ジャンル : 外国の小説
孤独で貧しく、不器量で従順ーー 彼女こそ、私の理想の花嫁だ! 両親を失い、天涯孤独となったメアリーは、 遠縁の家で息を潜めて生きていた。 誰にも望まれず、必要とされることのない日々。 そんな彼女に、ある夜、手を差し伸べたのはハヴロック卿。 まばゆい美貌の子爵は、出会ってすぐ結婚を申し込んだ。 なぜ私に? 戸惑うメアリーに、彼は静かに語った。 異母妹を引き取るため、形式的な妻が必要なのだと。 冷静なその言葉の裏に、一抹の誠実さを感じ、彼女は承諾する。 誰かの役に立てることが、少しだけ心を温かくしたから。 “孤独で貧しく、不器量で従順な娘”--まさかそれが、 子爵の望む花嫁だとは知らず……! 内気で冴えないヒロインが、寂しさばかりの人生に別れを告げられるかもしれないと、一縷の望みを託した結婚。でも夢のような結婚式の夜、見つけた紙切れに書かれていたのは、子爵の信じ難い〈花嫁の条件〉。さて、彼女がお返しにしたためた“夫の条件”とは?
伯爵による“ブラックメイル”-- それは、世にも傲慢なプロポーズ。 リーは16歳の夏、端麗な美貌の青年ジルに恋をした。 だが彼女の純粋な想いは、ふたりに嫉妬した友人によって汚された。 友人が陰でリーの筆跡を真似て、はしたないラブレターを偽造したのだ。 当然、育ちのいいジルから軽蔑され、リーの初恋は散った……。 それから6年後、リーは出張で訪れた美しい城で、 ド・ショーヴィニー伯爵ことジルと偶然の再会を果たす。 取引相手が彼だったなんて! 知っていたらここへは来なかったのに! リーの内心の動揺を知ってか知らずか、ジルが衝撃の提案をした。 「明日、僕と君は結婚する。妻の座を狙う愛人を追い払いたくてね」 さもなくば、“あのラブレター”のコピーを利用するぞ、と脅してーー。 そのラブレターは私が書いたものではないと、どれだけリーが訴えてもジルは納得しません。飽きのきた愛人を体よく追い払う道具に使おうだなんて、なんて傲慢な伯爵なのかしら! いくら腹立たしくとも、リーに拒否するすべはなく……。1982年の名作ロマンス。
なぜ私たちは、“かつて未来だった時代”と現在との共鳴を探しながら、この小説に向き合おうとするのか。 混迷の21世紀を生き抜くために、歴史、教育、難民、独裁、労働、音楽、ゲームなど多角的な視座から『一九八四年』を論じる最新の論集。 序文 オーウェルの本 ネイサン・ウォデル 第1部 コンテクスト 第1章 『一九八四年』と教えること、学ぶこと ナターシャ・ペリヤン 第2章 『一九八四年』における仮想の地勢 ダグラス・カー 第3章 『一九八四年』におけるアーカイヴの政治学 ディレタ・デ・クリストファーロ 第4章 オーウェルとヒューマニズム デイヴィッド・ドワン 第2部 歴史 第5章 『一九八四年』と風刺の伝統 ジョナサン・グリーンバーグ 第6章 オーウェルの文学的コンテクストーーモダニズム・言語・政治 リサ・マレン 第7章 ウェルズ、オーウェル、独裁者 サラ・コール 第8章 オーウェル文学の後継者たちーー1950-2000年、それ以降 ホリー・ジョンソン 第3部 諸問題 第9章 ヨーロッパ、難民、『一九八四年』 ジャニス・ホウ 第10章 希望という問題ーーオーウェルの労働者 