ジャンル : 外国の小説
荒廃した墓場に家を建てて住み始めたヒジュラーのアンジュム。家はやがてゲストハウスとなり、そこでは著者の幻影とも思われるティロー、そのパートナーのムーサーなど、様々な傷を抱えた人々の人生が交錯する……。首都の抗議運動やカシミールでの紛争など、現代インド史の出来事を寓話的に織り交ぜ、凝り固まった世界の周縁で生きる人々の姿を詩情あふれる文章で描く。『小さきものたちの神』でブッカー賞を受賞した著者による20年ぶりの新作長編小説。(解説:拓 徹) (Arundhati Roy, The Ministry of Utmost Happinessの邦訳) たった一冊の本に、これほど多くの苦悩、喜び、愛、戦争、死、生、そして人間らしさが詰まっている。何度も人生を歩んだような気分になる一冊。--アニータ・フェリチェリ(『L.A. リビュー・オブ・ブックス』) 愛の描写には映画のような雰囲気があり、真の哀愁と深い感情を伴っている。〔…〕ロイの才能は大きな叙事詩ではなく、個人的なものに対する感性にある。詩的な描写、そして愛と帰属という複雑な方程式を巧みに描き出す能力に長けているのだ。--ミチコ・カクタニ(『ニューヨーク・タイムズ』) 過去20年間のインドを描いたこの親密な叙事詩は見事だ。政治的でありながら説教臭さはなく、感情に満ちつつも皮肉を帯び、詩的でありながら精緻な筆致が光るーー『テレグラフ』
孤立無援の少女たちに迫る悪の影 一八四〇年代のイギリス、身寄りのない少女ルーカンは勤め先の主人に言い寄られて屋敷を逃げ出し、学校時代の親友で大富豪の娘ゾジーヌのもとへ向かった。しかし、ゾジーヌの側にも大きな境遇の変化があり、財産もなく孤立無援の二人はロンドンへ出て職を探すことに。そこでフランスの田舎に住む慈善家の牧師夫妻から一年間の期限付きで養女にしたいという申し出を受ける。異国の地に落ち着いた少女たちは、老牧師から授業を受け、菜園の世話をしながら平和な生活を送り始めるが、やがて仮面の裏側に隠された恐ろしい事実を知ってしまう。圧倒的な悪の力に立ち向かうことを決意した二人の運命は? 『アフリカの日々』の作家ディネセンが、ナチス・ドイツ占領下のデンマークで変名を用いて発表した本書は、悪の支配に抗う少女たちのロマンティックな冒険を描いて、暗い時代に生きる人々の心を虜にした。
決 壊 す る 文 体 ーー圧倒的な感情がほとばしり、膨れ上がり自壊する言葉の群れが未熟な欲望を覆い尽くす。10歳の少女らを閉じ込めるひどく退屈な夏休み、早熟なふたりの過激で破滅的な友情。 スペイン最南カナリア諸島発、世界18カ国語に翻訳の問題作。 ◇ ◇ ◇ スペイン・カナリア諸島に暮らす、10歳の「わたし」と親友イソラ。 せっかくの夏休みは、憂鬱な曇天に覆われていた。薄暗い貧困の地区を抜け出して、陽光のふりそそぐサン・マルコス海岸に出かけたいのに、仕事に追われる大人たちは車を出してやる余裕がない。ふたりの少女は退屈しのぎのため、不潔にして乱暴、猥雑で危うい遊びにつぎつぎ手を染める。 親友というには過激すぎる、共依存的関係性。 「わたし」にとってイソラはまるで聖女のように絶対的な存在だった。イソラが両膝を怪我すれば、舌でその血をなめとった。イソラの飼い犬になりたかった。粗暴な物語に織り込まれた緻密な象徴の数々。子どもらしいイノセンスとは無縁の、深い悲しみに由来する頽廃と陶酔の日々。 イソラと共にある日常は永遠に続くかに思われた。しかしーー ◇ ◇ ◇ Andrea Abreu, Panza de burro (2020) 装丁:コバヤシタケシ 装画:さめほし「夜明けの海」 あんなに大胆で、あんなに怖いもの知らずに ほんのちびっとだけ イソラ・カンデラリア・ゴンサレス=エレラ 松葉の下のキノコ これは雨になりそうだ クリームを、首にクリームを タイヤをきしませながら行くメタリックのビマー ヨソモンは臭い ウサギを嚙まずに丸ごと食べちゃう フアニータの叫び声は十字路の向こうまで響いた イソラを食べてしまう まだはつ明されてないような愛ぶをしてやるぜ イソラの足がアスファルトを踏む 猟犬みたいにやせっぽち こすりつける 両膝を怪我したわたしの聖女 イエス・キリストの小さな顔 その日はキャベツシチューしかなかった iso_pinki_10@hotmail.com ペペ・ベナベンテのBGM クロウタドリの羽みたいに黒い目 エドウィン・リベラ ジャガイモひとつごとに半キロ 胴体にナイフ イソラが存在しなかったときみたいに 女に残る最後のもの わたしたちはこんなふうに夜の蛾のように ひとりでこする 這い回るトカゲ 広場の上につるした色紙 訳者あとがき
