2022年6月発売
祖国が解放される前に、「治安維持法違反」容疑で客地日本の刑務所で非業の死を遂げた朝鮮の詩人・尹東柱。詩人は絶唱として名高い「序詩」に何を込めたのか。論争となってきたこの詩の翻訳をめぐる問題を丹念に解くとともに、尹東柱の生い立ちや東京・京都での暮らし、そのなかで培われた「詩人のまなざし」に迫る。 序章 第一章 「序詩」和訳をめぐって 第一節 「生きとし生けるもの」 第二節 스치운다(スチウンダ) 第三節 北間島方言と六鎮 第四節 「ゆりかご」の明東村 第二章 『空と風と星と詩』の誕生 第一節 詩稿は生き残った 第二節 忘れられた功労者 第三節 『病院』からの飛翔 第三章 宋夢奎のいた京都 第一節 約束の地 第二節 朝鮮人徴兵制 第三節 分離裁判と量刑 第四章 映画「동주(トンヂュ)」の虚構 第五章 宋友恵さんに訊く 尹東柱詩抄 あとがき 資料集 1 在京都朝鮮人學生民族主義グループ事件策動槪要(「特高月報」) 2 尹東柱に対する京都地裁判決全文 3 宋夢奎に対する京都地裁判決全文 参照した主な資料
ニューヨーカー憩いの場・セントラルパークで殺人事件が発生! 凶器は、忍者の暗殺道具『手裏剣』。目撃情報からニューヨーク市警の刑事が訪ねたのは、忘却探偵・掟上今日子(おきてがみ・きょうこ)が新たに構えた「置手紙探偵事務所ニューヨーク支局」だった。憧れのニューヨーク市警に容疑者として目を付けられてしまった今日子さんは、自らの疑いを晴らし、事件を解決することができるのか? 彼女の過去を知るFBI捜査官ホワイト・バーチも暗躍し……? 忘却探偵、謎解きの舞台はついに世界へ!
企業で弁護士として働くレックスは、子供時代は捨て去ったつもりだったーー実の両親からきょうだいたちとともに虐待され、ベッドに鎖でつながれて監禁されていた過去は。だが刑務所で亡くなった母親の遺言をきっかけに、その過去の絶望と向かいあうことに……
これといった使命もチート能力もなく、平民落ち、政略結婚、故国喪失と、状況に翻弄され、そのたび自ら運命を切り拓いてきた転生令嬢カレン。移住先の帝国で、転生仲間の魔法使いエルと再会するが、彼女はチート持ちの天才ゆえの問題を抱えていた。カレン自身もやっかいな相手に目を付けられ、まもなく帝国中枢をも巻き込む悲劇が!様々な思惑の渦巻くなかで、地獄の釜の蓋が開く第3巻。書籍特典として書き下ろし短篇×2本収録。
2011年3月11日。津波が母と娘を呑み込んでから、ゆいの時間は止まったままだった。海から逃れるようにして東京でラジオパーソナリティとして働いていた彼女はある日、「風の電話」の噂を聞く。岩手県大槌町の庭園に置かれたその電話ボックスはどこにもつながっていないが、亡くなった人ともう一度話したい人びとが訪れるという。ゆいは庭園を訪れるものの、なかなか二人に話しかけられない。そんななか、妻を病気で亡くし、娘と暮らす毅に出会う。実在する「風の電話」を通じ、喪失の痛みから癒えていく人びとを、イタリア人作家がやさしい筆致で描く感動の長篇小説。
世界中の読者を熱狂させる、村田沙耶香の最新短篇&エッセイ 「なあ、俺と、新しくカルト始めない?」 好きな言葉は「原価いくら?」で、 現実こそが正しいのだと、強く信じている永岡。 同級生から、カルト商法を始めようと誘われた彼女はーー。 信じることの危うさと切実さに痺れる8篇。 〈その他収録作〉 ★生存 65歳の時点で生きている可能性を数値化した、 「生存率」が何よりも重要視されるようになった未来の日本。 生存率「C」の私は、とうとう「野人」になることを決めた。 ★書かなかった小説 「だいたいルンバと同じくらいの便利さ」という友達の一言に後押しされて、クローンを4体買うことにした。 自分を夏子Aとし、クローンたちを夏子B、C、D、Eと呼ぶことにする。 そして5人の夏子たちの生活が始まった。 ★最後の展覧会 とある概念を持つ星を探して、1億年近く旅を続けてきたK。 彼が最後に辿り着いた星に残っていたのは、1体のロボットだけだった。 Kはロボットと「テンランカイ」を開くことにする。 ほか全8篇。
僕の祖父には、秘密があった。 終戦後と現在、ふたつの時代を「カレー」がつなぐ 絶品“からうま”長編小説 ゴミ屋敷のような家で祖父・義景と暮らすことになった孫息子・桐矢。カレーを囲む時間だけは打ち解ける祖父が、半世紀の間、抱えてきた秘密とはーーラスト、心の底から感動が広がる傑作の誕生です。 【感動の声、続々!】 「ひとの持つどうしようもなさ、そこから生まれる愛おしさ。味わい深く余韻ある作品」--町田そのこさん 「あの時代を生きてきた祖父と、この時代を生きているぼく。どうしようもない噛み合わなさと、どう向き合うか。いま必要なテーマをじっくり煮込んだこれぞテラチ風味の極うま長篇」--瀧井朝世さん カバー撮影/山本まりこ
