1989年6月発売
無生物にとって神とは何か?この命題をいとも軽快に描きあげるイアン・ワトスン「アミール時計」、放射能で汚染された雨の降る近未来を舞台に、母娘の愛憎を情感豊かに歌うタニス・リー「雨にうたれて」、人跡未踏の惑星で探険隊が発見するものは…マイクル・ムアコック「凍りついた枢機卿」、相対性理論がもたらす“ウラシマ効果”にブライアン・オールディスがひねりのきいた結未をつける「キャベツの代価」など、本邦初紹介の新鋭から、さらに円熟味を増した大家まで、今日のイギリスSFを代表する作家の傑作中短篇14篇を収録。
義勇軍と帝国軍、そして黄の修道僧軍団が三つ巴の戦いをくり広げているとき、タリオンは義勇軍の根拠地コメルチに帰還した。妖魔を滅ぼす唯一の武器、女神サンディーヌの母親の遺灰と共に。タリオンを迎えたレヴィ王女ら義勇軍の人々は喜びにわく。しかしその頃、最前線ではフォルタの娘サルティーが帝国のヴァンクリフ将軍の手に落ち、命とひきかえの降伏を迫られていた。それを知ったタリオンは一散に敵陣へラダを駆る。いまや義勇軍の闘士となったフリオも後を追う。将軍の示した刻限にはもう幾許もない。果たしてサルフィー救出はなるか!?
母さんを失くした、ぼくたちの家に、魔法のようにやってきた電子おばあさん。料理の腕は最高で、凧をあげれば天まで届く。暗く沈んだ我が家の空気も、元のように明るくなった。でも姉のアガサだけは、どうしてもおばあさんに心を開こうとせず…。子守りロボットと子供たちとの心暖まる交流を描く表題作ほか、願いが何でもかなう火星の都市を訪れた地球人たちの不思議な体験「火星の失われた都」、ディケンズと名乗る奇妙な男と少年のひと夏の物語「ニコラス・ニックルピーの友はわが友」など、ブラッドベリが優しく歌いあげる珠玉の短篇集。
幼い頃に別れた父親から突然届いた一通の手紙。それがロンドンで平凡に暮らす息子ジャックの生活を一変させた。手紙によると、父は死刑囚として南アフリカ共和国の刑務所にいるという。いったい何が起きたのか?調査を開始したジャックは、やがて意外な事実を知る。父はSISの工作員で、南アフリカの反政府組織内で情報収集中、爆弾事件に関わり公安警察に逮捕されたのだった。SISが見殺しにすることを知ったジャックは、手製爆弾を使って独力で父を救う決意をするが…。反アパルトヘイト運動に揺れる南アフリカを舞台に描く冒険サスペンス。
あとで後悔するわよ、といったヴィッキーの声が弁護士ホープの耳を離れなかった。かつての人気ロック歌手だったヴィッキー。その復帰リサイタルの夜、ベッドを共にしたホープを、彼女は異常なほど執拗に引きとめた。浴室でそのむごたらしい撲殺死体が発見されたのは、翌朝だった。しかも一人娘が現場から連れさられていた。警察は被害者と最後に会ったホープへの尋問を皮切りに捜査を開始したが、一方自責の念に駆られたホープも自ら事件の渦中に踏み込っていく。グリム童話を下敷きに、莫大な富を生んだ女をめぐる歪んだ人間関係を描く意欲作。
2度目のハネムーンだと喜んで出かけたパリで、パツィー・ベルマンは死んだ。なぜか、夫妻の車に爆弾が仕かけられていたのだ。妻を失ったロジャーの悲しみは大きかった。事件は折りしも頻発していた爆弾テロの一つと判明したが、ロジャーはやがて、恐ろしいことに気づいた。妻の姉、弁護士、彼の秘書までが、莫大な財産を相続することになった彼を、妻殺しの犯人だと疑っているらしい…。小さな疑惑が皮肉な結末を招く上記アン・モリスの「列車で出会った若い男」をはじめ、サイモン・ブレッド、B・M・ギルらの傑作書き下ろし短篇11篇を収録。
60年代最高と謳われたロックバンド〈パーセプションズ〉の元メンバーが、なぜ殺されることになったのか。自宅のヴィデオに映っていた女の1人から恐喝を受けていたらしいのだが、その女も男友達も、さらには事件を追った同僚刑事も、やがて同一拳銃で殺された。しかし、事件はこれで終わったわけではなかった。送られてきた犯行声明文にあるロックンロールの亡霊とは何者か?またその動機、目的、そして最終標約とは?ロサンジェルスのショービジネス界を舞台に左利きの刑事ニッキー・ラフマニノフの執念の捜査を情感豊かに描く最新大作!