エリノア・テイラー 第11章 オセアニアの汚れーー第1エアストリップの汚物、吐き気、嫌悪感 ネイサン・ウォデル 第12章 101号室ーーオーウェルと悪の問題 ピーター・ブライアン・バリー 第4部 メディア 第13章 ラジオ、舞台、銀幕の『一九八四年』 ダニエル・バッキンガム 第14章 『一九八四年』を音楽にするーーポップ、ロック、オペラ ジェイミー・ウッド 第15章 『一九八四年』と漫画 イザベル・リカーリ=ギヨーム 第16章 「私たちがプレイしているこのゲームの中では」--『一九八四年』とテレビゲーム ソラヤ・マレー 第17章 結び 『一九八四年』から生まれた想像力 アダム・ロバーツ 年譜 推薦図書リスト 索引 謝辞 監訳者解題
純文学作家からSF・ミステリ作家、詩人、劇作家まで、2015年以降に日本で作品が翻訳された海外作家2,682人を網羅した人名事典。「最新海外作家事典 新訂第4版」(2009.7刊)の16年ぶりとなる最新継続版。既存の文学事典類では探せない、小国の作家や無名な新進作家までカバー。また、2015年から2024年までの邦訳作品8,705件を併載。「人名索引(欧文)」「書名索引」付き。
いわれなき莫大な遺産の 相続人になった少女が、その謎を追う。 母は亡くなり、父親は蒸発してどこにいるか分からない。女子高生エイブリーのたった一つの希望は、残りの高校生活を消化し、奨学金を獲得して独り立ちすることだった。ところが見ず知らずの億万長者の遺言状で自身が莫大な遺産の相続人に指名されたことから、エイブリーの人生は風雲急を告げる。その相続条件とは「秘密の通路や仕掛けだらけの大豪邸で1年間過ごすこと」だった! 大富豪一族を巡る陰謀、相続人候補となるはずだった個性豊かな4人の御曹司たちとのスリリングかつときめく駆け引きなど、いきなりセレブとなったエイブリーの周りで起こる大騒動が、スピード感あふれる筆致で描かれる。そして、億万長者が遺した暗号が解読されるにつれ、驚くべき新事実が明らかになる……!? 世界累計500万部を突破したロマンス×謎解きミステリー超大作の第1巻(全3巻予定)! ページをめくるたびに、深まる謎と秘密が折り重なっていく、レガシー・ゲーム・ミステリー! ー紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん 求める答えを探すように気が逸り、ページをめくる手が止まらなかった。 ー未来屋書店大日店 石坂華月さん 恋模様も含め人間関係に目が離せないシンデレラロマンスミステリー ー元 明林堂書店南宮崎店 河野邦広さん
殺人事件の発生によって疑惑の場と化した晩餐の席。ディナー・パーティーに招かれた私立探偵シェリダン・ウェズリーが地元警察のスローカム署長と捜査に乗り出す。ヒラリー・ウォーのデビュー長編、原著刊行から78年ぶり初邦訳! マダムはディナーに出られません 訳者あとがき 解説 塚田よしと
1980年代、香港。武侠の道でその名を知られる青年・陳洛軍(チャン・ロッグワン)は、裏社会を牛耳る大老闆(ボス)に騙されて、追われる身となってしまう。洛軍は、大老闆の手が唯一及ばない場所である魔窟・九龍城砦に足を踏み入れるのだが……!? 映画原作、《九龍城砦》シリーズ開幕篇!
