2002年4月発売
私と妻が暮す丘の家は、お盆になると、長男一家から預かったうさぎのミミリーと、近所の山田さんが届けてくれた鈴虫が集まり、賑やかになる。夏の終りには子供たちが妻の誕生日を祝い、そして、秋には孫の結婚式。大きなシャムパンの瓶が廻り、皆の笑顔がはじける-。移ろい行く家族の暖かな情景を日録風に綴る長編。
時は1875(明治8)年。稀代の早撃ちガンマンとハコダテから流れついた謎のサムライ、そして、したたかな小娘が追うのは、賞金つきのお尋ね者。荒くれカウボーイや酒場の女、ポーカーに興じる成金どもをかわしつつ、赤茶けた岩山を抜け、駅馬車にのり、町から町へ大西部をゆく!痛快なストーリーにスピーディな会話。巧くて、楽しくて、一気に読める。エンターテインメントの一級品。
インドの森の奥深く、僕の目の前の老婆は突然語り始めた。その声と言葉は、自らの不可能な死を語るカメラマン「ウィザード」のものだった。飛行船の闇の中、彼に死を与えるために来た美しい少女と、見えることしか信じない彼の戦いが始まる。彼の武器は鋭利な頭脳、巧妙な論理の罠。だが、彼の罠を次々に突き破る少女の論理と見えない精霊の力。大胆に読者に突きつけられる質問状、あなたは解けるか?
パリ警察が誇る名予審判事、シャルル・ベルトラン。悪魔的推理力を誇る彼に、ライン川流域の古城『双月城』で起きたある事件の捜査依頼が。不気味な伝説を持つこの城はカレンとマリア、双子の姉妹が城主をつとめていた。ベルトランが城を訪ねる直前、密室であった城内の『満月の部屋』で、首と両手首を切り取られた無惨な死体が発見された!死体はカレンかマリア、どちらかのもの…。ベルトランの好敵手、ベルリン警察のストロハイム男爵も登場、熾烈な推理合戦のなか、新たな惨劇が。
新興国市場として急成長を続けるアジア市場。90年代半ば、邦銀でアジアを担当していた真理戸潤は、ドイモイ政策で外国投資ブームに沸くベトナムの事務所開設を託されハノイに赴任した。一方、アジア市場で急成長を遂げ、勇名を轟かせる香港の新興証券会社があった。その名は「ペレグリン(隼)」。同社の債券部長アンドレ・リーは、アジアの王座への野心を胸に、インドネシアのスハルト・ファミリーに近づいて行く。賄賂が横行する共産主義体制下で、事務所開設に四苦八苦を続ける真理戸は、邂逅した日系商社マンから、ベトナムの巨大発電所建設のファイナンスを持ちかけられた。約6億ドルのビッグ・ディール落札を目指し、熾烈な闘いを繰り広げる各国の企業連合。真理戸と日系商社の前に、アジア・ビジネスの暗部を渡り歩く大手米銀のシンが立ちはだかった…。やがて迫り来るタイ・バーツ暴落と通貨危機。その時市場では何が起こったのか?そして三人の東洋人のディールの行方は。
未来へと駆けてゆく90年代の短篇群を収める。あのように揺るぎなくみえた韓国の家族の結びつきにさえ時代の息吹が急速に打ち寄せる。旧弊なる村人や役人と果敢にやりあうパワフルなキッチン・ドリンカーのバツイチかあちゃんに新時代の息吹を感じさせる「かあちゃんはシングルマザー」、家族に持てあまされ見放された「アンビシャスな悪ガキ」の警察署に託された日々を描いてしみじみとした哀歓の満ちる「警察署よ、さようなら」など、新しいステージに立って戸惑い、この現在に屈託する心を持ちながら今に臨む人々の素顔が浮かび上がる。収録の諸作品はいずれも現代を斬新な切り口から鮮烈な感覚で描き出す。
25年ぶりの親友との再会。TV出演した小夜子を見て連絡をとってきた女は、まるで別人のように変貌していた。うずまく疑念、そして…。表題作「会いたかった人」。他に男と女の妖しく美しい愛の行き着く果てを描く「倒錯の庭」、犬を飼い始めてからはじまる不運にみずからとりつかれていく男の物語「災厄の犬」を収録。静かな狂気を描くサイコ・サスペンス短編集。
角丸真理子は父の反対を押し切って、屋敷芳樹と結婚した。小野和人という恋人をふっての決断だった。しかし、新婚生活のスタートとともに地獄ははじまった。言葉の暴力ーそれも叱責や罵倒ではなく、やさしい皮肉。真理子の神経を柔らかく包み込むように、夫の言葉が鼓膜から脳髄へと侵入していく。精神の限界に到達した真理子は、ついに決断した。「やさしく殺して…」。
父の会社の倒産、母の病死を乗り越え、幼い頃からの夢だった「社長」になるため、渡邉美樹は不屈の闘志で資金を集め、弱冠24歳にして外食系ビジネスを起ち上げる。順調に軌道に乗ったかに見えたが・・・・・・。
追い風に乗った「ワタミフードサービス」は、ついに株式公開に向けて動き出す。しかし、FCビジネスの急激な業績悪化と、大企業の資本の論理が、渡邉に襲いかかる。息詰まる攻防の末、社運を賭けた事業の行方は!?