「ただ、自由な国に暮らすのがどういうことなのか、感じてみたいんです。そうしたら、僕の人生の邪悪なものが正されていくかも知れない」 アパルトヘイト時代、南アフリカ。政治犯として刑務所で二年間を過ごしたジャーナリストの青年マカヤは、国境近くに隠れて夜を待っていた。闇に紛れて国境フェンスを乗り越え、新たな人生へ踏み出すために。たどり着いたのは独立前夜の隣国ボツワナの村ホレマ・ミディ。農業開発に奮闘する英国人の青年ギルバートと出会い、初めて農業・牧畜に携わることになったマカヤ。しかし、非人間的なアパルトヘイト社会の南アフリカとはまるで違う、自由の国であるはずのボツワナにも抑圧者は存在した。マカヤはこの国の抱える人種主義や抑圧の問題、人間の善悪、そして干ばつの苦しみを目の当たりにする。深い心の闇を抱えたマカヤは、やがて村人との出会いで傷ついた自らの心を癒していくが……。 「人間がもっとも必要としているのは、他の生命との関わりあいだ。もしかすると、ユートピアもただの木々なのかもしれない。もしかすると」 南アフリカ出身の重要作家ベッシー・ヘッドが、亡命先ボツワナで発表した1968年の長編第一作、待望の邦訳。アパルトヘイトの抑圧から逃れ、自由を求めて国境を越えた青年マカヤは、ボツワナ農村の開発に関わりながら、差別や抑圧、人間の善悪を目の当たりにする。貧困、開発、宗教、民主主義、ジェンダー、部族主義と向き合い、鋭い筆致で人間の本質を描いたアフリカ文学の傑作。
奪われし者たちの悲鳴がグロテスクに世界を覆う。GRANTA「若手作家ベスト20」選出、英語圏で最も注目を集める作家による、シャーリイ・ジャクスン賞受賞作を含む鮮烈のデビュー作! 肉片が、聞いているーー。 ミシン、人形、缶詰、蜘蛛、そして女たち……。 ★シャーリイ・ジャクスン賞受賞(本書収録作「ワクシー」) ★GRANTA「若手作家ベスト20」選出(イギリスの老舗文芸誌「GRANTA」が10年ごとに選出) 雑誌「MONKEY」(スイッチ・パブリッシング刊/「アガタの機械」/柴田元幸訳)や「文藝」(河出書房新社刊/「ネズミの女王」/上田麻由子訳)で話題の著者による鮮烈デビュー作が、ついに刊行! ******** 「既成概念を覆す試み」 ーーウォール・ストリート・ジャーナル 「素晴らしい! 印象深く、しかし、すぐに消えてしまいそうなほど儚いイメージ。グルドーヴァは、美しさを描くための最も難しいテクニックを見事に駆使している」 ーーデボラ・レヴィ(『ホットミルク』著者) 「ダークで知的で美しく、絶妙にグロテスクな、グルドーヴァの世界を読む喜び。 ーーヘレン・オイェイェミ(『あなたのものじゃないものは、あなたのものじゃない』著者) 裂けたストッキングと手縫いのベルベットのドレス。知的なバロック小説であり、完璧かつ大胆、巧妙かつ繊細な傑作。アンジェラ・カーターの正統な後継者であるカミラ・グルドーヴァの、飾り気がなく、それでいて魅惑的な文体を、ぜひ読んで、愛してほしい!真似ごとや作り物ではない、真に奇妙に輝く宝石のような作家だから」 ーーニコラ・バーカー(2007年ブッカー賞最終候補作『Darkmans』著者) 『人形のアルファベット』は、独自の世界を細部に至るまで創り上げている。初めて見る風景なのに、まるでずっとそこにあり、誰かに見つけられることを、そして魅了されることを待っていたかのよう。 ーーシーラ・ヘティ(ニューヨーク・マガジン誌2018年ベストブック『Motherhood』著者) ******** 日常をグロテスクに彩る、珠玉の13編!
