ジャンル : 外国の小説
嘘や憎しみにあふれた情報の断片を優しさによってつなげ、神話的な力を蘇らせる「第四人称」の語りとは。絶えざる流浪、破局、全体主義を経験しながら、菌糸体のごとき独自の生長をとげた中欧文学の魅力とは。細分化する世界を星座のように再構築する新たな文学の可能性を、『逃亡派』『昼の家、夜の家』のノーベル賞作家が語る。 優しい語り手……………小椋 彩 訳 「中欧」の幻影(ファントム)は文学に映し出されるーーーー中欧小説は存在するか……………久山宏一 訳 第四人称の語り手の未来ーー訳者あとがき……………小椋 彩
金持ちで蒐集家のおばに育てられたアントンは十五歳で絵を描き始めた。完成した絵はおばの不興を買うが、屋敷を訪れたローベルトおじは絵の勉強を続けるよう激励する。実はこのローベルトこそ、バルカン半島の某公国を巻き込み、架空の画聖をでっちあげて世界中の美術館や蒐集家を手玉に取った天才詐欺師にして贋作画家だった。十七歳になったアントンはおじの待つ公国へ向かったが…。虚構と現実の境界を軽妙に突く傑作コミックノヴェル。
フランス革命の只中、18世紀末のトリノで、世界周游の向こうを張って42日間の室内旅行を敢行、蟄居文学の嚆矢となったグザヴィエ・ド・メーストル「部屋をめぐる旅」--その続編「部屋をめぐる夜の遠征」、および「アオスタ市の癩病者」の小説3篇と、批評家サント゠ブーヴによる小伝を収録。 われわれは、ここに再版する興味深い発見や冒険を行なった人物よりも前に存在した旅行家たちの価値を、貶めるつもりはない。マゼラン、ドレーク、アンソン、クックといった方々は、疑いなく立派な人物である。ただ、もしわれわれの思い違いが過ぎるのでなければ、あえてこう言わねばならない、『部屋をめぐる旅』には先立つ全ての旅をはるかに上回る特別な価値があるのだ、と。 ーージョゼフ・ド・メーストル デカルトは、ナッサウ公マウリッツに仕えていたとき、同じ方法で、ただし比類ない真剣さで、軍隊生活の空白を埋めていた。〔……〕グザヴィエ・ド・メーストルもまた、不安も煩悶もなかったようで、『部屋をめぐる旅』を書きはじめた。独創的な主題であり、何でもないことについて何でも語ることができた。 ーーアナトール・フランス サヴォワ人の筆すさびがわれわれに残した不滅の小著…… ーーホルヘ・ルイス・ボルヘス 彼はそのとき住み慣れて知り切っていると信じた自分の部屋の周游旅行を志すことに依ってこの憂さを消そうと計画したのであった。これは確かによい思いつきだ。憂愁と退屈には旅行は何よりもの慰安である。それに仔細な観察に眼と心とを慣らすということは人の精神に無駄なことではない。で彼は自分の部屋を旅行し、観察し、数々の未知を発見し、これに就てのエキゾチクと云ってよいほどの驚きを記録している。彼の部屋は殆ど一つの世界である。 ーーきだみのる クサヴィエ・ド・メストルは二つの冒険譚を書いた。小説もあるが、それはまあいい。何よりも風変わりな冒険物をいうべきだろう。フランス人が文章においてとりわけたっとぶ「クラルテ」と「レジェルテ」、つまり明晰さと軽妙さとをほどよくそなえ、フランス語散文の好見本にちがいない。 だが、この名前が文学辞典にみつかるかどうか、大いにあやしい。 ーー池内紀
偽善社会をこき下ろし、ディドロに「心臓に毛が生えている」と評された、人相不明の諷刺作家フジュレ・ド・モンブロンーエロティックな妖精物語『深紅のソファー』と遊女の成り上がりの物語『修繕屋マルゴ』、奔放不羈な旅人の紀行文学『コスモポリット(世界市民)』を収録。