未来屋小説大賞&高校生が選ぶ掛川文学賞、ノミネート! 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の著者が 14歳の少女の「世界」を描く、心揺さぶる長編小説。 この物語は、かき消されてきた小さな声に力を与えている。 その声に私たちが耳を澄ますことから、全ては始まるのだ。 ーー西加奈子氏 私たちはもう呪いから解放されていいんだ。 2人の少女を抱きしめながら、私も一緒に泣きたくなった。 ーー長濱ねる氏 今、この時代にブレイディさんは必要とされていて、 この物語は、ブレイディさんにしか、つくれない。 ーーヨシタケシンスケ氏 自分が失いかけていたものを 取り戻したような気持ちになった。 一人でも多くの人に読んでほしい。 ーーバービー氏 自分だけの美しいものを見つける長い旅が 人生となっていくのだろう。 読後、子ども時代の自分を抱きしめて 「頑張れ」と声をかけたくなった。 ーー中江有里氏 一気に読んだ。 言葉さえあればわたしたちはつながれる。 苦しみは分かちあえるし未来も切りひらける。 ーー中脇初枝氏 自分を守るためにも自分を変えなければいけない局面が 誰にもあって、その時、とにかく動揺してしまう。 でも、この小説が肯定してくれる。 ーー武田砂鉄氏 ◎ブレイディみかこ氏からのメッセージ 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』には出てこないティーンたちがいました。ノンフィクションの形では書けなかったからです。あの子たちを見えない存在にしていいのかというしこりがいつまでも心に残りました。こうしてある少女の物語が生まれたのです。 ◎STORY 私たちの世界は、ここから始まる。 寒い冬の朝、14歳のミアは、短くなった制服のスカートを穿き、図書館の前に立っていた。そこで出合ったのは、カネコフミコの自伝。フミコは「別の世界」を見ることができる稀有な人だったという。本を夢中で読み進めるうち、ミアは同級生の誰よりもフミコが近くに感じられた。一方、学校では自分の重い現実を誰にも話してはいけないと思っていた。けれど、同級生のウィルにラップのリリックを書いてほしいと頼まれたことで、彼女の「世界」は少しずつ変わり始めるーー。
「ママ、ぼくたち“るろうのたみ”になるの?」 1937年、スターリン体制下のソ連。 朝鮮半島にルーツを持つ17万の人々が突然、行き先を告げられないまま貨物列車に乗せられ、極東の沿海州から中央アジアに強制移送された。 狭い貨車の中で語られる人々の声を物語に昇華させ、定着を切望しながら悲哀に満ちた時間を歩んできた「高麗人(コリョサラム)」の悲劇を繊細に描き出す。 《さすらう地。さすらう闇。さすらう人々。 この物語は、この世界を彷徨い生きるすべての者の物語なのだ。》--姜信子 「キム・スムはこれまでも、一貫して「可視化されなかった苦痛、語りえなかった苦痛」を詳細に記録することで、忘れられゆく記憶を甦らせてきた。1937年の史実に基づくこの作品は、貨車の中で各々が語る身の上話や会話によって、見知らぬ土地で生き抜いてきた高麗人の歴史を重層的に浮かび上がらせている。」--訳者 第一部 第二部 第三部 註 日本語版解説 旅人は「問いの書」を手に…………姜信子 訳者あとがき
“破倫無道の挙”か、冤罪かーいよいよ結審の時来る。(幸徳秋水が担当弁護士にあてた陳弁書には)無政府主義にたいする誤解への弁駁と、検事の取り調べに不法とが述べてある。この陳弁書にあらわれたところによれば、幸徳は決してこのような無謀を、あえてする男ではない。それは法廷での事実と符号している。社会主義者、無政府主義者たちが明治天皇の暗殺を企てたとされる、いわゆる幸徳事件。当初は「破倫無道の挙」「常識を失した凶暴な沙汰」と断じていた石川啄木は、事件の記録を読むうちに、検察による事実の歪曲に愕然とする。一方、ことを早く片づけたい検察は、逮捕後異例のスピードで予審を終え、嫌疑のかかる26人全員に極刑を求刑してしまうのだったー。事件関係者について綿密に調べ上げ、その真の姿に肉薄した渾身のノンフィクションの完結編。