1952年、英国カーディフ。殺人事件の容疑をかけられたのは、港町で暮らす若きソマリ人船乗りだった。証拠ではなく偏見が、彼を追い詰めてゆく。実際の冤罪事件に基づき、多文化社会の光と影、司法の不条理、そしてひとりの男の誇りを描ききるブッカー賞候補作
悲しみのトンネルの先にあふれる明るい光のように 長い時間を経て届いた切ない和解の挨拶 「遠い国や長い歴史を超えて、封印していた恋の秘密が解き明かされるとき、私たちはきっと前よりも少し成長している。--島本理生(小説家)」 「孤独はそのほかの透明な感情とどれだけ似ているのか、または似ていないのか、噓と物語がどこで絡み合い、また解きほぐれていくのか。美しくも強烈な発信である本書が、着信と返信によって次なる物語を生むことだろう。--チョン・セラン(小説家)」 美しい文章とあたたかなまなざしで描くペク・スリンの初長編にして最高傑作 派遣看護師としてドイツに渡っていた伯母を頼り、母と幼い妹とともに西ドイツに移り住んだヘミ。悲劇的な事故により心に傷を負ったまま、孤独な日々を過ごすヘミだったが、伯母と同じ派遣看護師のおばさんたちの子どもであるレナ、ハンスと過ごすうち、徐々に日常を取り戻していく。ある日ハンスから、再発の可能性がある大病を抱える母親・ソンジャの初恋の相手を探してほしいと頼まれる。ソンジャおばさんの日記を手がかりに捜索を始めたヘミだったが、急遽家族で帰国することに。 大人になったヘミは、ある日、大学時代にほのかな恋愛感情を抱いていたウジェと偶然再会する。彼との会話をきっかけに、ヘミは再び、ソンジャおばさんの初恋の相手探しを再開する。 <訳者あとがきより> 本作に使われている最大のモチーフに、「派独看護師(訳文ではドイツ派遣看護師)がある。韓国は一九六〇年代の失業問題と外貨不足を解決するため、海外への人材輸出を決めた。その一環として西ドイツに派遣されたのが、一万人を超える看護師と准看護師である。(略)作中で、大人になった主人公は一見、「いま」から逃げるように派遣看護師の資料探しに没頭する。しかし子ども時代にドイツでその姿を目の当たりにしていた主人公には、彼女らにあてはまる言葉が「愛国」「犠牲」「哀れな先人」などとはとうてい思えない。そこにあったのはだれかの視点でひとくくりに俯瞰できるような人生ではなく、一人ひとりがまぶしいほどに美しく生き抜いている姿にほかならなかった。そしてそこには、著者の、そうであったはずだという思い、そうであってほしいという祈りがある。
ソ連崩壊直前のある春の朝、モスクワからウランバートルへ向かうシベリア鉄道が出発する。憧れのソ連に留学してきたフィンランド人の寡黙な少女と、家族をのこして建設現場へ向かうロシア人の饒舌な出稼ぎ夫。寝台列車の同じ部屋(コンパートメント)に偶然乗りあわせた二人の旅を描く。 共通点のない二人は食事や酒をともにし、無数の集落や町や工場地帯を通過し、ときに途中下車をして各地に住まう人びとや動物と出会いながら、針葉樹林と雪に覆われた巨大な大陸を横断しつづける。 そこでは「すべてが動いているーー雪、水、空気、木、雲、風、町、村、人、思いが」。車窓をみながら少女が祖国の家族やロシアの小説、モスクワにいる親しい人びとのことを考えるうち、列車は目的地に近づき、二人の下車も迫る……。 著者はフィンランドでその年最高の文学に贈られるフィンランディア賞を本書で受賞した。13ヶ国語に翻訳されたロードノベルの、待望の邦訳。
ルーシーが目を開けたのは病院のベッドで、付き添っていたのは、義理の家族の天敵である、アントニアディス家の長男タナシスだ。彼は、自分たちは婚約していると言ったが、彼女に記憶はない。6年前、ほんの一瞬の出会いで惹かれた彼が、わたしの婚約者!?事故で頭を打ち、この2カ月間の記憶を失ったのだ。ルーシーの義理の家族とタナシスの家は海運業を営んでいるが、両家の不仲から投資家たちが手を引きはじめた。ふたりの結婚は両家の関係の修復を見せるための契約でしかないはず。なのに、病床のルーシーに献身的な姿を見せるタナシス。ルーシーは彼に愛されていると実感するがー。
安心してください、妊娠は間違いでしたー結婚式当日、そう綴った置き手紙を残し、ロウリは涙をこらえて花婿アダムの前から姿を消した。おなかの子は彼との愛の証だ。だがそう告げても、彼が私を愛してくれることはなかった。ロウリの罠に嵌められたと言い放ち、冷たく背を向けたのだ。あれから2年。ロウリは幼い娘を独りで育てていた。つましくも幸せで穏やかな日々がずっと続くと思っていたある日、偶然町中でアダムにでくわし、娘の存在を知られてしまう。我が子とかかわりたいという意外な彼の申し出に、ロウリは驚き、心が揺れたーまだ彼を愛している。でも彼を信じていいの?