呪われた一族、屋敷、怪人、降霊会、雪の密室、変人探偵とワトソン役。「フランスの新本格作家」アルテ氏が好きなものだけを詰め込んだ、同好の士への最高の贈り物。本作で、美学者探偵オーウェン・バーンズがますます好きになりました。彼の言動や推理から目が離せません。そして、最後の一行の鮮やかさに脱帽! ーー 作家 大山誠一郎さん推薦! ●オーウェン・バーンズシリーズ第一作が待望の邦訳! 夜、白い仮面を目にし、鈴の音を耳にしたら用心せよーー 芸術家を目指す青年アキレス・ストックは、ロンドンで友人になった自称・名探偵オーウェン・バーンズから厄介な頼みを押しつけられる。自分の代役として、名門マンスフィールド家にまつわる呪いの調査をしてほしいというのだ。それも、依頼人の婚約者に成りすまして。 長女の婚約を巡って愛憎渦巻くマンスフィールド家に集まるのは、やり手の貿易商とその腹心の部下、美しき夢遊病患者に高名な霊媒師……と、一癖も二癖もある面々。そして彼らは一様に、毎年の聖夜に現れて一族の誰かの命を奪うという白面の亡霊「混沌の王」の影に怯えていた。それはいにしえの伝承でなく、三年前のクリスマスにも当主の息子エドウィンが、完全な密室の中で殺されたのだという。 そして「混沌の王」を呼び出し鎮めるための交霊会が開かれた夜、新たな殺人事件が発生しーー過去と現在の二つの「雪密室殺人」が交差する、奇想と幻影の不可能犯罪ミステリ! ※短編小冊子「怪狼フェンリル」付き。 1 死の鈴 2 奇妙な任務 3 雪のなかの人影 4 明かりが消えて 5 白い仮面 6 雪のなかの散歩 7 混沌の王 8 ドアがあいて…… 9 霊よ、ここにいるのか? 10 オーウェンの指示 11 不可能犯罪 12 最終準備 13 赤いクリスマス 14 翼のはえた死神 15 ウェデキンド警部の捜査 16 アリアドネの糸 17 次はハリーが 18 湖の幽霊 19 足は語る 20 オーウェンの謎解き 21 触らぬ神にたたりなし 22 芸術の星のもとに エピローグ
ファニーな幽霊たちが東京でとことん迷わせる。日本オリジナル小説、世界に先駆け刊行。コロナ禍とオリンピックで大揺れに揺れる東京を訪れた米国人作家夫婦が出会ったのは、ニッポンが誇る文化的英雄の幽霊たち(太宰、荷風、三島夫妻、黒澤明、宍戸錠、植木等、安藤百福、大松監督、ダダカンetc)。彼らはこの賑やかで寂しい都の何を見せようとしているのか? 狂騒的で、詩的で、懐かしい、〈もののあはれ〉な傑作長篇。
19世紀中盤のアメリカ・ヴァージニア州。黒人奴隷ハイラムは、美しい踊り手でもある奴隷の母と、奴隷主である白人の父とのあいだに生まれた。並外れた記憶力と祖母から受け継いだ神秘的な能力をあわせもつハイラムは、恋人との逃亡に失敗するが、黒人奴隷を逃すネットワーク「地下鉄道」の活動家に見出される。やがて自身もその活動に身を投じ、多くの奴隷たちの物語に触れるうち、自らの力の源である、失われた母の記憶を取りもどしてゆくー。トニ・モリスンが「ボールドウィンの再来」と絶賛した、いまもっとも注目される全米図書賞作家によるデビュー長篇小説。壮大かつエキサイティングな物語。
