出版社 : 新潮社
大隈重信のもとに押し掛け、渋沢栄一を口説き、資金も経験もゼロから、誰もが不可能だと嗤った地下鉄計画をスタートアップした男がいた。東京に地下鉄を誕生させた早川徳次と技術者たちの熱き闘い!
播州高砂の漁師から身を起こし、大胆不敵な船乗りとして名を揚げた松右衛門。兵庫津を振り出しに瀬戸内を巡り、日本海に入って越後・出雲崎から果ては箱館まで、北前船を駆る海商にのし上がる。やがて千石船の弱点だった帆の改良に自ら取り組み、苦難の末に画期的な「松右衛門帆」を完成させて、江戸海運に一大革命をもたらすことに。あの高田屋嘉兵衛が憧れた伝説のシーマン、ここに甦るー。
気乗りしない会合を断る嘘が作家の人生を激しく狂わせる。この作品を書いたのは、けっきょく誰なのだろう?著者の創造物「作家T」が、著者本人を創造しているかのような、複雑に入り組んだメタフィクション小説。AKO文学賞受賞。
わ、若だんなの御身に、かつてない事件が!?酔っ払った龍神たちが、隅田川の水をかき回して、長崎屋の舟をひっくり返したってぇ!水に落ちた若だんなは200年ぶりの天の星の代替わりに巻き込まれて…。
「人間人間うるさいな」素行が悪うて、金借り倒して。しりぬぐいは全部親や。やってることは人間の屑や。屑以下や。土地と血縁に縛られしぶとくしたたかに生きる者たちの姿を浮き彫りにする表題作と、早熟な子供たちと隣家の謎の少女との性と生の目覚めを、圧倒的筆力で繊細に描き出す「青いポポの果実」を併録。
五十嵐凛、書店員6年目。アトピーの痒みにもやっかいな客にも負けず、今日も私は心を自動販売機にして働く。皮膚が自分自身だった。肌を見られたくない、でもこの苦しみを知ってもらうことは、自分を知ってもらうことだった。非正規雇用、学校のいじめ、カスタマーハラスメント、そして東日本大震災…。痒みに支配された女性書店員の生きづらい日常を圧倒的リアリティで描いた。第34回三島由紀夫賞候補作。
昭和38年11月、三井三池炭鉱の爆発と国鉄の事故が同じ日に発生し、「魔の土曜日」と言われた夜、12歳の黒沢百々子は何者かに両親を惨殺された。母ゆずりの美貌で、音楽家をめざす彼女の行く手に事件が重く立ちはだかる。黒く歪んだ悪夢、移ろいゆく歳月のなかでそれぞれの運命の歯車が交錯し、動き出す…。10年の歳月をかけて紡がれた別離と再生。著者畢生の書下ろし長篇小説。
母のような女にだけは、なりたくなかった。「理想の妻」としての人生を全うした母。正反対の生き方を選んだ娘。幸せを手にしたのは、はたしてー。『主婦病』で絶大な支持を得た著者が描く、「家族」の呪縛を解き放つ感動作。
七百万人都市、香港。一人の少女が、スラムの闇に飲み込まれた。「ぼくは、彼女の人生を、まだ見届けていない」日本の大学に通う瀬戸和志は、亡き恋人の幻影に導かれ、建築学院の交換留学生として、再び香港の地を踏む。幽霊屋敷に間借りする活動家、ビルの屋上で暮らす船民、黒社会の住人、共産党員と噂される大物建築家。さまざまな出会いを経て、次第に浮かび上がる都市の実相。そして、彼女がひた隠しにしていた過去。「誰も、この街の引力には勝てない」“回帰”の時が刻一刻と近づく。いくつもの謎と、矛盾と、混沌をはらみながら、和志は、民主化運動の狂騒へ引きずり込まれてゆく。
