2010年6月発売
葬式帰りの中年男女四人が、居酒屋で何やら話し込んでいる。彼らは高校時代、文芸部のメンバーだった。同じ文芸部員が亡くなり、四人宛てに彼の小説原稿が遺されたからだ。しかしなぜ…(「楽園を追われて」)。ある共通イメージが連鎖して、意識の底に眠る謎めいた記憶を呼び覚ます奇妙な味わいの表題作など全14編。ジャンルを超越した色とりどりの物語世界を堪能できる秀逸な短編集。
東京から高知県庁へと赴任した薬事課長・小杉。地元薬品業界の悪質な官民癒着に立ち向かう彼を、利害で結ばれた濃密な人間関係の壁が阻む。一方で美貌の人妻・晃子との秘密の恋が、小杉をのみこむ。南国の熱気、情念に満ちた女たち、闇を抱えた男たち、そして突然の死ー。高知を舞台にした後年の自伝小説群に連なる、情感あふれる筆致が冴える。著者若き日の、謎を孕んだ恋愛小説。
「野球って、こうやって、誰かと誰かを結び付けてくれるものなんだね」忘れがたい面影とともに、あのときの私がよみがえる…。大切に抱えていた想いが、時空を超えて解き放たれるときー。男と女、友と友、親と子を、人と人をつなぐ人生の一瞬。秘めた想いは、今も胸を熱くする。過ぎて返らぬ思い出は、いつも私のうちに生きている。謎に満ちた心の軌跡をこまやかに辿る短編集。
傭兵王・シャムシ=アダドの虜囚となったシャズ。地獄の苦しみに苛まれる彼女を救うべくアッシュールの王宮に侵入したナムルの前に、傭兵王の娘・エレールが立ちはだかる。神の力を裡に秘めたふたり。互いに譲れぬ想い。共に生きることは出来ない世界で、血塗れの闘いの果てに立っている者はー。
近年急増する若年性アルツハイマー病で敬愛する叔母を亡くした“三十五歳・独身・失業中”の長山歩美。その死に疑問を抱いた大学病院の主治医・佐野将彦。叔母の死と重なるように発生した同病患者を狙った毒入り飲料殺人事件。叔母ももしかしたら犯人に狙われていたのでは…?二人の疑問が重なり、真相を探るあいだにもインターネット上に犯行声明が告知され、連続殺人は繰り返されていく。はたして二人は犯人を突き止めることができるのか?予測不能の衝撃のラストが見逃せない。『感染』の仙川環が送る大ヒット医療ミステリーシリーズ第五弾ついに登場。
享保年間は将軍・徳川吉宗のもと緊縮財政による改革が進むと同時に、心中が流行した時代でもあった。その数の多さに業を煮やした幕府は、享保七年に“心中”の語を厳禁し、“相対死”と記すことを命じるとともに、心中した男女の遺体を切り捨てるという苛烈な処分に踏み切った。目安箱改め方の竜巻誠十郎は、幕府転覆を企む尾張藩の陰謀を阻止したが重傷を負う。瀕死の彼を看病してくれたのは、髪結いの女主人・おたかだった。そのおたかの縁者が心中の濡れ衣を着せられ殺害されたことを知った誠十郎は真相解明に乗り出す。大好評シリーズ、新機軸の第五弾。
婚約破棄された上、リストラに遭い、不幸のどん底にいた氏家譲は、中学時代の友人武蔵と十年ぶりに再会する。「よう、久しブリ照り!」武蔵に愛人の「相手をしてやってほしい」と頼まれた譲は、愛人のあらぬ誤解(ロリコン疑惑)からインチキ臭い神社へ連れていかれ、そこでどういうわけか中学時代の同級生・藤原たまりに遭遇。さらには、武蔵がステキに胡散臭く経営している会社「ハピネス計画」で働きはじめ…。怪しいけどどこか憎めない人物たちに巻き込まれ振り回されつづける譲に、やがて小さなハピネスが。元気が湧く長編小説。
友人を助けた代償に職を失った剣道の達人・石川義信は、娘・雪乃とともに岡山を離れ、各地を流れる。数年後、運良く倉敷の道場主の道が開けるが、彼を推挙したのは、義信に敗れて以来その生き方を改めた剣術家・前原一刀だった。その心持ちに打たれ、申し出を受けて一刀ともども青少年の教導に燃える義信。そんな石川道場には任侠に篤い男たちが次々と集まってくる!一方、雪乃は瀕死の男を偶然助ける。だが、道場にしばらく世話になることになったその男・政次郎は、雲龍の刺青を背負うやくざであった。誠を尽くし、正義に命を賭ける男たちを描く痛快長編。
