2002年12月発売
感謝祭直後のマイアミ。会計士ルーサーと妻のノーラは、ペルーに行ってしまった一人娘ブレアを見送り、クリスマスをふたりで迎えることになった。かねてからクリスマスの狂騒を快く思っていなかったルーサーは、今年はクリスマスを「スキップ」することをノーラに提案する。クリスマス当日から10日間、カリブ海クルーズに出かけようというのだ。だが、この決断は大きな波紋を投げた。毎年頼んでいるクリスマスカードの印刷業者や、クリスマスツリー販売のボーイスカウト、慈善カレンダーを売りに来る警察、慈善ケーキの消防士、パーティーの企画を進めていたルーサーの同僚や社長、ノーラの友人などなど、ありとあらゆる不信の声が上がった。そして一番の軋轢が、町内一丸となってクリスマスデコレーションを飾り付け、今年もコンテスト優勝を狙う隣人たちだった。ところが、数々の嫌みや妨害、プレッシャーをはねのけていよいよ出発というとき、大騒動が…。リーガルサスペンスの巨匠がシニカルに描き出したハートウォーミング・ストーリー。
空前の災厄続きに、人心が絶望に打ちひしがれた暗黒の江戸天明期、大空を飛ぶことに己のすべてを賭けた男がいた。その“鳥人”幸吉の生きざまに人々は奮い立ち、腐りきった公儀の悪政に敢然と立ち向かったー。ただ自らを貫くために空を飛び、飛ぶために生きた稀代の天才の一生を、綿密な考証をもとに鮮烈に描いた、これまた稀代の歴史巨編である。数多くの新聞・雑誌で紹介され、最大級の評価と賛辞を集めた傑作中の傑作の文庫化。
人骨の柄に狼を刻んだナイフが左胸を貫き、真紅の薔薇の花びらがちりばめられた屍体ー。横浜で起きたロシア女殺しの手口と、広東省・梅県の事件は酷似していた。育ての親・張龍全の命を請けた海津明彦は、背後を探るべく、梅県へと飛ぶ。黒社会の覇権を争う秘密結社・哥老会と三合会の抗争、香港駐屯権をめぐる公安の暗躍。そして…。中国を揺さぶる闇を圧倒的スケールで抉る。
どこの家庭でもありそうな、でも他人には言えない妻の悩みー夫との冷え切った関係、姑との対立、病死した一人息子への想い、受験生を抱えるつらさ、あるいは生活費の工面や、男友達との密会だったり…。それぞれに事情を抱えた妻たちは、何かを変えたくて旅に出た。新鮮な風景と語らいが、少しずつ彼女の強張った心を解きほぐす。切ないけど温かい、家族を見つめた物語集。
平成の日本列島が、太平洋戦争の真っ只中にそっくり時空漂流してしまうという、前代未聞の超常現象に直面して、日本は大混乱に陥った。現代日本の軍事システムは、少数の高性能破壊兵器を前提に構成されており、一時に数百機のB29に攻撃される可能性など全く考慮されていなかった。そのため最新鋭兵器を装備しているはずの自衛隊が、旧米軍を相手に大苦戦することになった。航空自衛隊は、日本本土攻撃を中止させるために、マリアナ諸島の米軍基地を完膚なきまでに破壊した。大戦を早期に終結させるため官房副長官の滝川治は、連合艦隊の伊藤長官に同行して戦艦大和に乗りこみ、中国との休戦に成功する。いよいよ本腰で日米講和にとりくむことになった日本政府だったが、アメリカは態度を硬化させるばかりだった。頼みの綱であるはずのアレン・ダレスの行方はいっこうにつかめない。日々刻々とアメリカが日本に原爆を落とす日が、近づいてくる…。鬼才・砧大蔵が豊富なデータをもとにシミュレートする架空戦記の傑作、第3弾。
