2001年2月発売
魅力的な容姿、愛に満ちた両親、安定した仕事、魅力的なボーイフレンド達……。ベロニカは満ち足りているはずだった。しかし何かが欠けていた。そして、ある冬の朝、睡眠薬を手に、彼女は死ぬ決意をしたーー。
幕が上がった。スポットライトが私だけに注がれる。躰じゅうの細胞がにわかに蠢き出す…その日暮らしでおひねり命のドサ・シンガー、それが私。まっとうには生きられないけど、命がけでぶらぶらしてる。ときたま甘い夢も見たくなるけど、このデコボコ道も悪くないー歌に魅入られ、骨の髄まで俗に浸った食いつめ者の煌めき。ワイルドでキュート、そして最高にイノセントな小説誕生。
東洋の富の一大拠点・香港。その返還を前に、永い眠りから覚醒するかのように突如浮上した、返還に関する謎の密約。いつ、誰が締結し、誰を利するものなのかー。全焼したロンドンのスタジオから忽然と消えた機密文書をめぐる英・中・米・日の熾烈な争奪戦が、世紀末の北京でついにクライマックスを迎えるとき、いにしえの密約文書は果たして誰の手に落ち、何を開示するのか。
秋田杉の樹海から白骨死体で発見された男女。道ならぬ恋に落ちた二人の無理心中なのか。女の妹・直里と男の友人・勲は、その謎を探るうちに杉の建材をめぐる不審な動きを知る。同じ頃東京では新築マンションの入居者に杉花粉症に似た症状が現れ、マンションの床材の杉が原因だと判明する。秋田から運び出されたその杉材に隠された秘密とは。直里と勲が直面する驚愕の真実ー。
外資系食品会社の教育研修部長とシグニフィカント・アザー(SO)関係を持つ、アメリカ留学体験のある専門学校講師。この二人の男女を中心に、セックスレスを男女関係のひとつの理想像として提示。男は果たして女に対して本当に「重要な他人」となれるのか?リアルタイムに描かれる都会の男女群像が、二十一世紀の新しい人間関係を示唆する。
八十を過ぎた老作家は、作者自身を思わせて、五十過ぎの重度アルコール中毒の息子の世話に奮闘する。再婚の妻は血のつながらぬ息子の看病に疲れて、健忘症になってしまう。作者は、転院のため新しい病院を探し歩く己れの日常を、時にユーモラスなまでの開かれた心で読者に逐一説明をする。複雑な現代の家族と老いのテーマを、私小説を越えた自在の面白さで描く。『抱擁家族』の世界の三十年後の姿。
十三世紀、ユーラシア大陸を席捲したモンゴル軍が占領したペルシャ高原のとある街。モンゴルの将軍とその命を狙うペルシャ人との暗闘を描いた「ペルシャの幻術師」(昭和三十一年、第八回講談倶楽部賞受賞)は司馬氏の幻のデビュー作で、文庫初登場である。同じく文庫初収録の「兜率天の巡礼」等、全八篇の短篇集。
脳に障害をもつ由希が奏でる超人的チェロの調べ。指導を頼まれ、施設を訪れた東野はその才能に圧倒される。名演奏を自在に再現してみせる由希に足りないもの、それは「自分の音」だった。彼女の音に魂を吹き込もうとする東野の周りで相次ぐ不可解な事件。「天上の音楽」にすべてを捧げる二人の行着く果ては…。
「私」はアパートの一室でモツを串に刺し続けた。向いの部屋に住む女の背中一面には、迦陵頻伽の刺青があった。ある日、女は私の部屋の戸を開けた。「うちを連れて逃げてッ」-。圧倒的な小説作りの巧みさと見事な文章で、底辺に住む人々の情念を描き切る。直木賞受賞で文壇を騒然とさせた話題作。
難事件を解決し、一息つこうと江城の町へやってきたのは、名探偵として名高いディー判事。だがやはり彼には休息の時はなかった。身分を秘して投宿した旅館に、町にある皇室の離宮から突如お召しがかかったのだ。訝しみながらも参内したディーの前に現われたのは、皇帝の息女であった。皇帝から賜った首飾りが忽然と消え失せた、事が露見する前に極秘裏に探し出してほしい…許可なしには何人も立ち入れない離宮内で、いったい何が起きたのか?古代中国に材を取り、巧妙なトリックと大胆な推理で世界中に多くのファンを持つ人気シリーズ登場。