《レギス3への着陸完了。サブ=デルタ92型砂漠惑星。われわれは第二手順に則ってエヴァナ大陸の赤道地帯へ上陸する》この通信から40時間後、まったく意味をなさない奇妙な音声を伝えてきたのを最後に消息を絶ったコンドル号を捜索するため、二等巡洋艦インヴィンシブル号は琴座の惑星レギス3に降り立った。そこは見わたす限りの広大な大地に生命の気配のない、赤茶けた灰色の空間であった。やがて、偵察のために投入された撮影衛星が人工的な構造物をとらえ、探索隊が写真が示す地点へと向かう。たどり着いたのは、奇怪な形状を有し廃墟と化した《都市》であった。《都市》の内部へと足を踏み入れ、調査を進める探索隊であったが、そこにコンドル号発見の知らせがもたらされる。急ぎ現地に向かった一行が目にしたのは、あたり一面に物と人骨が散乱し、砂漠にめり込んでそそり立つ、変わりはてたコンドル号の姿であった。謎に満ちたこの惑星でいったい何が起こったのか⁉ーー『エデン』『ソラリス』からつらなるファースト・コンタクト三部作の傑作のポーランド語原典からの新訳。 【目 次】 黒い雨 廃墟の谷間で コンドル 一人目 雲 ラウダの仮説 ロアン隊 敗北 長い夜 会話 不死身 訳者あとがき(関口時正) 解説 稼働する物語装置、星の啓示(沼野充義) スタニスワフ・レム年譜 黒い雨 廃墟の谷間で コンドル 一人目 雲 ラウダの仮説 ロアン隊 敗北 長い夜 会話 不死身 訳者あとがき(関口時正) 解説 稼働する物語装置、星の啓示(沼野充義) スタニスワフ・レム年譜
主人公デロンダの「アイデンティティ追求」の果てに 行き着いたユダヤ人問題、特異な男女の愛と背徳を ヨーロッパの時代風潮と交錯させ描いた一大ロマン…。 イスラエル建国問題で「歴史を動かした」と評され、 賛否の論争を巻き起こした問題作、新訳で登場! 「この小説で異彩をはなち常に賞讃されてきたのは グウェンドレンとグランドコートの描写である。 『この作品の並はずれた力はきわめて不愉快な男の描写にみられる』 (『英文学史』1927)とラフカディオ・ハーンは言っている」 (「解説」より)。
主人公デロンダの「アイデンティティ追求」の果てに 行き着いたユダヤ人問題、特異な男女の愛と背徳を ヨーロッパの時代風潮と交錯させ描いた一大ロマン…。 イスラエル建国問題で「歴史を動かした」と評され、 賛否の論争を巻き起こした問題作、新訳で登場! 「この小説で異彩をはなち常に賞讃されてきたのは グウェンドレンとグランドコートの描写である。 『この作品の並はずれた力はきわめて不愉快な男の描写にみられる』 (『英文学史』1927)とラフカディオ・ハーンは言っている」 (「解説」より)。
新年の始まり以降、この国ではだれも死ななくなった。高齢で衰弱する皇太后陛下、成功確実な自殺者、交通事故で十二分に息絶えたはずの人体、致命的な墜落事故…。死の活動停止を寿ぐ歓喜の高波の一方で、商売の材料を奪われた葬儀業界、死の不在によってベッドが不足する病院経営者、生と死の循環が滞る老人ホームなど、危機に陥る人々。国境の村では、生死の需要と供給を補うためにマーフィアが暗躍し、死を求める人々を国外に運びだす。悲喜こもごもの事態の中、テレビ局の会長の手元に紫色の封書が届く…。ノーベル賞作家による驚愕の思考小説。
ウッドハウスの全小説中、否、世界文学史上、もっともイカれていて、ハチャメチャで、ナイスなキャラの持ち主といわれたフレッド伯父さんが、あのブランディングズ城で大暴れ。英国ウッドハウス協会の「一番好きな短編」投票でも堂々のトップを獲得した「ゆけゆけ、フレッド伯父さん」もあわせて収録。