スカーレットは今月も妊娠していないことを知り、涙に暮れていた。30歳をとうに過ぎても運命の人には巡り会えず、せめて子供が欲しくて人工授精を受け続けているところなのだ。でも、今日は海外から戻る幼なじみのジョンの家でのパーティがある。みんなの前ではせいぜい明るくふるまわなくては。気を取り直し、ジョンを迎えに行ったスカーレットは、久々に会う彼のあまりにすてきな姿に驚いた。彼にいじめられてばかりいた昔が嘘のよう……。今や感じよく話も聞いてくれるジョンに、つい口を滑らせてしまうと、スカーレットは彼の口から出た言葉にさらに驚いた。「僕が君の子供の父親になろう。ただし人工授精ではなく」■セクシーなストーリーと純粋でかわいいヒロインを描くのが得意なミランダ・リーの久々の新作をお届けします。好きなのになかなか素直になれない二人の恋はどうなるのでしょうか。
大学院で学びながら、9カ月前からナニーとして働くクレア。経済的に困窮する両親や既婚の姉たちを見て育ったため、これからいい仕事に就いて自立した人生を送るのが長年の夢だ。雇い主のヴィクは竜巻で妻を亡くしたシングルファーザーで、幼い一人息子のジェレミーはクレアにとてもなついている。クレアもジェレミーをまるで我が子のようにかわいく思い、また、ヴィクに対しても出逢ったその日から密かな恋心を抱いていた。そんなある日、ジェレミーが何者かに誘拐されるが、クレアはヴィクと協力して救出に成功し、心の絆を深める。しかし、彼女が長年の夢を叶え、ここを出ていく日が近づいていた…。
嘘よ! 一生、子供が産めないなんて。 フェイはあまりにも無情な医師の宣告に目の前が真っ暗になった。 瀕死の重傷から生還し、つらいリハビリにも耐え抜いた。 でも未来への希望を失った今、何を支えに生きていけばいいの? 心を閉ざし、笑顔を失った妹を心配して、兄が親友を連れてきた。 技術コンサルタントとして途上国を飛び回っているカイだ。 彼は、持ち前の明るさと強引さでフェイに真正面からぶつかり、 やがてその熱意は彼女の凍えた心を溶かしはじめる。 だが彼の存在が大きくなればなるほど、フェイは怖くなった。 カイに愛される資格なんて私にはない……。彼女の頬を涙が伝った。 一生、子供が産めない。医師の無情な宣告にフェイは絶望し、心を閉ざした。そんな彼女を救ったのは兄の親友カイだった。だが彼女は自身の秘密を打ち明けられず……。号泣必至の不朽の名作!
25歳のジェンマは6人きょうだいの長女。弟妹の世話と看護師の仕事に忙殺され、恋などしたこともない。もっとも、美男美女ぞろいと言われるきょうだいの中で、なぜかジェンマだけが平凡な顔立ちだからかもしれない。そんな彼女に転機が訪れた。隣家に滞在するオランダ人教授、ロスに闘病中の妹の看病を頼まれ、急遽オランダへ飛んだのだ。彼の家族は温かく、妹は愛らしく、オランダは美しい国だった。しかも、一家と親しい若者に熱心にデートに誘われる。突然華やかになった生活に、ジェンマは舞いあがった。ロスが陰で気遣わしげに見守っているのも知らずに。■まるで雨上がりの虹のように、さわやかで心温まる読後感を約束してくれるベティ・ニールズのロマンス。それが長く読者に愛されるゆえんでしょう。ジェンマの初恋は、楽しいパーティに連れ出してくれるお調子者の青年と? それとも……。
働くことになった会社での初日、アヴァがまず命じられたのは、会議室に20人分のコーヒーを出すことだった。だが、ワゴンを押して会議室に入った彼女はショックに凍りついた。その場を取り仕切るボスが、かつての憧れの男性ヴィートだったからだ!彼はきっと、即刻わたしに首を言い渡すに違いない。なぜなら、3年前にアヴァは交通事故を起こし、その巻き添えとなったヴィートの弟を死なせてしまったのだから。罪と向き合う苦しい年月を経て、アヴァはようやく過ちを許され、今日は社会復帰のための研修第1日目だった。それなのに、わたしを憎む男性の下で働くことになるとは……。■事故を起こして同じ車に乗る親友を亡くし、罪に問われたアヴァ。事故当夜の失われた記憶に翻弄されながら、親友の兄に抱く消えない恋心を、シリーズを代表する作家リン・グレアムが劇的に描きます。
