2001年2月発売
どこかよく分からない場所で、何時かよくわからない真夜中に、ぼくは何度目かの失恋をした。大阪発東京、カップル+男2人。4人それぞれの思いを乗せたドライブ旅行のゆくえは。
平凡な日々を送っていた女子高生「結城音緒」は、ある才能を持っていた。彼女は高い確率で『予知』ができるのだ。ある日、親友の関根杏子が失踪した。音緒はこのことが予知できなかった。その頃街では謎の失踪事件や、正体不明の焼死体が発見される事件が頻発していた。事件に巻き込まれたことを予知した音緒は、『才能』を使って杏子を探し、彼女を見つけることに成功する。だが、その場には杏子が大ファンだといつも語っていた、あの失踪した伝説のバトルホイールレーサー「サムライ・ジョウ」が現れ、『何か』に変貌してしまった杏子を撃ったのだ…大歓声を持って迎えられたスーパーアクションヒーロー伝、疾風怒濤の第二弾。
「-の音を聞くと、何かがおこるんだって」恋人もいなければ、親友と呼べる人間もいない“私”の耳に偶然届いた言葉。たわいのない噂話を耳にしたその日、私は“彼”の声を聴いた。私が待ち望んでいた“彼”。誰にも聞こえない、私だけに聴こえる“彼”の声。彼の声だけを聴きたい、その一心から、私はあらゆる音を排除していくー(「ベルの音が」)。新鋭女流作家が綴る、切なく心を凍らす書き下ろし連作ホラー。
怪異から産み落とされた言葉は文字になり本になり、読んだ人々の心の中に植え付けられていく。やがて本は再び言葉になり口から口へ伝えられていく。ここに記したささやかな怪異たちが、たとえ姿形を変えても生き続けることを願ってやまない(「怪の標本」)。処女作『幻日』で怪談文学の新しい書き手として注目を集めた著者がおくる、待望の書き下ろし作品集。
小説家詠子には秀美と徹という恋人がいたが、徹にプロポーズされたことが元で、二人とも失ってしまう。失意の日々を送っていた詠子だが、ある日自宅の前に徹が現れ口論となる。徹に暴力を振るわれそうになった時、通りすがりの女性、絵里花が救った。彼女は美しく気品のあるお嬢様だった。だが、それは彼女の本性を覆い隠すものでしかなかった…傑作ルナティックホラー、待望の文庫化。
老朽ビルの一室にあるテレビに映し出されたのは、“血だらけの平台の上で断裁される女たち”だったー。その残虐シーンを観てしまった美沙が、現実と幻想の境界を漂う「オーバーヒート」。暗闇の中、車を走らせるなつみを襲ってきたのはーなつみたちだった。そこから先の地獄絵図を素描した「入れかわり立ちかわり」など、書き下ろし八篇をふくむ、全二十篇を収録した恐怖と幻想の傑作集。
流れてくる汗に髪を濡らし、少女は暗い森の中を走っていた。文字通り命を賭けて…。不倫のひとときを終えた刈原篤志と後藤美也子が乗る車の前に飛び出してきた少女は、不可解なメッセージを残して消失する。「つかまらないで、やくそくをまもって」と。その時から二人は恐るべき「何か」に追われはじめる。これは呪いなのか?二人の過去に何があったのか、未来に何が待っているのか?俊英が描くホラー長篇。
自らの罪で詩人を死に至らしめたことを悔い、「真実の恋」を諦めたまま、詩と音楽に慰められて大人になってゆくシェプシ。神の言葉が解明され、禁囲区域であった紫の砂漠は解放されて、世界は混沌をきわめてゆく。天変地異、政変、急激な変化の中で、優秀な書記としてのぞまれながらも、詩人になることを選んだシェプシの運命は…。名作『紫の砂漠』の待望の続篇、書き下ろしにて登場。
「一度会いに来るよ」死の床で夫がつぶやいた。一周忌を過ぎ、墓参に訪れた妻が目にしたものは-。夫婦の深い絆を描いた表題作「花あらし」。そのほか、一見穏やかな日常を微妙にずらしたところに見える「不思議」や「怖い」の世界を鮮やかに切り取った、12編の短篇集。
大泥棒にして人殺し?だのに「フランス文学史上最高の抒情詩人」と今なお讃えられる破天荒な男フランソワ・ヴィヨン。謎につつまれていたその生涯を現代に甦らせたピカレスクロマン。
僕は一体、何者なのか-帰る場所も仕事も失い、巷を彷徨する僕の顔はふと気付くと8歳の時生き別れた父そのものだった。破天荒な人生を歩み、妾だった母にさえ捨てられた父。DNAに巣食う放蕩の血脈を断ちきるため、父親探しの旅に出た僕が突き止めた「真実」とは…。衝撃の告白小説。
「お前はすけべえな女だ。これしか能がないんだ」彼が言った。「あなたがこうした」私は答えた-。刹那の性愛を求めて夜の街を彷徨う女たち。満たされぬ心の叫びを、哀切に描き出す衝撃作。はかなく危うい愛の形。
一緒に暮らして十年、小綺麗なマンションに住み、互いの生活に干渉せず、家計も完全に別々、という夫と妻。傍目には羨ましがられるような二人の関係は、夫の何気ない一言で裂けた。一緒にいるのに満たされない、変化のない日常となってしまった結婚のやるせなさ、微かな絆に求めてしまう、そら恐ろしさ。表題作「紙婚式」ほか、結婚のなかで手さぐりあう男女の繊細な心の彩を描いた、新直木賞作家の珠玉短編集。
にんじんが嫌いな父とその娘、サラリーマンだったころを思い出す老人、自分に物語が足りないことに気づいたOL、入社3年、肥満を気にし始める青年…。なんでもない「ふつう」の人々が生きる、ごく「ふつう」の人生。そのささやかな歓びと淡い哀しみを切々と描く短編集。名手・橋本治が紡ぎ出す、九つのほのかな感動。
「父よ逃げるな」戦争中特攻隊の中隊長だったわたしの父は生き残り、研究に戻ったが、ある日わたしの目の前から消えた。父の真実を知るためにわたしは四つの不思議な旅に出た。父に近づけば近づくほど戦争の亡霊が取り囲み、執拗に追えば追うほど官能の匂いをまとい始める。時間と空間を超えて父をつかまえることはできるのか。著者によっていつか書かれなければならなかった官能の匂いに満ちた父探しの物語。