宮殿の使用人にすぎない私が、 おそれ多くも、王妃になるですってーー? セドヴィア国王夫妻が急死し、戴冠式を間近に控え、 皇太子アレッシオは頭を抱えた。婚約者が駆け落ちしてしまったのだ。 だがやがて、先日、車の接触事故に遭った赤毛の女性を助けたことを 思い出したーー見事なプロポーションの王宮の使用人、ロージー。 皇太子は彼女を呼び出し、婚約者が駆け落ちしたと説明した。 「ロージー、きみの家族は多額の負債をかかえているね」 なぜ知っているの? ロージーは重い口調で答えた。「そうです」 「ぼくは婚約者の代理の花嫁を見つけ、結婚式を決行する必要がある」 「式まで9日しかないのに、どこにそんな花嫁が?」ロージーは困惑した。 「今、ぼくの目の前にいる。きみにぜひ引き受けてもらいたい」 リン・グレアムファンの皆様、お待たせしました! 正真正銘の王子様にプロポーズされた、貧しき苦労人ヒロイン。次期国王となる彼は面目を保つため、結婚して愛し合っているふりをしてほしいと言いますが……。身分違いのシンデレラ物語をお楽しみください。
真夏の夜の暗い森の中で、 彼女は美神の虜になった。 モードは放蕩者で知られる大富豪ドミニクの邸宅を囲む森の、 コテージに住み込みで働いている。今日は年に一度開かれる、 上流階級の男女が集う秘密の酒宴の日。モードたちスタッフは、 けっして森に足を踏み入れないよう厳命されていた。 だが真夜中、嬌声に起こされてつい迷い込んだ森で、 モードは神々しい半裸のドミニクにでくわし、釘づけになった。 そして名も告げぬまま身を任せ、純潔を捧げてしまったのだ。 数カ月後、森の滝つぼで水浴びをしているモードの前に彼が現れ、 厳しく問うた。「きみは妊娠しているね。あの夜の女性なのか?」 モードは俯いた。ええ、でも安心して。私がひとりで育てるから。 個性的なヒロインを描いて人気のジャッキー・アシェンデン。今作ではスコットランドの森で育ち、自然と自由を何より愛するヒロインが、大富豪の跡継ぎを身籠ったことから契約結婚を受け入れざるを得ない展開に。ヒーローの思いがけない優しい一面にも注目!
大富豪は見逃さなかった── 泥まみれの少年の美しい素顔を。 多額の借金を残して父が亡くなり、母は早々に愛人と出奔し、 カミラはひとり呆然としていた。家も牧場も馬たちもすべて、 スペイン富豪マティアスに奪われてしまった。私はこれから、 どう生きていけばいいの? せめて愛馬の傍にいられたら……。 カミラは髪をばっさり切ると、ぶかぶかの服で少年に成りすまし、 厩務員としてマティアスに雇われることに成功した。 泥まみれで朝から晩まで必死に働いて2カ月、うっかりして 彼女はマティアスに正体を見破られてしまう。万事休す、だ。 だがなぜかくびにはならず、便宜結婚を申し込まれることに。 彼の瞳の熱い炎に気づかず、無垢なカミラは承諾するが……。 兄に婚約者を奪われ、その身代わりとして報酬と引き換えにヒロインと愛なき結婚をしたヒーロー。寝室は別という契約でしたが、少年から美しい花嫁へと変身した彼女の魅力に抗えず……。メイシー・イェーツらしい、ヒロインの愛らしさが光るロマンスです!
