出版社 : 新潮社
森のはずれのキリギリスの店。窓には、大きな文字で、こう書かれていた。なんでもあります(太陽と月と星以外)。親切で働きもののキリギリスの店には、今日もまたどうぶつたちがやってくる。助け舟を出してくれるテーブル、なくならないケーキ、着替え用のうろこや羽毛、誕生会の“スピーチ”、ほんものの“絶望”、あと一日の“時間”、新しい“句読点”…。遠方の客のためにはどこへでも配達に行くが、“悲しみ”は少しずつしか売らない。たくさんだと、それは“痛み”になるからだ。だれのことも失望させたくないキリギリスは、なんでも取り揃えてどうぶつたちを迎える。ときにはいっしょにお茶をのみ、ときにはひとりでダンスをしてー。『ハリネズミの願い』『きげんのいいリス』につづく大人のための“どうぶつ物語”第三弾。
ネットヒーローズに大きな嵐の予感。不要な残業をしたがる若手に手を焼く結衣だったが、その本音を知り、人事評価制度の改善を提案することに。しかし、思いがけず社内政治に巻き込まれてしまいー。
「日本経済の青春期」を型破りに駆け抜けた業界紙記者がいた。裏も表も知り尽くした著者渾身の自伝的経済小説!幻の処女作「自轉車」を特別収録!“昭和三十三年、高校中退の杉田亮平は石油化学新聞社に入社した。「まもなく二十歳、ここにいる誰よりも筆力も取材力もあると思います」。生意気な言葉通りに、彼は持ち前の度胸と機転で、高度成長期の企業トップや官僚と互角に渡り合う。国策会社民営化、エチレン不況カルテル、企業間の技術譲渡…数々のスクープで業界を激震させ、水面下で経済を動かしたのは、毎号わずか四ページの業界紙だったー。”
欲、業、金、偽、殺、毒ー信じる心が、嘘と虚像に翻弄され起こった平成最悪の事件。あの日、未知の毒物と闘った医師、看護師、駅員、警官。判断を誤れば、さらに人が死ぬー。なぜ、起こってしまったのか?膨大な資料と知識を土台に、想像力と熱意を注ぎ込むことで、剥き出しになった「オウム」の全貌。小説家でもあり、医師でもある著者にしか描きえない、そして、到達しえない真実。
なぜ男は、凶刃を前に笑っていたのか?離縁して三年半経つのに、なぜ女は前夫を刺したのか。徒目付の片岡直人は、調べの末「真相」を確信するが、最悪の事態に。折も折、奇妙な噂が耳に入る。毎日決まった時刻に大川を泳ぐ男がいると。何のために?目を惹く無様な泳ぎが引き寄せた思わぬ運命、封印された凄惨な事件とは…。圧巻の時代長編。
厚生労働省キャリア技官の松瀬尊、30歳。『官僚たちの夏』に憧れ、念願の官僚となるも、その実態は、深夜残業は当たり前、ブラック企業顔負けの現場だった…。「ゆとり世代直撃」なノンキャリの後輩、激烈パワハラ上司、フリーライダー同然の先輩職員の尻拭いに追われ、国会議員からの突き上げ、関係省庁との板挟み。さらには「国民」からの苦情電話に苦悶する日々を送っていた。そこに突如、新潟県で謎の公害病が発生。孤立無援のまま原因究明に追われる松瀬だが、ある謀略により「忖度官僚」として国民の非難の的となり…。過密労働、止まらぬ人材流出、そして、度重なる不祥事…。超リアルにして痛快な、新時代のポリティカルフィクション!
「余命わずかな主人のタめに、妻の遺した日記を読み聞かせてやってほしい」少数民族である天空族のセイジはその依頼を引き受けることに。しかし訪れた山の屋敷には、ある家族を襲った哀しい事件の真相と、天空族の秘密が眠っていた。日本ファンタジーノベル大賞2020優秀賞受賞作。
バスの中で出会った女性からゲームを持ちかけられた亜樹。シンメトリーな文字に強いこだわりを示す女性は、その半生を語り始める。しかし、彼女の言動にどこか違和感を覚え…(「亜シンメトリー」)。めくるめく謎と驚きに満ちた全四篇。
対照的な性格の姉と妹は、優秀で才能ある職業人としてそれぞれ名声を得る。会社のために、仕事のパートナーのために、と信じて働いていたが、過ちを犯し、世間の批難を浴びてしまう。二人はもがきながらも再生の道を探すが…。
ひとりで街へ飲みに行くのは、誰もいない浜辺でゆっくりと海に入っていくのに似ている。ある夜、男はその飲み屋で働き始めた女と知り合った。親しくなった二人は、大阪を歩きながら互いの身の上を語り合う。ジャズのこと、街の風景、そして今はもういない人々-親密な会話から浮かび上がる、陰影に満ちた人生。街に生きる人々の語りが響き合う、哀感あふれる都市小説集。
恐れていたことがついに起こったー。関空に向かうはずの飛行機に兄は乗らず、四半世紀を暮らしたウィーンで自死を選んだ。報せを受け、葬儀とさまざまな手続きのために渡墺した妹。彼女に寄り添う、兄の同僚、教会の女性たち、そして大使館の領事。居場所を探し、孤独を抱えながらも懸命に生きたひとつの生涯を鎮魂を込めて描きだす中篇小説。
音楽プロデューサーの悟は、テレビドラマの主題歌制作に苦戦していた。この楽曲がヒットすれば、低迷中のシンガー・義人は大復活を遂げる。悟もすべてを賭けていた。しかしドラマプロデューサーの多田羅は業界の常識を覆す提案を口にする。そんな折、日本は未曾有の危機に襲われる。社会的喪失の中、三人の運命の行方はー。
鎌倉時代中期。世上は鎌倉大震災を皮切りに天変地異に見舞われ、疫病が蔓延し、飢饉に苦しめられていた。その原因を仏典から解き明かそうとした僧侶・日蓮は、世の為政者が悪法に染まっているため、民を救うはずの仏や善神がこの国を去ってしまったからだと結論づける。至高の経典である「法華経」に帰依しなければ、さらなる厄災が起こるー日蓮は、鋭い舌鋒で他宗に法論を挑んでいくが、それは同時に、浄土宗や禅宗を重用する幕府の執権、北条氏を敵に回すことでもあった。疫病、星の乱れ、日蝕月蝕、暴風雨、日照りー「薬師経」に予言された七難のうち、未だ起こっていないのは「他国侵略」と「内乱」のみ。日蓮の思いは天に届くのか。苦しむ人々を救うため権力者たちと戦い続けたその半生を描く感動作。
顧客の要望に応じて偽りの身分を与える「アリバイ会社」を生業とするサチのもとに、ある日、二人の少女が訪ねてきた。数日後、片方の少女がビルの屋上から身を投げ、サチは残されたデリヘル嬢・アンナを「門」の向こう側へと“逃がす”よう迫られる。サチはこの世界に居場所を失った者を異界へと導く“雨乳母”だったのだー。なぜ、少女は死んだのか。死の道標を追う過程で浮上した“集団リンチ殺人事件”と少女たちの恩讐渦巻く関係とは。そして、サチの隠された過去とは一体…。壮絶なる騙し合いの果てに、絶後の展開が訪れる。新星による衝撃のデビュー作。第7回新潮ミステリー大賞受賞。