「存分に舞い狂うてみせてやる…」江戸は安永ー天明期、下積みの苦労を重ね、実力で歌舞伎界の頂点へ駆けのぼった中村仲蔵。浪人の子としかわからぬ身で、梨園に引きとられ、芸や恋に悩み、舞いの美を究めていく。不世出の名優が辿る波乱の生涯を、熱い共感の筆致で描く。第八回時代小説大賞受賞作。
イギリスにある小さな村、ハーズリー。そこで小さな郵便局の局長を務めるノリス・ラムは、五十五歳にして初めて恋に落ちた。人類が初の月面着陸を成功させた夜、ラムは運命的な光景に遭遇する-長年同じ村で暮らすヴィーダが、月光のなか、半裸で踊っていたのだ。その姿を目にした瞬間、ラムは彼女に心を奪われてしまう。ヴィーダは、裕福な建築家の息子で障害のある青年を、二十年のあいだ母親のような愛情をもって世話してきた。自分の気持ちを打ち明ける術を知らないラムは、そんな心優しいヴィーダのことを、木陰からそっと見守ることしかできない。この恋をけっして無駄にはしたくない-激しい情熱に突き動かされたラムは、勇気を奮い、初めて自分の手で運命を切り開く決意をした…。中年男性の切ないまでの恋心を詩のようにうたいあげ、心に深い余韻を残す名篇。
相手が大名だろうが、何だろうが恐いものなし。ご存知、数寄屋坊主の河内山宗俊。練塀小路にある宗俊の屋敷には、彼を慕う悪党どもが、日毎、ゆすりたかりのネタを持ち込んでいた。大仕掛けの絵図を描き、真の悪人の弱みを握り懲らしめる宗俊。そんな男気あふれる彼の裏をかく、凄腕の奴も現れて…。色と欲に彩られた男女の、二転三転の成り行き。江戸情緒のなかに悪の美学が冴える。連作ピカレスク・ロマン。
地 図 機知に富んだ郷士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ 第四部(続き) 第三十五章 ここでは小説『愚かな物好きの話』に結末がつけられる 第三十六章 旅籠で起こった、そのほかの風変りな出来事を扱う章 第三十七章 ここではその名も高き王女ミコミコーナの物語が続き、そのほかの愉快な冒険が語られる 第三十八章 ドン・キホーテが文武両道にわたって行なった興味津々たる演説を扱う章 第三十九章 ここでは《捕虜》がおのれの身の上話をする 第四十章 ここでは《捕虜》の身の上話が続けられる 第四十一章 ここでは《捕虜》がさらに身の上話を続ける 第四十二章 なおも宿屋で起こったこと、および、そのほか知るに値する多くのことについて扱う章 第四十三章 ここでは騾馬引きの若者の聞いて楽しい身の上話、および宿屋で起こったそのほかの珍しい出来事が語られる 第四十四章 ここでは旅籠で起こった前代未聞の事件が続く 第四十五章 ここではマンブリーノの兜と荷鞍にまつわる疑問が最終的に解決されると同時に、ほかの実際に起こった冒険が語られる 第四十六章 《聖同胞会》の捕吏たちの目覚ましい冒険、ならびにわれらのあっぱれな騎士ドン・キホーテの猛々しさについて 第四十七章 ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャにかけられた奇妙な魔法、および、そのほかの目覚ましい出来事について 第四十八章 ここではトレードの聖堂参事会員がなおも騎士道物語について論じ、さらに彼の才知にふさわしいそのほかの事柄に言及する 第四十九章 ここではサンチョ・パンサと主人のドン・キホーテが交わした気の利いた会話が扱われる 第五十章 ドン・キホーテと聖堂参事会員が交わした思慮に富んだ論争、およびそのほかの出来事について 第五十一章 山羊飼いが、ドン・キホーテを連れていくすべての人に語ったことを扱う 第五十二章 ドン・キホーテと山羊飼いの喧嘩、およびドン・キホーテが大汗をかくことによってめでたくおさめた、苦行者相手の珍しい冒険について 解 説 訳 注