ちこたえ冬ごもりしている日本軍に対し、凍てつく大地を轟かせ、ロシアの攻勢が始まった。左翼を守備する秋山好古支隊に巨大な圧力がのしかかった。やせ細った防御陣地は蹂躪され、壊滅の危機が迫った。