出版社 : 新潮社
昭和五十年暮、最後の元海軍大将が逝った。帝国海軍きっての知性といわれた井上成美である。彼は、終始無謀な対米戦争に批判的で、兵学校校長時代は英語教育廃止論をしりぞけ、敗戦前夜は一億玉砕を避けるべく終戦工作に身命を賭し、戦後は近所の子供たちに英語を教えながら清貧の生活を貫いた。「山本五十六」「米内光政」に続く、著者のライフワーク海軍提督三部作完結編。
美作国宮本村の牢人の子に生まれ、父の敵平田無二斎に養育された弁之助は、激しい独習を積んで無二斎に勝ち、宮本武蔵と名乗って武者修業の旅に出る。僧・沢庵の草庵に草鞋を脱いだ青年武蔵は、扶桑第一と称される吉岡道場の当主吉岡清十郎に挑戦した。剣聖でもなく、野人でもなく、ただ剣において勝つことのみにその生涯を費やした兵法者。独自の視点から武蔵を造形する長編。
当主清十郎を失い、さらにその弟伝七郎をも斃された吉岡道場は、一門を挙げて一乗寺下り松での決闘を武蔵に申し入れた。七十余人を敵に回して阿修羅と化した武蔵は、一刀一撃に渾身の殺気をこめて、次々に対手を斬り殺し、ついて勝利をおさめた。再び流浪の旅に出る武蔵。そのころ、武蔵の宿敵佐々木小次郎も、おのが剣名を上げるべく、四尺の長剣を背に、京・大坂を闊歩していた。
紀州山中で、仇敵の鎖鎌の名人宍戸梅軒を破った後、江戸に下った武蔵は、細川家家老長岡佐渡から、同家兵法師範となっていた佐々木小次郎との試合を所望され、九州へ赴く。対決はついに実現した。所は豊前長門の海門・船島。しかしその日、刻限を過ぎても武蔵は姿を現わさない。待つこと一刻、遅参に苛立つ小次郎の眼に漸く、沖合の波にもてあそばれる一艘の小舟が映った…。
とある地方の高校に伝わる奇妙なゲーム。三年に一度、学園祭で行われるそのゲームは、学校の運命を占えると言われていた。ゲームは一人の生徒によって行われる。その生徒は「サヨコ」と呼ばれ、十数年間、秘密裡に受け継がれていた。「六番目のサヨコ」の年、一人の転校生がやってくる。名前は津村沙世子。それは不慮の事故死を遂げた「二番目のサヨコ」と同じ名前だった。
シナとコナタが相まみえた時から遡ること数百年、ひとに寄生して心身を憎悪で満たし、破壊を招き、悲哀と嘆きを生む、いま一振りの『魔剣』があった。目にまばゆいその黄金の太刀を持つ者の名は牛若丸。奇しくも、同じ鞍馬山の山中に暮らす稚児であった。剣の導くまま、魔人・弁慶と巡り合い、数奇な運命に弄ばれる牛若丸の半生を描く、伝奇歴史ファンタジー第三部。
無個性な生き方はできない。しかし何かに成ることも嫌だ。どうせなら、遊び人らしく野垂れ死をしたいー。「暴飲暴食」「心臓破り」「傷は浅いが」…。五十代に入ったことをきっかけに書き始めた連作は、還暦を迎えて急逝する、そのわずか三カ月前に脱稿した表題作をもって、中絶した。予感するように死を意識した日々の心情を綴った本書は、まさしく著者の「白鳥の歌」であった。遺作短編集。
国際社会の秩序を乱す鬼っ子、日本を経済封鎖、完全占領せよー。巨額の貿易赤字と高失業率にあえぐアメリカは、ついに極秘プロジェクト「チェリー計画」を始動させた。孤立した日本に残された道は?計画をスクープした新聞記者・太刀一希の運命は?現役の国際派記者が、詳細なデータと的確な情勢分析に基づき、数年後に現実に起こり得るシナリオを提示する画期的ミステリー。
KGBの大物実力者カジンとマリクは、かつては親友同士だった。しかし顔を合わせなかった四十年間、カジンは憎いマリクを悲惨な目にあわせることと、KGBの指揮権を獲得するチャンスを狙っていた。マリクの息子ユーリは危険を察して罠を逃れたが、その時父親と上司カジンの間に隠された過去のあることに気づいた…。二大国の謀報組織を舞台に壮大な復讐戦が繰り広げられる。