連戦連勝の油断から、ミッドウェー海戦で大惨敗を喫した日本海軍だったが、それを契機に大改造計画を断行していた。新編成の第三艦隊は、旗艦翔鶴、瑞鶴、小型空母龍驤、そしてジェット空母大和の空母四隻を基幹とする世界最強の機動部隊となった。ジェット空母大和とは、戦艦大和の後部46センチ三連装砲塔を撤去して、そこにV字型の飛行甲板を増設した航空戦艦で、当時の超科学大国ドイツから購入した世界初の実用ジェット機W20を搭載していた。ジェット空母大和から勢いよく飛びたったW20の機首と両翼の20ミリ機銃4挺が激しく火を噴き、押しよせてくるアメリカ戦闘機の大群を片っ端から撃ち落としていく。この連合艦隊大改造の仕掛け人は、海軍の至宝といわれた樋端久利雄。彼の天才的な頭脳から生みだされる火花のようなアイデアが次々と実現化されていく。超ベテラン馬場祥弘が新境地に挑む、痛快無比のハイパー・シミュレーション戦記の大傑作、第一弾。
藤木七海・35歳。結婚13年目の専業主婦。夫はやさしいし、子供達は、勉強はそこそこみたいだけれども、素直に育ってくれた。だから、それなりにしあわせかな?でも、「マイホームの頭金を貯めたいな」なんて考え始めていた矢先に、夫の両親から同居の誘いがあって。ハッキリ言ってお義母さんはちょっと苦手なんだけど…。いまどきの家族をハートフルに描いた人気ドラマ、待望のノベライズ。
「あのう、ホテルであなたの免許証を拾った者ですけど…」会社のデスクにかかってきた見知らぬ女性からの電話。謝礼はいらない、できれば顔をあわさずに返したいという奇妙な申し出の顛末は…表題作など、読者から送られた小さな新聞記事をヒントに作られた都会派ミステリー9篇。人気シリーズ第2弾。
軍人としては陸軍大将、政治家としては実に三度も首相の座についた桂太郎。激動の明治時代を生きたこの武人宰相は妥協と忍従の姿勢の陰で、癌研究会、日本赤十字社、そして拓殖大学の創立に尽力、「新生日本」のための布石を次々に打っていたー。「ニコポン首相」と呼ばれた男の知られざる豪胆さを描く。
35歳になった男は義理の妹の媚態が頭から離れない。若い母親は仕組まれた売春の罠に堕ち、青年はSMクラブに足繁く通うようになる…。些細なきっかけで異常な性の世界にはまった者たちが、苦悩と快楽、そして絶望の果てに見るものは?日常に潜む背徳の姿を残酷なまでに描ききった異色作品を4編収録。
「アロエが、切らないで、って言ってるの。」ひとり暮らしだった祖母は死の直前、そう言った。植物の生命と交感しあう優しさの持ち主だった祖母から「私」が受け継いだ力を描く「みどりのゆび」など。日常に慣れることで忘れていた、ささやかだけれど、とても大切な感情ー心と体、風景までもがひとつになって癒される13篇を収録。
「不一致。再生を中断せよ。」近未来の国連によって、もう一度歴史をなぞることになった2.26事件の首謀者たち。彼らは国連の意図に反して、かつての昭和維新を成功させようとするが。恩田陸渾身の歴史SF大作。
キングズマーカムの町中で二人の少女が相次いで誘拐される。奇妙なことに少女たちは誘拐されてすぐ、何事もなかったように無傷で帰ってきた。しかも警察や家族の詰問にも、その間の出来事を頑として語ろうとしない。いったい少女たちに、何があったのか?事態に翻弄される警察を嘲笑うように、第三の誘拐事件が発生した…時を同じくして、子供に性的な悪戯をして有罪となった老人が服役を終えて町に帰ってきた。住民たちの不安は爆発寸前となり、大規模な暴動になりかねない勢いとなる。事態収拾に奔走するウェクスフォードを待つ運命は。
昭和十年に始まった芥川賞が百一回を迎えたのは、日本近代文学の流れによりそうかのように、奇しくも時代が昭和から平成へと移ったときでした。第百回までの全受賞作を収録して好評を博した第一期・第二期十四巻に引き続き、文芸春秋八十周年記念出版として刊行される芥川賞全集第三期五巻は、新時代の文学の息吹を生き生きと伝える第百二十五回までの受賞作二十九篇を収録、既刊同様、選評、受賞者のことば、自筆年譜を併載しています。