埼玉で小料理屋を営む藤原幸人のもとにかかってきた一本の脅迫電話。それが惨劇の始まりだった。昭和の終わり、藤原家に降りかかった「母の不審死」と「毒殺事件」。真相を解き明かすべく、幸人は姉の亜沙実らとともに、30年の時を経て、因習残る故郷へと潜入調査を試みる。すべては、19歳の一人娘・夕見を守るために…。なぜ、母は死んだのか。父は本当に「罪」を犯したのか。村の伝統祭“神鳴講”が行われたあの日、事件の発端となった一筋の雷撃。後に世間を震撼させる一通の手紙。父が生涯隠し続けた一枚の写真。そして、現代で繰り広げられる新たな悲劇ー。ささいな善意と隠された悪意。決して交わるはずのなかった運命が交錯するとき、怒涛のクライマックスが訪れる。
心を病んだ恋人との同棲に疲れ、自らも高アルコール飲料に溺れていく(『ストロングゼロ』)。職場の後輩との交際にコンプレックスを抱き、プチ整形を繰り返す(『デバッガー』)。夫から逃避して不倫を続けるが、相手の男の精神状態に翻弄される(『コンスキエンティア』)。生きる希望だったライブがパンデミックで中止、恋人と心中の旅に出る(『アンソーシャルディスタンス』)。ウイルスを恐れるあまり交際相手との接触を断つが、孤独を深め暴走する(『テクノブレイク』)。生きる苦しみに彩られた全篇沸点超えの作品集。
新世紀が幕を開け、ITバブルの残滓が漂うNYマンハッタン。企業の不正会計調査を担当するシングルマザー、マキシーンに、謎多き新興IT企業をめぐる案件が。持ち前の度胸と母親ゆずりのおせっかいな性格を原動力に、おたくプログラマーやマフィア、国家の工作員と渡りあい、ネットの最深部を覗き込む。見えてきたのは、あまりに危険なテロの予兆。マキシーンの焦りとは裏腹に、9月11日は近づいてくるー。類まれな知性を背景に膨大なトリビアを撒き散らし、怪しげな陰謀論で読む者を煙に巻く。やがてほの見えるこの世界の真実。かいぶつ、いきいき、76歳!現在まで射程に捉えるシリーズ最震作。
小説家の前沢倫文が恋人の英理と暮らす新宿区の総戸数千三百戸のタワーマンション、ファウンテンブルータワー新宿で、米露中の要人が立て続けに不可解な死を遂げた。しかも現場には、白い幽霊の目撃情報が…。死の謎を追うため、マンション内を偵察する倫文は、マンションに秘められた驚愕の事実に辿り着く。六千五百五十万年前の再現を狙った壮大な企みの正体とは?
秀忠の五女・和子は、大坂夏の陣以来いまだ緊迫する朝幕関係の架け橋となるために、後水尾天皇に嫁ぐ。だが、後水尾は天皇家と公家の行動を管理し、政治的主導権を掌握する幕府に怒りを覚えていた。和子がようやく皇子を儲け、家康以来の将軍家の宿願が果たされるかと思えた矢先、皇子は早世してしまう。悲嘆にくれた後水尾は、紫衣事件をめぐる幕府への憤怒が収まらぬなか、ある決心をする。天皇家と将軍家の対立を超え、世の安泰に全身全霊を捧げた波乱万丈の生涯に迫る。
26歳までにプロになれなければ退会ー苛烈な競争が繰り広げられる棋士の養成機関・奨励会。リーグ戦最終日前夜、岩城啓一の元に対局相手が訪ねてきて…。追い詰められた男が将棋人生を賭けたアリバイ作りに挑む表題作ほか、運命に翻弄されながらも前に進もうとする人々の葛藤を、驚きの着想でミステリに昇華させた傑作短編集。
豪雨災害に見舞われた地区にボランティアとして赴いた私がふと目にした、花の世話をする住人らしき女性。その周りが小島のように見えて、違う時間が流れているーさまざまな場所で出会う何気ない出来事をつぶさに描いた中短篇の他、広島カープと広島の人々の特別な関わりをテーマにした奇談連作も収録。いまもっとも期待される作家の現在を映し出す14篇。