それが恋の芽だと、彼女はまだ気づかない。働き者で健気な娘のシンデレラ・アンソロジー!『しあわせな出会い』父亡きあと、意地悪な継母にこき使われる日々を送るクレシダ。父が遺した家や財産はすべて継母が支配していたが、年老いた家政婦モギーの身を案じ、家を出ていく気になれずにいた。そんなある日、捨て犬を助けた拍子に足を怪我したクレシダは、オランダ人医師のオルドリックに助けられた。その後も気にかけてくれる彼に、クレシダは淡い恋心を抱く。やがてモギーが終身年金を受けられることになり、クレシダもさる老婦人の話し相手の仕事を得て自立することになったーすべてはオルドリックの密かな計らいとも知らずに。『億万長者と無垢な花』貧しい牧師の娘タヴィーは、倒壊寸前の教会の仕事を手伝う傍ら、女学校の冷淡な学長に雑用係として薄給で働かされていた。そんなある日、美しい空き屋敷の湖で涼んでいると、すらりと背の高い黒髪の男性が不意に現れた。「ここは私有地よ。あなたの行為は不法侵入だわ」タヴィーが告げると、相手の金色の瞳が楽しげにきらめいた。「お互いさまだと思うが」なんて不遜な不審者なのかしら?そのときのタヴィーには知る由もなかったー彼がジャゴという名の億万長者で、この屋敷とタヴィーの新たな主人になることを!
全世界で1000万人が読んだビジネス小説の古典「ザ・ゴール」第3作を新装化。ルールを変えなければ利益は出ない!
ファンサンボル青年文学賞受賞 『82年生まれ、キム・ジヨン』(日韓累計165万部突破)著者デビュー2作目 伝説の妖精に魂を奪われた少女の夢は、体操の選手になることだった。 思わずエールを送りたくなる、チョ・ナムジュの鮮烈な初期作品。 === コ・マニ一家の住む、ソウルの貧民街の一つであるS洞の再開発が始まる。今は一人でトッポッキとてんぷらを売っている父。近頃の最大の関心事は、再開発の流れに乗ってマンションに入居すること。そして二人の間の一人娘で未婚の36歳、コ・マニは10年間働いた職場をクビになったばかり。幼い頃、マニは、テレビでソウルオリンピックの体操選手の姿を見て魅了される。母は父の反対を押し切ってマニを体操部がある私立小学校に転校させる。しかし、幼い時から体操を続けてきた他の子どもたちとの実力の差を知って呆然とする。ある日、大きな事件を経験したマニは体操を諦める。そして現在のマニは…… === 「彼女はコマネチと言うの。ナディア・コマネチ。体操界における伝説の妖精よ」 院長先生が言った。コマネチに出会えたのは運命のように思えた。院長先生は私の運命論に油を注ぐような一言を付け加えた。 「マニが特別な子に思えたのは、初めて会った時からなの。コ・マ・ニという名前を聞いた時、コマネチを思い出したからよ」(70ページより) (……)十四歳のコマネチはモントリオールオリンピックのヒロインとなった。 院長先生からコマネチの話を聞きながら、私は体が熱くなるのを感じた。顔が火照り、頭がぼうっとし、口からも、目からも、煙が出そうだった。神の祟りにあったり、あるいは恋の病にかかったりしたら、きっとこんな感じになるだろう。私はその瞬間、大げさではなくて本当に、体操に魂を奪われてしまった。どういう精神状態で、家に帰れたのかも思い出せない。布団に入ってからもひたすらコマネチのことを考えていた。(71ページより) === これもまた、過ぎゆく 残酷な冬 私は新体操がしたいと言った 危うげながらも幸せな時間 高い所へのぼる人たち お尻に押した赤いスタンプ 暗号のようにぽつぽつと ネギを見てやさしく笑う人たち 月夜のステージ あとがき 著者からのメッセージ 訳者あとがき