1988年発売
通勤地獄を掻い潜りやっと出社すれば、次には職場のみんなの淫らな視線が無遠慮に注がれ…彼女たちの欲情を見透かすように、中年上司の猥語や指技がその肉体を翻弄すれば、疼きをはらんで堰を切ったように愛液を溢れさす…ピザやクレープ育ちの、奔放なオフィス・ギャルの赤裸々な生態を描く!
如何なれば膝ありてわれを接(うけ)しや──。長崎での原爆被爆の切実な体験を、叫ばず歌わず、強く抑制された内奥の祈りとして語り、痛切な衝撃と深甚な感銘をもたらす、林京子の代表的作品。群像新人賞・芥川賞受賞の「祭りの場」、「空罐」を冒頭に置く連作「ギヤマン ビードロ」を併録。
スペイン内戦の影を引きずる亡命作家として国際的に知られるセンデールの自伝的作品。自らも妻と弟を虐殺された共和国軍の兵士でもあった作者がその怒りを内省化させ、少年ペペと少女バレンティーナに託してその多感な生き方を描く。
信じ切っていた友に裏切られ、人も世も神も呪う世捨て人となったサイラスの唯一の慰めは金だった。だがその金も盗まれて絶望の淵に沈んだ彼に再び生きることの希望を与えたのは、たまたま家に迷いこんできた幼児エピーの無心な姿だった。「大人のためのおとぎ話」として広く愛読されてきたエリオット(1819-80)の名作。
1945年以降1970年代までの韓国文学の傑作を精選した初の本格的選集。朝鮮戦争の体験による虚無主義の色濃い50年文学、四月革命の主体となった世代による60年代の社会参与文学、急激な経済成長の裏で疎外される農民・労働者をメインテーマとする70年代文学-骨太なユーモアに満ちた政治諷刺の作品から軽妙なタッチで小市民の暮らしを描く作品まで、本邦初訳6篇を含む19篇の傑作短篇を収録。
死体の消失と出現。夜歩く死者。浮遊する人魂。見えるわけのないものが写った写真。…想像を絶する怪事件が市之瀬徹の属するロックグループに続発した。死者が残した曲の暗号が解読され、奇怪な謎の数々が一挙に解明された時、この大胆な、コロンブスの卵にも比すべきトリックの仕掛人に絶大なる拍手を。
三人のいとこたちの連続殺人の謎を秘めた北の断崖の館は、朝から春の嵐に翻弄されていた。その日、財産目録作成のため四人の鑑定家が派遣されてくるはずだった。だが、現われたのは五人。“招かれざる客”は誰か?その目的は?やがて鳴り響く大時計の三点鐘とともに忍び寄る凶々しい殺意の影。人間心理の神秘を描くサイコ・ミステリー長編。
巨大コングロマリット総帥テオドア・チャーチャーの美術への異常な執着が、世界を絶滅の危機に陥れた。不気味なマンモスタンカーに積まれた、謎の積荷とは何か。そしてクレムリンが狙う恐るべき世界支配の陰謀とは?潜水艦が、戦闘機が、ヘリが死力を尽くして闘う。恋あり、涙あり、活劇あり、緊張と興奮が満載の傑作長編軍事スリラー。
きらびやかな宝石の匣。だが開けてみると、肝心の宝石は消えうせ、赤い絹布の窪みだけが残っている。この匣は虚とか不在と名づけられるべき、天与の贈りものであろうか。戦争の傷をその後の人生に刻した三姉妹を美しい宝石匣の虚になぞらえ、妖美壮麗の小説世界を築く幻想文学の傑作。会心の連作集「とらんぷ譚」の完結編。
ローラの一家は、思うような小麦の収穫がないまま、プラム川をはなれる決心をした。妹グレースの誕生、姉メアリーの失明、愛犬ジャックの死…、ローラは、もうすぐ13歳になろうとしていた。西へ西へとのびる鉄道工事の会計係をしながら、父さんは農地をさがすが…。多感な少女ローラの目を通して描いた「大草原の小さな家」の第4作。
妻子と別居中の男は宗子という女と暮している。女は海に憑かれた元海軍少尉の父親から精神的に独立できないでいる。男・女・父親ー各々の微妙で危うい関係は、7篇の短篇に鮮やかに抽出され、時間の経過とともに揺れ、やがて一つの長篇に固着する。画期的連環小説の手法で家族の崩壊、愛の変容、人生の内面を浮彫りにする。読売文学賞受賞作。
人間の弱さと愚かさを清冽な筆致で描き、愛の本質と可能性を追求する恋愛小説の傑作。アメリカ東海岸の小さい港町、東品川の倉庫街、そして神話の里出雲を択び、時空を越えてこれらの海沿いの街を繋ぐ、はかないけれど確かに存在する「虹」を描いた。