室生犀星“初の小説”を含む自伝的作品集 婚外子として生まれ、生後間もなく養子に出された〈私〉。いつもやさしい義姉を除いて、周囲に理解してくれる人はおらず、小学校では喧嘩を繰り返して先生からも目をつけられていた。 そんななか、実の父親が亡くなり、母が行方不明になってしまう。ますます自棄になって乱暴を繰り返していた〈私〉は、川のなかでその後の人生を変えるあるものを見つける。それは、苔むした地蔵だったーー。 自伝的色彩の濃い、著者初の小説「幼年時代」をはじめ、「性に目覚める頃」「或る少女の死まで」を加えた“幼年時代三部作”を中心に、繰り返し映画やテレビドラマになった「あにいもうと」を加えた全4篇を収録。
全能の神ゼウスの妃で、結婚や出産を司る女神のジュノが守護する“6月”--ヨーロッパでは、この月に結婚すると幸せが永遠に続くと言われています。そんなすてきな季節にふさわしい、魅惑のウエディング・ストーリー3篇を収録したアンソロジーをお贈りします。
彼との日々は夢のように、 海の色に溶けていった。 「ぼくはアレクサンダー・ディミトリウ。 きみがバルコニーから見ているのには気づいていたよ」 キャサリンは慌てて否定しながら、頬が火照るのを感じていた。 彼は幼い娘が邪魔をしたお詫びにと、キャサリンを食事に誘った。 亡き母の故郷にほど近いギリシアの村で独り静養しているけれど、 わたしがここにいるのは既婚者とデートするためではないわ! しかし、彼が妻を亡くしていると知り、互いに医師であることから ともに感染症の対応にあたるうち、二人の距離は急速に近づいた。 つかのまの恋でいい。私は幸せになれない人間だから……。 そう自分に言い聞かせ、亡き妻を愛する彼にキャサリンは全てを捧げた。 人目を忍んで、めくるめく情熱に身をまかせる二人。やがてアレクサンダーの娘や祖母も含めた家族ぐるみの付き合いが始まり、愛のぬくもりを知るキャサリンでしたが、アレクサンダーの亡き妻の幻影に悩み続けます。そしてついに、せつない片恋は砕け散って……。
1年前に家族を事故で失い、天涯孤独の身となったフェイは、抜け殻のような心を抱えたまま、身を粉にして働いてきた。ある嵐の日、自暴自棄になって馬を走らせた彼女は落馬して、痛みと朦朧とする意識の中で最期を覚悟する。そのときだった、たくましい腕に抱き起こされたのは。フェイが目を開けるとそこには、隣人チェイスの心配顔があった。幼い頃から恋い焦がれてきた人。なぜ今になつて私の構うの?そんなフェイの心中を知ってか知らずか、チェイスは彼女を家まで運ぶと、予想外の驚くべき提案をした。「君の家業はすべて僕が買い取る。代わりに僕の妻にならないか?」
明るい姉の陰に隠れて育った不器量で世間知らずのリサは、 15歳のときから姉の夫の兄ジョエルに軽蔑されてきた。 それは年頃のちょっとした出来心が原因だったが、 リサは彼にふしだらというレッテルを貼られ、心に傷を負った。 以来、恥ずかしさと悔しさから彼とは会わないようにしてきたのに……。 8年後、姉夫婦が亡くなり、ジョエルとリサの2人が 遺された子たちの後見人に指名されたことで、再会を余儀なくされる。 またあの軽蔑のまなざしを向けられるなんて耐えられない! 怯えるリサに、冷たい瞳のジョエルは驚くべきことを言い放った。 「子どもたちとともにいたければ、ぼくと結婚するしかない」 リサは15歳のときに受けた心の傷がもとで、男性とのキスさえ怖がるようになっていきました。当然、純潔の身でジョエルとの結婚生活に突入しますが、厳しい兄のような存在の彼からは経験豊富な女と誤解されたままで……。新妻リサを待ち受ける運命やいかに?
やっとこれは恋だと気づいたけれど、 そんなことは、彼に言えない……。 父の仕事を手伝いながら、のどかで単調な毎日を送るビアトリス。 ある日突然、父が心臓発作で倒れて動転するが、 幸い、近くにいた医師オリバーのおかげで一命をとりとめた。 オリバーとは先日、日の出を見にのぼった丘で偶然出逢い、 長身で感じのいい彼が著名な医師だということを、のちに知った。 父の入院から留守宅のことまで世話をしてくれるオリバーに、 彼女はいつしか特別な気持ちを抱くようになっていく。 そして、元ボーイフレンドからの迷惑行為について相談すると、 オリバーは親切に、ぼくと婚約したふりをすればいいと提案してくれた。 でも切ない……だって、彼はもうすぐ別の誰かと結婚してしまうのだから。 穏やかな作風でありながら、確かな観察力にもとづいた人物像を描いて人気のベティ・ニールズ。本作もまた、身のまわりにいそうな主人公の、初々しく微笑ましいラブストーリーです。邦題にもなっている“日の出の見える丘”を思い浮かべながらお楽しみください。