凶悪な強盗団・鉤手の所業を阻止するべく、娘婿となったやくざの政次郎や道場の面々と立ち向かった義信。その指導力を見込まれ、県知事から児島湾埋め立て事業の監督を依頼される。囚人たちに世のためになる仕事をさせることで、人間らしく生きる喜びを教えたいと考える義信は、天命と悟り、これを受ける。やがて石川道場および政次郎率いる中川一家の連中も参加しての一大事業が始まるが、工事の横取りを狙う土建業・相川組や道場に遺恨を抱く輩がたちはだかって…。男たちは最後まで正義を貫くことができるのか?大正から昭和を描いた任侠小説。
警察犬訓練士をめざす十八歳の杏子は、訓練所でラブラドール・リトリーバーの子犬きな子と出会う。からだが弱く警察犬には向かないのではと言われていたきな子だったが、杏子はひと目見て相通じるものを感じ、「私が警察犬にします」と宣言してしまう。その日から、見習い訓練士と落ちこぼれの子犬の奮闘の日々が始まった。警察犬試験をめざし訓練に明け暮れる杏子ときな子だったが、ひょんなことからきな子が人気者となり、杏子は自信を失い、訓練所をやめようと決意する。香川県の実在の犬をモデルにして生まれた感動と絆の物語。全国公開映画の原作小説。
時は一九七〇年代。田舎町に住むヤンチャでムチャでワンパクな男子高校生と町の駐在さんが“あいかわらず”繰り広げるイタズラ合戦第七弾。高校入学から間もなくして写真部に入部したママチャリは、駅前で撮った写真におかっぱ頭でもんぺ姿の少女が写りこんでいるのを発見する。これを機に“ぼくたち”は『心霊研究会』を結成。やがて、クラスで話題の「稲荷神社で聞こえる謎の笛の音」「千人針の怪談」がとある女性から語られていたことを知る。彼女の意図とは一体なんなのか!?今回は“ぼくたち”と駐在さんが出会う前のプレストーリー『桜月夜』を一挙掲載。
戦後二十年、経済的にも物資的にも豊かになった日本社会。東京山の手を舞台に、一つの屋敷内に住む、父母、長男夫妻、次男夫妻の世代の異なる三カップルが繰り広げる悲喜劇。主人公の長男・木俣学と、弟・修の妻・百合子の情事をきっかけに、「箱庭のようにせまく、息苦しくそのくせ形だけはととのっている」家族が、ゆっくりと、静かに崩壊してゆく姿と、その荒涼とした心の風景を描く力作長篇小説。
自分たちの裏切りがばれてしまったと誤解した三体のケロスカー、スプリンクとツァルトレクとプラゲイは、惑星ロルフスにあるラール人基地から逃げだした。もしこの三体の脱走が露見すれば、たいへんなことになる。ホトレノル=タアクが、ケロスカーの不審な行動に気づいてしまうと、ラール人を滅亡に導くためのローダンの80年計画も実行できなくなってしまうのだ。しかも、三体はロルフスの原住種族に追跡されていた…。
彼女の名前はアデル・ブラン=セック。比類なき知識と勇気、すばらしい行動力を持つ、パリでも評判のジャーナリストだ。そんな彼女の行く手に待っていたのは、空前絶後の大冒険だった。愛するものを救うため、ファラオの秘薬を手に入れるのだ。エジプトの遺跡からパリの都へ。追いすがる警察もなんのその、難攻不落の監獄へも突撃!その突進の結末やいかに?ニューヒロイン誕生!世界が待っていた最高に熱い大冒険。
空港=airportを略してAPO。国内最後の水際であらゆるトラブルに対応する空港のプロフェッショナルをかつて旅行会社・大航ツーリストでは「あぽやん」と呼んだー成田空港所勤務2年目を迎えた遠藤慶太は新人教育に恋のライバル登場に悪戦苦闘。しかも、親会社・大日本航空の経営悪化の煽りを受けて空港所閉鎖の噂が!?立派な「あぽやん」目指して今日も走る遠藤の運命やいかに?爽快お仕事小説。
四十代の未亡人・幸江は、若い夫婦と養子縁組を結ぶ(「かげろう」)。放浪の末、港町で料理屋を営む滝子の日常(「あらくれ」)。駆け落ちした四十五歳の二人をよく知る可矢子は…(「みちゆき」)。人生後半、現実をありのままに捉えることを覚えた女たちの胸に去来する想いとは。恋、絶望、爽快。小説の醍醐味を味わえる極上の三篇。
飲料メーカーの宣伝部課長だった堀江の元同僚で親友の柿島が、夜の街中で集団暴行を受け死んだ。柿島の死に納得がいかない堀江は詳細を調べるうち、事件そのものに疑問を覚える。これは単なる“オヤジ狩り”ではなく、背景には柿島が最後に在籍した流通業界が絡んでいるのではないかー。著者最後の長篇。