中山国はこの世から消え去るのかー。隣国趙と成立した講和は一方的に破棄され、趙の苛烈な侵攻は再開した。中山国の邑は次々に落ち、そのさなか中山国王も没した。そして首都の霊寿もついに陥落する。東西の辺土を残すのみとなった祖国の存続をかけ、楽毅は機略を胸に秘め、戦火の消えぬ中山を離れ、燕へと向かった。抗い難い時代の奔流のなか、楽毅はなにを遺そうとしたのか。
ついに中山国は滅亡した。祖国を失った楽毅は趙の主父から仕官の誘いを受けたが、折しも王位の継承をめぐり趙では内戦が勃発。主父は無惨にも餓死に追い込まれた。諸国を転転とし雌伏のときを過ごしていた楽毅の前途に光明がさす。楽毅の将才を高く評価する燕の昭王が三顧の礼で迎え、大望を託そうとしていた…。三国志の諸葛孔明、劉邦らを魅了してやまなかった名将を描く歴史巨編。
はじめてのキスは乾いていて、なめらかで、日ざしの温もりをたたえていた-1960年の夏、ボビー、キャロル、サリー・ジョンの仲良し3人組は11歳だった。夏に終わりがこないように、永遠に友情が続くと信じていた彼らの前に、ひとりの老人が現れる。テッド・ブローティガン。不思議な能力を持つ彼の出現を境に、世界は徐々に変容し始める。貼り紙、路上のチョーク、黄色いコートの男たち。少年と少女を、母を、街を、悪意が覆っていき-。あまりにも不意に、あまりにもあっけなく過ぎ去ってしまう少年の夏を描いた、すべての予兆をはらむ美しき開幕。
新聞記者ポール・アブラーは、ふとした事件からノアという謎の老人の訪問を受け、危機をむかえたこの世界を救うための秘密を学ぶべく、「叡知の学校」に参加する。古代メソポタミア世界での冒険、ニューヨーク地下に広がるトンネルで出会った指導者ジョシュアの教え、そしてついに、神と宇宙と人間をつなぐ「究極の真理」が明かされる。
日本人が目指したライフスタイルのルーツとは 都心に勤めるサラリーマンにとって、東急沿線の住宅地、とりわけ田園調布に一戸建てを持つ、というのが一つのステイタスだが、内実は、満員電車での苦痛な通勤でしかない。そもそものルーツはかの渋沢栄一の息子・秀雄がイギリスのガーデンシティーに魅せられて構想を立てた田園都市計画。しかしこの構想は、五島慶多を始めとする野心あふれる実業家によって欲望に満ちた不動産業へと変貌する。大学の誘致、住宅地と鉄道敷設を一体にした開発、在来私鉄の買収劇など東急王国はみるみる増殖、ロマンあふれる構想はもろくも挫折した。関東大震災後、東京という街がいかにして出来上がっていたかを検証する『ミカドの肖像』の続編ともいえる近代日本論。