こんなに完璧な夫のことを思い出せないなんて、 どんなつらい出来事が起きたのかしら……。 目を覚ましたジュリアは、傍らに立つハンサムな男性を見た。 誰かしら? 見覚えのないその男性はロスと名乗った。 しかもーー彼女の夫だと言うではないか! そこは病院だった。ジュリアは事故に遭い昏睡していたのだ。 富豪の彼と出会って恋に落ち、結婚した3カ月間の記憶だけが すっぽり抜け落ちているなんて。どうして……? 結婚するほど深く愛していたはずの人を、なぜ思い出せないの? 肝心なことを何も語らないロスに、ジュリアは苦悩を深めていく。 ある日、偶然話に出たルーという女性の名に夫が動揺してーー。 ケイ・ソープが大人気の記憶喪失がテーマの物語を、ハーレクインの黎明期1973年に書いていました! ヒーローとヒロイン以外の2人の男女が絡んで、もつれる恋愛模様をご堪能ください。
あの夜に授かった天からの贈りもの。 二人で分かち合うべきだけれど……。 1年前からフロリダのキーウエストで働くステイシーは、 事故で重傷を負った同僚を病院に運びこんだ。 怪我の状況をきこうと担当医の顔を見て、彼女は息をのんだーー 5年前、ビーチでめくるめく情熱の一夜を分かち合ったルイス! あの翌日、彼は医療活動で海外へ旅立ち、それっきりになっていた。 今、目が合ったはずなのに、驚いた表情を浮かべたルイスは 非常口のドアを押し開け、どこかへ行ってしまった……。 しっかりしなさい。落ち着くのよ。そう自分に言い聞かせる。 だがほどなく、ステイシーは仕事で再びルイスと顔を合わせた。 もう向き合うしかないーー私の4歳になる息子の父親である彼と! USAトゥデイのベストセラー作家トレイシー・ダグラスが贈る、予期せぬ妊娠物語! 顔やふとした仕草など、ルイスと息子がよく似ていることに気づき、愛がこみ上げるステイシー。でも彼がいつまた突然遠い国へ行ってしまうかわからず、恋をためらい……。
愛しすぎれば傷つくと知る娘は、 愛を恐れ、愛を隠す……。 ヘロンは幼いころ、睡蓮の花を摘もうとして湖に落ちた。 そのとき助けてくれた庭師の青年のことが忘れられず、 美しく成長した今も、ほかの誰も愛することができずにいた。 とはいえ、その青年のことはおぼろげにしか憶えていないけれど。 ある晩、ヘロンはパーティで端正な紳士に突然プロポーズされる。 エドウィンと名乗った彼は外国から戻ったばかりの実業家で、 町外れの海に面した崖に立つ“ガラスの城”を買い取ったので、 そこに似合うような美しい若妻が欲しいのだという。 よく知りもしない年上男性と暮らすなんて、絶対にいや! 激しく拒むヘロンを、彼はすべてを見透かすような目で見つめ……。 不世出の作家ヴァイオレット・ウィンズピアが生んだ名作の中でも特におすすめの本作には、まるで言葉の宝石箱のように美しい表現が詰まっています。幻想的な初恋と年の差ロマンスが描かれ、ウィンズピアの耽美な世界観を存分に味わえる極上の物語です。
瞳も言葉も冷たいのに、ときに優しい。 彼の矛盾に戸惑うばかりで……。 アビゲイルはいま、早急にお金が必要だった。 看護師をしていた病院は亡き母の看病のために辞めていたし、 少しずつ切り崩していた貯金も、葬儀代で底をついてしまったのだ。 そしてオランダでの仕事で出逢ったのが、ファン・ワイケレン教授。 外科医の彼は容姿端麗で、聞き惚れるほどすてきな声の持ち主だけれど、 視線にも口調にも温かみはなく、なんだか嫌われているような気がする。 でもどんなにうとまれても、彼を見ると胸がどきどきしてしまう! 教授は昔、誰かに傷つけられて、冷たく気難しい人になったという。 彼がまた人を愛せるよう、私が役に立てたらいいのに。 だから今日も、涙を隠してほほえむアビゲイルだったが……。 唯一無二の作風で世界中のファンから愛される名作家ベティ・ニールズが1972年に発表した本作。けなげなヒロインのせつない片想いの行方やいかに?