莫大な賭博の借金を返すため、子供の人身売買に手を染めた男ー。だが、今回誘拐した子供は勝手が違った。人間ではない子供を誘拐してしまった男の破滅を描くキングの「ポプシー」。ベトナムで地獄を見た男の脳裏に焼きつく悪夢が実体化し、現実世界を戦場に変えてしまう、マキャモン「夜襲部隊」。その他に、ブロック、キャンベルなどモダンホラーの精鋭22人による戦慄の饗宴。
スターを夢見てハリウッドへやって来たアニーは、有力映画会社の大物社長カースに身体を要求され、酷い暴行をうける。失業率95パーセントの業界で、女優としての才能だけではやっていけないことを痛感したアニーは、名門演劇教室の生徒となり、着実にキャリアを積んでいく。そして大作「ミドナイト・アワー」に出演したいため、アメリカ映画界の寵児デイモンに接近を図る。
「ミドナイト・アワー」は大成功を収め、官能的なセックス・シンボルとして一躍ハリウッドのスターになったアニーだが、カースの妨害で新しい役につくことは困難だった…。恋人エリックとの愛と破局、そして、謎の高級娼婦クリスティーンとアニーとのあまりにも意外な関係。華麗なショー・ビジネスの世界を舞台に展開する、夢と野望、愛と復讐が織りなすラブ・サスペンス。
昼は北海道庁給仕、夜は夜間中学生。昭和18年4月、15歳の真柴仙吉少年の新たな生活が始まった。油絵、詩歌、バイオリン…。次第に芽生えていく芸術への憧れ、そして初恋。だが、悪化の一途をたどる戦況が少年の心を揺さぶる-。札幌を舞台に戦時下の青春を描いた表題作と、終戦後、シベリアで抑留され今なお戦争の傷痕を抱えながら、ひとり山奥の温泉の管理人を続ける老人を描いた「じねんじょ」の2篇を収録。
日本人に似た顔をもつ傑は、養父の死後、家を売り育った国を捨て、ニッポンの都市・東京にやって来た。会社を裏切り技術輸出をするビジネスマン、不法外国人労働者、エイズ治療薬のために草野球のピッチャーに顧われる元大リーガー、名曲喫茶で商談する殺し屋etc…。傑の眼に映る、都市徘徊者たちの悲哀と滑稽を描き、“ニッポン”との摩擦とジレンマをクールに見据る最新作。
ある法律事務所から破格の待遇で迎えられた青年弁護士マクディーアは、5人の前任者がそれぞれ不審な最後を遂げていることを知る。自分の身辺も常に監視されているような気が…。マクディーアの疑惑は深まる。全米50週連続ベストセラーの新人作家のサスペンス。
心理療法士の牧子は、失恋の痛みを忘れるために喧騒の東京を離れ、北海道の東の果て、森と湿原と海に囲まれた病院に勤務した。ギャンブル好きの一風変った寛大な堂福院長の開放病棟で、牧子は意欲的に働き、青年漁師の洋々との出会いに生きる喜びを再び全身に感じた。しかし、幸福な愛の時も束の間、海が彼の命を奪う。安らぎを求め強く生きようとする若い二人の純愛を描く長編。
ソーントーンの見習い魔女ジリオンは、瞳を封印され、山の館に戻れなくなっていた。青狼の毛皮をまとった王子と大海原をさまよううちに、二人は竜の部族の女戦士たちに囚われてしまう。その日からジリオンは、部族を救う巫女姫になることを求められるのだった。しかし、閉ざされた瞳は邪悪な石の瞳、いま、廃墟の城でその封印が解かれてしまった。好評の本格異世界冒険ファンタジー。
月夜の晩。都会を遠く離れ、海へとボートを漕ぎ出す男と女。うねりを乗り越えて波間にただよう二人は、しかし、恋人同士ではなかった…。(「うねり」)。夢と現実のあわいでつかのま触れあう男と女。そんな人々の、一瞬ではあるけれど確かにそこにあった思いを描いた抒情小説集。表題作「土星を見るひと」の他、「壁の蛇」「クックタウンの一日」「ボールド山に風が吹く」など計7編を収録。
1936年、ベルリン。オリンピックを間近に控えながらも、ナチ党の独裁に屈し、ユダヤ人への迫害が始まったこの街で、失踪人探しを仕事にするグンターに、鉄鋼王ジクスから調査の依頼が舞い込んだ。ジクスの一人娘とその夫が殺され、高価な首飾りが盗まれたという。グンターはナチ党政府高官だった娘婿の身近を洗い始めるが…。破局の予感に震える街を舞台に描く傑作ハードボイルド。