人生に退屈を感じはじめた口腔外科医ドク・アダムズは、友人のリアティス・ローンティスの頼みに心が動くのを感じた。ある戦友を見つけ出す手助けをしてくれというのだ。ヴェトナム戦争当時、ローンティス指揮下の特殊作戦部隊、〈デイジー・ダックス〉がある村の危機を救った礼として、黄金のシヴァ神像をローンティスはもらい、副官のヴィラードと山分けすることにした。ところが、最近になって香港の銀行の保管庫に預けてあったその像を二人で受け出そうとしていたところ、突然ヴィラードが行方不明になってしまったというのだった。〈デイジー・ダックス〉の男たちを探るドクの冒険が始まった!『ケープ・コッド危険水域』『幻のペニー・フェリー』に続く、アドベンチャー・スピリットと遊び心に溢れるサスペンス長篇。
ぼくは、3年前に姉が自殺した女神湖に花を供え、愛車サベージで宿泊先の諏訪湖畔、静湖荘へ向かった。そこで出会ったツーリンググループの7人は、手帳を落とし走り去った少女を追って諏訪へ来たという。手帳は1年前の今日、女神湖付近でバイクで事故死した少女の兄のものらしい。3年前、1年前、そして…。その夜、グループの1人が静湖荘の一室で殺され、2日後には、女神湖でまた1人。手帳は盗まれ、足跡とバイクを残した少女は行方不明。さらに姉の形見までも現場に…。故意か偶然か!?著者渾身の傑作ミステリー。
昼のニュース番組で報道された、親孝行な新聞配達少年が誘拐された。その放映元の東邦テレビに、身代金三千万円を要求する脅迫状が舞い込んだ。脅迫状で犯人は、現金受渡しについての詳細な指令を記すと共に、何と、事件の一部始終をビデオに撮影、東邦テレビが独占放映してもよい、と提案していた。犯人は新手の愉快犯なのか?それとも…。予想される高視聴率と引き換えに、社長の牛原は取引に応じることを決意。かくして始まった空前のドキュメンタリー番組「誘拐」の撮影、だが事件は意外な方向へ…。書下し長篇ミステリー。
「死罪」「遠島」に次いで重い刑罰「重追放」の裁きをうけ、あてもなく彷徨う九鬼真十郎。唯一の友は物いわぬ白犬。伊勢街道から伊賀街道へ入った真十郎はその晩、庄屋の家に草鞋を脱いだが、笠取峠に三本足の狐が出て何人もの旅人が命を落したという。翌朝、笠取峠への道をとった真十郎だが、峠にはなんと旅人の死体が。すれ違ったのは左手の無い白装束の女。女は果たして狐なのか…(表題作)。好評時代連作。
謎のゲリラ集団が都内各所で破壊活動を起し、都市機能は完全に麻痺。事態を憂えた首相は、内閣調査室に真相の究明を命じた。一方、インドへ渡った「聖拳」の伝承者・片瀬直人は、タゴール師から、アルハット族と並ぶ超人部族が古代日本へ渡っていた事実を告げられる。帰国した直人は、古代山岳拳法を操る都市ゲリラと内閣調査室との戦いに巻き込まれてゆくが…。必殺拳が炸裂する痛快伝奇アクション第2弾。
故なき醜聞で東京の大学を追われた新藤恭介は、妻娘とともに札幌郊外の私大に新たな職を求めた。だが80年前に米国人教頭ベーカーが建てた館に住む一家を、恐怖が襲った。怪しい人影が窓に映り、高窓が落ち、妻は地下室に閉じこめられた。一方、ベーカーの研究業績に光を当てようと資料の収集を始めた恭介に、大学から圧力がかかった。ベーカーの秘められた過去とは?ホラー・サスペンス長篇。
文化文政、奢侈をきわめた十一代将軍徳川家斉の治世。奸臣はびこり、賄賂がまかり通る乱れた世の中で、好色の家斉に養女を差し出し、権勢をほしいままにする播磨守・中野碩翁。威張りくさった大名どもにひと泡ふかせようと河内山宗俊は、黄金入りの菓子折を持って、権勢の本丸・碩翁に接近をはかったが…。ご存知、御数寄屋坊主・河内山宗峻がびくともしない肝っ玉で腐った世を撃つ痛快無比の時代長篇。
足利政権の末期、京に一人の若者が現われた。若者の名は、塚原新右衛門高幹。常陸の国鹿島に伝わる剣技をたずさえて、兵法修業の旅に出た、後の剣聖・塚原卜伝の若き日の姿であった。十有余年後、鹿島に戻った新右衛門は、一朝、鹿島神宮の神木の前で、ついに秘伝“一の太刀”を完成する。新当流の一流をたてた彼は、やがて新たな修業の旅へ出た。剣に命を賭けた男を描く傑作時代長篇。