恋人なし。愛嬌なし。人生設計なし。 そんな“じゃじゃ馬"の前にあらわれたのは……。 <女性蔑視>疑惑のあるシェイクスピアの問題作『じゃじゃ馬ならし』を、 心の機微を描く名手アン・タイラーが、軽やかにしなやかにリトールド。 解説/北村紗衣 ケイトは、率直な物言いが世間に受けない29歳。エキセントリックな科学者の父と、15歳の妹の三人暮らし。植物学者を目指していたこともあったが、今はプレスクール教員のアシスタントをしながら家事を切り盛りしている。ブロンド美人で夢見るような表情を浮かべている妹は男子にもてるが、ケイトにはいまだに恋人がいない。そんなある日、父が、外国人の優秀な研究助手ピョートルの永住権を獲得するために、とんでもない提案をもちかけてきたーー。 【著者略歴】 アン・タイラー(Anne Tyler) 1941年米国ミネソタ州ミネアポリス生まれ。『ここがホームシック・レストラン』で1983年のピューリッツァー賞とPEN/フォークナー賞の最終候補に。『アクシデンタル・ツーリスト』は1985年全米批評家協会賞を受賞し、1986年ピューリッツァー賞最終候補作に(ローレンス・カスダン監督により映画化。邦題『偶然の旅行者』)。『ブリージング・レッスン』で1989年ピューリッツァー賞を受賞。2015年『A Spool of Blue Thread』でブッカー賞最終候補に。ボルティモア在住。 鈴木潤(すずき・じゅん) 翻訳家。フリーランスで翻訳書の企画編集に携わる。訳書にショーン・ステュアート『モッキンバードの娘たち』(東京創元社)、クリステン・ルーペニアン『キャット・パーソン』クロエ・ベンジャミン『不滅の子どもたち』(共に集英社)、シオドラ・ゴス『メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち』(共訳・早川書房)、テッド・ジョイア『ジャズ・スタンダード』(みすず書房、近刊)。神戸市外国語大学英米学科卒。
ショウは教会を襲撃して逃走した若者二人組を追跡していた。難なく居場所を割り出して二人を見つけ出したショウだったが、その眼前で一人が崖から身を投げて死亡してしまった。教会襲撃は冤罪で、いずれ疑いは晴れるはずだったのにー自殺した若者は“オシリス財団”なるカルトグループの研修を受けていたという。彼は洗脳されたのではないか。調査を始めたショウは、同カルトに関する記事を発表した記者が殺害されていたことを知る。“オシリス財団”が死の原因ならば、これ以上の犠牲を阻止せねばならない。ショウは身分を隠し、ワシントン州の山中にあるカルト施設への潜入調査を決意した。指導者イーライのもと、屈強な男たちが目を光らせるカルト村。ここで何が行なわれているのか。若者はなぜ自ら命を絶ったのか。この村に隠された真の目的とは?武器なし。外部からの援軍なし。24時間の監視下で、ショウの孤独な戦いがはじまる。「静」の名探偵リンカーン・ライムに続いて名手ディーヴァーが生み出した「動」の名探偵コルター・ショウ第二作。緊迫度、孤立無援度100%の傑作誕生。
恐怖小説の匠・三津田信三が描いた怪異が、海を越え、伝染し、やがて驚愕の真相に辿り着く。日本、台湾、香港を繋ぐ不気味な儀式。宿願が成就するそのとき、何が奪われるのか…。
待望の続刊 活写される人と世 充実の中盤 「リズムよく読める」「想像力が刺激される」と話題の上巻につづき四大奇書さいごの未踏峰、いよいよその頂へ 衣服、食物、男女、宗教…。微細にわたる圧倒的な描写を渾身の筆で受け止めた充実の訳文と、読みごたえある訳注。 生活感情をあざやかに追体験させる作者のするどい眼差し。
主人公のヴィは一家の末娘に生まれ、大切にかわいがられて育ってきた。そんな平穏な日々は政況の混乱により奪い去られ、故郷ベトナムからの脱出を余儀なくされてしまう。父を残し、国外へと逃れ、ボートピープルとしてカナダの地に降り立ったヴィを待ち受ける新たな人生の旅路とは…全世界でシリーズ累計70万部以上を売り上げ、29の言語に翻訳され、40の国と地域で愛されるベトナム系カナダ人作家キム・チュイの傑作小説、ついに邦訳刊行!