何の変哲もないウェイトレスの私を、 なぜ大富豪が花嫁にしたがるのーー? 姉が遺した幼子2人を引き取ったフレディは、大学を辞め、 高級ホテルのバーでウェイトレスとして働いている。 まだ若く貧しいので、正式な養母になれないのが悩みの種だ。 そんな折、最上階の大富豪から契約結婚を持ちかけられて驚く。 ザック・ダ・ローシャは言ったーー 莫大な遺産を継承させる後継ぎのみが必要で、愛はいっさい不要、 子供さえ産んでくれれば、幼子たちも養子に迎えよう、と。 もちろん、愛する家族を守りたい。 でも……そのために純潔を捧げてしまっていいの? ハンサムなだめ男に身を滅ぼされた亡姉のようになるのが怖くて、恋愛に臆病なヒロイン。ハンサムな大富豪と契約結婚することで、運命はどう変わるのでしょうか? 『天使に魅入られた大富豪』、『王子と間に合わせの妻』に続く、身分違いロマンスの決定版! リン・グレアムが得意とする、ピュアで芯のあるヒロインが登場する心揺さぶる珠玉作です。
名作家イヴォンヌ・ウィタル 涙のデビュー秘話ほか 巻末に特別付録! 〜自伝的エッセイ&全作品リスト〜 大スター作家L・グレアムの乙女心をくすぐる珠玉の短編のほか、L・ゴードンのシークレットベビー物語と、名作家Y・ウィタルのデビュー作を豪華収録! 特におすすめは巻末のイヴォンヌの自伝的エッセイ。読むと、デビュー作を改めて読み直したくなります。
二大巨匠による贅沢なアンソロジー! 甘くせつないシークレットベビー物語2編。 北米ロマンス界の重鎮ダイアナ・パーマーが描いた衝撃作が初再版されます! 複雑に絡み合い、もつれ合う人間模様や恋模様。英国の大スター作家シャロン・ケンドリックの大ヒット作と合わせて、読み応えあるシークレットベビー・アンソロジーをお贈りします。
インドネシアの恵まれた家庭で育ち、環境保全活動に積極的に取り組むマリア。中学校での日々を一生懸命にすごしながらも、地元に残された友人に罪悪感を抱えているアリ。檻の中に監禁されたオランウータンのジンジャー。それぞれの視点から、インドネシアが直面している環境問題と、それによって生まれたオランウータンの窮状を描く。
白い犬の後を追いかけてきたタロコ族の少年と、自分を売ろうとする父親から逃げてきた少女。山の深い洞穴で二人は出会い、心を交わす。 少年が少女の村に、少女が少年の村へ入れ替わり出ていくのを、巨人は見つめていた。 山は巨人の体であった。人々に忘れ去られた最後の巨人ダナマイ。彼の言葉を解すのは、傷を負った動物たち。 時を経て再会する二人を軸に、様々な過去を背負う人々を抱えて物語は動き出す。 舞台は原住民と漢人、祖霊と神が宿る台湾東部の海豊村。 山を切り崩すセメント工場の計画が持ち上がり、村の未来を前にして、誇りを守ろうとする人々と、利益を享受しようとする人々が対立する。 巨人がなおも見つめ続ける中、かつてない規模の台風が村を襲い、巨人と人間の運命が再び交差するーー。 物語を動かすのはつねに、大いなるものに耳を傾ける、小さき者たち。 ★2023年台湾書店大賞小説賞受賞 ★「博客来」ブックス・オブ・ザ・イヤー入選